闇神性児第7部

水瓶

第2話 ギナダイアングル海の扉

 「Teleport」彼女は唱えると桟橋から波を視ていた。…心の中の感情は計り知れない。動植物なら生態系で分類出来るが人間の感情には裏切り、欺瞞等が在るから真実と闘う姿勢でしか判らない。

その怒りの矛先が何処に向うのか、何を守ろうとしているのか、それが信頼できる要因である。



 廃炉街の列なるビルの残骸を眺め彼女は記憶を遡る…居住区で病院に通い詰めていた時だった。家に帰りたいと泣いてた母が家に帰れた時は喋れなかった。暗闇の自室でしゃがみ込み床に額をぶつけ、切れて血が眼に入った…。涙は赤かった。


 …仕事場や外で幸せな人達と逢うと幸せを分けてもらえる。不幸せな人達と逢うと不幸せになる。愚かな人達と逢うと愚かさに閉口する。だから幸せな人達、賢い人達と混ざろうと接した。でも逆な人達が接近してきた。全てがどうにも成らないと思い始めた。その日から悪意に満ちた歌がバイブルになった。悪意の対象とは名のある者、強欲な者、嘘つき等、無邪気な子供や被害にあった不幸な人達以外、暴力、権力等力を持つ者や欲の強い人間が悪意の対象である。レジスタンスなのかも知れない。細やかなる!でも周りに集まるファンはそういう連中だった。


 「Teleport」!着地した場所は海から沸き上がった三角錐の塔だった。デルタトライアングルΔ⊿…比べることが嫌だった。あいつとあいつ、彼女と彼女、何故比べるかを悩んだ!結局優劣を人はつけたいんだ。上か下かそんなに重要か!それは情操の下劣な奴の戯言だ。だがその下らなさで社会は成り立っている。だから無秩序が法を超える社会を願う人達も存在する。残り滓の夢を集めて仲間と再び力を合わせなければ形など造れないだろう!

……Δ⊿が回転するとダイアングルになる、海の扉に誘われよう……


 彼女は奥に進んだ。追憶の鏡に映ると緑色の霧が辺りに立ち込める。

…これが海の上に浮かんでいるとは思えない。ダイアングルと呼べば良いのか!何故か昔の事が鮮明に甦る。触ると弾力のある素材で出来ている。そして…懐かしい香りが漂うとギナは過去に手を伸ばした。


…歌とは…愛する人に向かう感情の発信で無ければ意味がなかった。それ以外は排泄物だ。愛の素晴らしい力とは超越した願いがそこに存在するからだ。でも時代が歌に合わないというか、つまらない歌が世の中に溢れた。だから歌詞を変えた、下品な歌は下品なままだ、愛や平和自由をも超える歌詞は狂気だ!

レトリックで美しさに反抗する。もっと言えばメロディーも要らない。呻きだ!リズムも要らない。すると音楽でなくなる。すべて踏まえると究極は音楽も言葉も人間も要らない。世界も要らなくなる…!


ふう〜!極端な発想だ!彼女は頭を数度振ると正気に戻る。早くこの緑色の霧から抜けでなければ!


 花びらが息をする様に私は音を創っていた。あの時期は何だったのか!一緒に一つの夢に向かい情熱をかけた時間も今は個人の時間に支配され何も動きはしない。連携を失くすと全ては個人に帰依し結局何もしない。無駄な時間の浪費だ!個人で歯向かうには限度がある。怒りや夢は協調しなければ無だ。自然が創り出す事象に優るものはない、人間の欲望…程…浅ましく…醜く、それ故に人間は生き残る。


 

 緑色の霧晴れて広がる風景に私は導かれていく。…交差点の角を小走りに駆けてくる。いつも地味な豚鼻の律子が急に活発になったのは萬苔教で意識洗浄されてからだ。


 ヒダネは相変わらず地図を描いている。金や希望を描きたいと嘆いていた。あ〜世の中全てがあべこべだな!天使の心じゃいられないぜ!だらけた未来を蹴飛ばして心は言葉を破壊するだけだ。

胎蔵はメビリーを出てから交流もなく、律子は3人目を懐妊したらしい。暗黒芸人のヒダネは甘党だ。天に唾吐き受けて飲む一発芸で消え去った過去を笑い飛ばしてテーブルに暖かいお茶を置いた。今じゃおはぎや餡蜜売って甘味処で餡を捏ねているんだ。なぁ俺の恨みバージョンを聴いてくれ!ヒダネは萬苔教の胎蔵の降臨を預言する。もうじきな!きっと闇神となってあいつは戻って来る。何千億年経とうと呪いの言葉は尽きない。此の欲情塗れの世界で胎蔵の心は呪文めいた言葉を吐き闇の翼で空を駆け智慧のない再生を繰り返す筈だ。ヒダネは魂が何千億年彷徨って入る器を探したのかと説いてきた。俺は此の器で今は居るが未来は判らない。人や獣や木や石に仮初めの宿見つけて弾かれた日には風に巻かれて夢と現に水に成るかも知れないな。

泣きながらヒダネは胎蔵が戻れば他のメンバーも異世界から連れ戻せると基盤を溶接していた。生贄の基盤を切断して懺悔の禊に身を焦がす。萬苔本堂から連れ出せば降りる光りに葬られた祭壇の上の赤き瞳の羊の首に滴る血皿に手を延ばせる。

妄想人の狂宴は尽きなかった。変化の美貌に囁きに揺れる想いにさざめきに現実逃避の贖罪に泡の金貨に塗れ溺れて右舷の月に望するのだ。

さすれば富める力を手に入れ蓮華の光りの煌きに、焦げる地表に病める衆生に視える世界を変える事が可能だ!


……ふっ〜、…彼女は眩暈を憶えて其の場に跪いてしまった。

幾つかの幻覚が押し寄せる。

この塔を出なければ!Teleport!何度唱えても出れない。

…身体が急に縮んだかと思うと膨張する。明らかにこの部屋の大気のせいだ。繰り返す不安に観念して心を平静に保ち暫くすると落ち着く。恐怖が形を成すなら愉しい事を考えよう。

次はどんな世界に繋がるんだろう。

歩き進むと白い空間から指先が現れた。捕まる!駆け足で離れた次の瞬間!巨大な眼が幾千もの描写を見つめる。身体に気が集中する、深く息を吸うとお腹が凹み臓器が口から吐き出される。また吸い込む息を止め臓器が胎内に出ないように必死で止める。頭が破裂すると脳漿が弾け飛ぶ。止めて!幻覚を振り払い壁に凭れ掛かる。



……温かいお茶を飲みギナは呟く。

…私はただ待ち侘びていた。分からない形!あいつに教えられた視えなかった世界!扉を開けるのが怖くて鍵を隠した。金銀煌びやかな夜の宝石箱の底に眠る。萎れずにいる想い出は思春期に摘んでいた野の花の糸、香りも消えた押花だった。

……愛を忘れてからラブソングが出来ない。観覧車で笑うあの頃の声も聴こえない。あいつは本気だった。

泣きながら倒れて擦りむいた掌、私に渡せなかったリングは転がって溝に沈んだ。泥に沈んだ明日への希望。心ごとヘドロに浸ってしまったままね!私はそして愛の園という団体を創る。玉抜きを始めたきっかけも愛を亡くしたから……!



哀しい記憶は果てもなく続く。

ギナは故郷に戻った頃を懐かしんだ……!プレハブの小屋の前に積まれた鉄骨!廃材の山を超えると土に少し埋もれた土管を潜って子供達は日が暮れるまで、泥を勲章に冒険者の様に無心になって遊んだ。

あの頃の仲間達は違う世界で生きている。肉林や数人は人間屠殺場に勧誘されその後は不明だ。メビリー施設で育った子供達は互いに敵対する組織に分かれていった。同じ境遇で育っても人間に共通性はないのかも知れない。DNAが同じでも違う様に、環境や影響力のある人との出逢いで人格は形成されるのだろう!

……陽が当たっていればいつか花は咲くわ、咲かないのは陽が当たっていないせいよ。……!


台風の後メジロが二羽百日紅の密を吸う。雀の群れが大量死した舗道を歩き自宅へ戻る!窓を開閉し椅子に腰を下ろすと疲れが全身に襲いかかる。ため息が言葉になる。なぜ毎日無駄に過ごし生きるのだろう。

台所に立ち換気扇の音に記憶を触れる。フライパンの魚介脂にバイトの居酒屋で逢った客の言葉を手繰る。

私も時間の浪費家だ!爬虫類の肉にシロップをかけベッドを汚した性被爆者に視線を投げかけた。豹柄の布団から眠たげな顔で頷く少年に怒りさえ感じる。心で呟いていた。…ねぇあんた!性根が腐る前に何処へ辿り着きたいの。精根尽き果てる前に何か考える事はないの。…私が養わなければ此奴はどう成るんだろう。次の宿主を探すだけかも……!死んでみなければ分からない。寄生虫が云う口癖は聴き飽きた。



 午后のチャイムが響き学童の声が往来を行く。窓の隙間から沈丁花の風が室内にたまる。真新しい靴下を衣装箱に仕舞った指に針が刺さる。痛い!声が漏れた。まだ荷札が付いたままだ!こんな所にピンが!エンリコの好きなボーダー柄!

いつか愛用する様になっていた。


 駅に着くと列車が入線していた。

久し振りの帰郷に胸躍る。同窓会報せで何年振りだろう。ヒダネや玲子と二時間も話し込んだ。沙織は相変らず萬苔教の世界制覇を律子と共に画策している。世界がぶっ壊れる日を願っていた。夕闇の街道の追分で南に行けば校舎、東の区民会館横の文房具屋で寄り道しよう。鉄工所と倉庫の広場を抜ける。錆色の空が重たい。懐かしいなぁ…まだ、いちご消しゴム売ってるなら買いたいなあ〜!


 地皇陛下と海皇陛下は空中ビジョンで覇権を競い合う。この世界は天国のない地と海に支配されていく。

6番目の爵位、公、侯、伯、子、男爵の次の爵位、無爵が平民に溢れる。彼等は歌う。人生に疲れたら死ぬ事は考えず、楽しく泣こうよ!嫌な時ほど笑いましょう!


 空を見上げる空って何で出来ているんだろう。組成は知らない方が夢がある。なんでも成分、細かい事が分からないから良いんだ。

……廃炉難民の映像が作り物のお涙頂戴でも泣けてくるのは何故だろう。それは自分の生活が彼等より恵まれているからだ。

果実売り場の葡萄林檎果汁で幸せを感じギナは微笑む。裏の荷捌場でトラックが発進してくる。避けた時、橋の方角に黒い影が翔ぶ。内臓を抉れた鳩が転がる帰り路、公園では裸の少年が砂場に埋まっていた。岡持ちが投げ出され中に靴が入っている。出前の帰りに捕獲されたのか!

女が数人集まりジャンケンで順番を決める。何の順番だろう。性地獄に嵌まる幼児誘拐未遂の少年は裁きを受けるのだろう。ベンチに座る七十代の婆さんが観察記録を書いている。処女膜は残っているのか!ギナはクモノス婆さんと首輪をつけた幼女にその後再会する不運を其の時考え様も無かった。


 菜の花集めて遊んだら

 うなじに掠る風の音

 辺りは日翳り 蟲の声 

 灼けた香ばしい草の薫り


 私は野原で両手を拡げ

 青空吸い込み深呼吸


 土砂降りの雨の中!エンリコはルンペンの陰囊を剃刀で切開すると睾丸を酢漬けにして保存した。

翌週、ルンペン仲間からバラバラに報復され乞食餅付き大会に𦥑の中で叩かれ頭蓋骨毎ミンチにされた。

人間餅出来上がる。晩餐会で振舞われた。先週の御馳走は猫餅付き、来週は満月なら犬餅の予定だ!


♪王刃ギナ 心中浜辺


殺したいのよ あなたの事を

冥途で夫婦に成りたいの…



  

縁日で廻る風車 色違いの羽の裏側

小さく書いた願い事 君は気づかず

川に投げたね 僕等の愛の一時を


縁日で買った風車 ブラスチックの儚さに 

君と巡った愛は棺に眠る真夏の風物詩……


金銀細工に飾られた 夢の小箱を踏みつけろ 鍵が壊れて 開かないならば…


村の縁日〜街の縁日〜海の縁日〜森の縁日〜梢〜鳥〜獣〜浴衣〜金魚すくい〜綿飴〜かき氷~扇子〜鼻緒〜切れた鼻緒に銀ヤンマ


ヒダネは飯屋で地の光り(祠)

富める力を手に入れる

草の香り立つ滝壺で

君に滴が翔んで付いたね

真夏の日差し 桃源郷


♪〜ヒダネはピンクの毛虫が棲む街で玲子と出逢った、!



…左手の指先が疼く、なんか熱を帯びている様だった。魔物の指紋が…

書庫に繋がる扉を押した。


…エンリコ魔死闇 一族

血の掟、富をもたらす魔の契り!


初代エンリコは知恵遅れの農夫だが、畑に死んだ赤子を埋めている時、頭に剥製鵞鳥を載せた白い眼の魔物と知の契約をした。玉蜀黍の束と死んだ赤子とスコップを剥製鵞鳥と交換すれば知恵を授けるというのである。痩せ細った嘴が天を仰ぐ剥製鵞鳥は魔物曰く百年に一度金の卵を産むという。魔物の頭皮に足が食い込んだ鵞鳥をエンリコは自分の代では産まないと思ったが強引に剥がした。物々交換は成約した、魔物は剥がれた頭皮に赤子を載せると玉蜀黍とスコップを抱え立ち去った。

エンリコは曇っていた頭が晴れると朝焼けに感謝した。早速知恵を働かせ剥製鵞鳥を点検すると寒そうなので毛布に包み室温も25度で数日間管理した。


 異変は翌日から連なるように起こった。血を抜かれたり、臓器を喰われたり、魂を抜かれたりして、納屋の鶏が獣に襲われ、ある日は羊が衰弱死していた。

剥製鵞鳥は少しばかり血色が良くなったようだ。数日後今度は牛が木乃伊の様に干乾びた。

なんと剥製鵞鳥が歩いているではないか!?

不思議な事も在るものだ。その朝、卵を産んだ。

日付を記述し飼育方法など百年後の代へと観察記録を綴った。


2〜4代目までは墓に埋めた先代遺骨や鵞鳥と2つの卵を守ってきたが5代目が農作業中に強欲な隣家の男に鵞鳥を盗まれてしまった。

犯人は分かっていたが自分の敷地に入ってきたので所有権は在ると突き放された。

嵐の日に鵞鳥が前触れもなく納屋に戻っていた。隣家男が血相を変えて怒鳴り込んできた。飼っていた鶏舎の鶏が全滅したと言い、鵞鳥の首根っこを掴み絞め殺してしまった。

5代目が言い争い草刈り鎌で斬りつけると、二人とも機械の歯車に巻き込まれ亡くなる。血の海に浸った鵞鳥は甦ると二人の肉を喰らい歩き始める。

6代目は事故死した二人を手厚く葬る。その後、掘った穴に落ち生き埋めになる。

窓から室内の塒に着いた鵞鳥は痩せ細ると剥製に戻っていた。

7代目が欲から墓を暴き金の卵を割ると中から魔物の目玉が転がった。

卒倒して墓石に頭をぶつけ亡くなる。

剥製鵞鳥を受け継ぐ者は皆40代で事故死していた。

8代目は父親の所業を悔い改め魔物の目玉、金の卵を研究する学者になった。

剥製と成っていた鵞鳥は百年毎に確実に卵を産んだが9代目の時、寿命で灰となってしまった。

灰は壺に入れエンリコ家の墓に埋葬した。

10代目は墓整理をして供養した。

宗教家になった11代目から20代目まで物語を編み萬苔経典が編纂された。

灰鵞鳥の土に金の卵を埋め観察、嵐の後、小さな芽が出て人面草が育つ。観察!鳥が穿り根魔が見つかる。観察〜研究〜実験!根魔の茎から球根人間、実験!根魔人!


エンリコは萬苔経の開祖者、26代続く魔と智慧の家系!歴代エンリコ達は金の卵と家人の骨を埋め花壇を造る。其処に低木根魔の木を植えた。根魔の木は年老いて曲がり土に刺さりアーチになり実となる宝玉を吊り下げた。瓜の様な宝玉を割ると出てきた蟲は樹皮に棲み着いた。

明け方に空が割れると緑色に赤い斑点の在る苔蟲に変わった。

苔蟲は根魔の樹を食荒らし枯れさせると無数の卵を風に乗せ山々へ飛び立った。




……ギナの幽体はメビリーの書庫にいた。渦高く積まれた学術書の横にエンリコの本を発見する。宗教の棚に隠れる様にそれは存在していた。

手に取ると痺れた。赤い本の表紙は魔物の頭皮であった。

指に付着して離れずそのまま指紋の一部になる。幽体がもう一つ近付くと指を見せ合う、玲子の幽体も同じ指紋であった。語られる先祖の著書、萬苔教の歴史にギナは陶酔した。


書庫のサロンで語らう陰があった。

ギナも胎蔵も顔付きが転生の譜面を見てから変わったね!本のあいだからヒダネが話しかける。あの子達は愛を嫌って生きてきた子だから、

玲子は長い髪を束ねると答えていた。

…ファンは愛の糧にはならなかったのかな!

…少しはなったけど心を懐柔する程では無かった。

…でも彼等が転生するには愛は不要だろう。

…憎しみの愛はね…純愛はべつ!

魂から人が恋しいって彼等が分かるまで、…その時…エンリコのイノセントが溶け込む。宇宙を感じて転生出来るの…エンリコの魂の中に吸収されて一体化する。


なに深刻な顔しているの!姿を現すとギナは幽体から本体に戻る。

ひらひらと記憶の断片を取り出さないで!ギナは玲子に近付くと魔物の指紋を摩った。足許から実像を表し玲子はギナの横顔にふうっと息を吹きかける。……こんなふうな夕暮れだったわ。私が初めて愛した人を破滅させたのは!相手を強く抱擁して接吻して身体に念を送り骨を振動させる。

粉状に砕いて鼻腔や肛門から抜いてしまう。

玉抜きが出来ればなんて事もない。

上手く行くと相手は水母や紙屑みたいに崩れ落ちる。玉抜きは陰茎から吸い上げるの結構エグい!骨抜きを会得しなさい、あなたが性器接吻が好きなら無理強いしないけれど…!

ギナは首を横に振った。あれは…フールヤリエ。あの娘の特技、好きでもない相手に恨みを晴らすためやっていたビジネス。会員制性サービス愛の園も解散したし、フールヤリエは職を無くしてしまったわ!

彼女なら直ぐ会得するわ!

くすっと笑いを漏らしたギナは不安定な幽体と実像を交差した。

…私に骨抜き…出来るかしら、肺活量がかなりいるわ。訝ると骨の成分コラーゲンを吸い取るんでしょう…

と考え込んだ。

面白そうだけど出来るかな…獣人なら訳無いけどね…樹子が頭を過った。いつの間にか書庫の出口にたどり着いていた。もやもやとした視界が明けると実像を取り戻す。

此処なら…Teleport!彼女は唱えると塔の入口に着いた。



メビリー追憶編……


 薄墨色の空に背中の翼と左右の翼で翔ぶ灰蛾蝶が現れた。机に肘を付き生徒達は来るべき災厄も知らず微睡んだ。

植物講師の玲子はメビリー養護院で子供達と接していた。…図鑑を開いて!みんな!人々はまた感染して亡くなったけど、頑張りましょうね。涙で押花湿らせてもう一度蝶が来る蜜ある花に戻しましょうね。

昔には戻れないけど今を残す努力をするのよ。

次のページよ!ミスミ君!芸人になるのに走り回るだけじゃだめ!知識も膨らませて。

椿は一重八重があるわ。桃紅白の色の中であなたはどれを好むの。

ニクリンはまたトイレに逃げたのね。アソコをまた延ばしているのね。ホッシー!口をもぐもぐしてるの。セミを捕まえて食べたのね。

あなたは本当に昆虫食が好きね。萬苔蟲は害虫だから食べても良いわ。もうじき溢れる程翔ぶからね。


 授業は彼等には退屈だった。

ただ一人ギナだけは玲子の植物の時間が好きだった。

玲子さん!

なに 王刃さん!

ギナで良いわ!

なに ギナ!

萬苔蟲は成虫になるとムゲンチョウに成るってほんとう!

ええ!経典の絵巻に描かれている確率では100万分の1

観ることができるかしら。

私達の時代に!

すると闇神が降臨すると言うわ!

稀少種の人間が再び地上を支配出来るかもね!

今は異種がのさばっているから肩身が狭いわ!

鳥獣種や魚介種、此処にも居るけどね!

仲良くなんて出来ないわ。種が違うと理想が違うから!

共存は難しいから最終的には分かれて此の星で暮らすのでしょうね!

ギナは悲しかった。何故一緒に暮らせないの。此処では一緒なのに。


空が急に歪み始めた。

あなたも視えるフィルターが私達と同じ!いいえ…もっと超えた未来を視ているのね。

今は盲目も必要、

此処…メビリーでは…!

ごめんなさい

今の伝達は…!



ギナは聴こえなかった振りをした。

空が星をくっつける時間ね。なにを二人は感じあったのだろう。

玲子は会話の続きを戻し悲しく囁いた。血の問題かもね 平静心を彼等は感情で無くし怨みに生きるから、

種族の違い、歴史が血を継ぐ問題だわ…!彼等は支配された因子を受け継いでいるから。

 



 魔女が持ってる魔法の鋏知ってる!?切ったものが増えるんだよ

院長のメビリーさんが抽斗に隠すのを見たよ、庭の花を切るともう一枚増えたんだ。

廃炉空地では子供達が切断ごっこをして遊ぶ。

ホントだろ、紙でもお菓子でも倍になる。小さくなるけど増えるんだ!

じゃああの娘も増えるかな、みんなの人気者だから何人も欲しいね。

そうだね~!、

ニクリン!

誘ってくるから切って増やそう。

そうしよう!

翌週

バラバラの娘が発見された。

増えたね…

ボク 頭 もらう…

僕は胴体…

ホシオ君は手足でい〜よね!

うん ほかの子も増やしたいな

メビリーさんのハサミ

楽しいな 

もっと増やそう

ホッシーは聞いた

此処は僕等の家だよね

うん 裸でご飯が食べられるからな


砂場に首まで埋まった猫が鳴いている。此の捨猫の眼をスプーンで抉ると再生するかな、ニクリン!

耳や舌を切ると延びるかな!

ホッシーガリマセン!

馬小屋のポニー!チンチン切ると穴開いて穴が口と繋がるんだわ!

馬小屋に行こう!

なぜ鋏が抽斗で、スプーンが馬小屋なの!

2つ分けて隠して在るのよ…!

3人の秘密だよ、



♪蛆盛滓太夫……


通り賑わう買い物客で店のレジは忙しそう。蛆盛滓太夫は蛆手指が触れた物が蛆になる。森林から月に一度村に降りてはスーパーで並べられた生鮮食品を傷ませる。昼下がりメビリーの自習時間が終わり子供達は商店街を走り回る。ついでに盗みも働く。公園で戦利品を並べる。八百屋で盗んだのは臭いね!変な爺が触って虫を入れていたよ!

あそこのベンチで弁当喰ってるあの爺だ。

ホッシーが近くに寄ると砂を掴み弁当に振りかける。爺!喰え!

爺はホッシーの頬に蛆を這わせる。

ありがとう…お返しだよ!

ホッシーは蛆をポケットに仕舞うと仲間のもとに戻る。

これ〜!貰った!メビリーの鋏で切って増やそうね!


電車乗る人って金持なんだろう!

悔しいな〜!

ホッシーは草叢でうんこを丸めると電車に向かって投げた。

クソ〜っなんで僕はメビリーの外に出れないんだ。ホッシーは涙を流し電車に糞を投げ続けた。


肉林、ホッシーが大人を切り刻んだのは蛆盛滓太夫が最初だった。

二人で近くの川に投げて喜んだ、

ホッシー!あの爺さま、鋏で増えたね!切ったら虫が出てきたね!

肉林!一つが八つになるなんて…!

滓野郎!蟲爺!川で魚の餌だね!

魚、喜ぶね、肉林増えたね 増えたね!



♪ギナ家出〜メビリー養護院!


 私は両親から何度も殺されかけたわ!その理由は私が養女だから、3歳で貰われた時は可愛がられたわ。でもその後に不妊治療の効果が出て双子が産まれ冷たくされた。

森に置き去りにされて捜索願いが出されたのも3日後!妹達が出来てから誕生祝いも無くなった。

…越智くん!あなたインコ飼っているの。いいな〜!私もペット欲しいって父さんにねだったら穴のあいたザルを虫籠だって渡された。好きなの捕まえておいでって…!母さんに言ったら芋虫籠に入れられた。

妹には猫を2匹買ってあげるのに!

越智くん!誕生祝いにインコ買って貰ったのでしょ、いいな……?

越智いんこ見たいな!ってねだったら越智君はお金くれと要求したの。

ふざけんな〜!おちいんこみせろ!首を絞めると半べそをかきながらズボンを下ろした。なに勘違いしたのか、おちんこを見せた。私は腹立たしさに引っ張ると遊んだわ。

すると彼のは伸びて紐の様になった。首に巻き付けてやると同期から告げ口された。

先生に注意されて両親に報告されて目一杯怒られた。

越智君の親からも怒鳴り込まれた。

越智はその後、いんこと呼ばれた。

私は小学生から色気づいて将来は性被爆民だと言われ、罰として其の日からパンツをマスクにされた、両親は私を追い出したかったのよ。

真冬の寒さに耐えきれず家出したのは8歳の時だった。

そして…行き場を探しメビリー養護施設に紛れ込み生きながらえた。

数年後に越智(酒池)肉林も家庭崩壊か私を苛める為にやって来た。

でも顕かに精神が崩壊していた。記憶も無くしていた、だからこそ院の生活も続けられた。



 メビリー養護院に着てから4年後に事件は起こった。

合唱曲の練習中ギナは急に奥歯が痛みだす。合唱の最中ギナだけが壁の中に死者の姿を視る。

女の声域と男の声域を歌いこなすと別の領域につける人もいるわ!

迷信だけどね、玲子は話したがギナには迷信ではなかった。

合唱の後半、突然ギナは呻きと共に第二の声域に到達すると顎が外れ唇が裂けて神の声域と呼ばれる神声臨界に着く。玲子は痙攣して忘我の境を彷徨うギナの肩を揺すった。

…ギナ!だめよ!それ以上、声域をあげたら壁から別の生き物も出て来てしまう!

ギナは9オクターブを歌うと唇が耳まで裂ける。人に見られたくないため天空を仰ぐ。

ECSTACYを感じ歌唱するとアクメが起こりステージで失神する。


……まさか、彼女が…最近トイレの便器が焦げているの!

酸性のおしっこをする娘が何処かにいる。床に倒れかけたギナの下腹部に流れる強い酸の臭いに確信した。

あなた!男性と交じってはだめよ!

相手のシンボル 焦がしてしまうから!最高の瞬間に相手が不能者になる!……あなたにエンリコの呪縛が感染したとは!


森で自生した苔茸、苔蟲は苔茸を食べて蛾蝶になる。宇宙に翔び萬苔教、鵞鳥!エンリコが魔物と交換した鵞鳥になる。鵞鳥は卵を産み終えた500年後、蛾と蝶に分かれて帰巣する相手を探す。

ギナ!あなたの中に戻るのね!

床にしゃがみながらギナは玲子を見上げた。

かも…知れないし…玲子さん…ほかの女性器かも…!

いいえ…!子宮に超酸性の粘液を持つあなたしかいないわ!

受け入れなさい!其の日を……!


* *


 去來する記憶の断片を整理すれば、再び赤い桟橋に辿り着く。やっぱり此処から始まるのか!


……続く…



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