26話 公安局 異能特異対策課
「それで……どこから話すんだ?」
俺と帝はそれぞれ椅子を1つ空けて席に座っている。向かいには学校で帝と戦っていた小柄な女性と俺たちをここまで連れて来たスーツの男。そして、部屋の外にはスーツの男の部下らしき人間が二人いた。
「改めて自己紹介をしよう。私は公安局の異能特異対策課の課長をしている木ノ下だ。こちらは同じく異能特異対策課のメンバー、有間君だ」
「それより、これ……外してもらえないんですか?」
そういって自身の両手を上にあげる。学校からここに連れてこられるとき、両手に手錠ではなく見たことのない物を取り付けられた。手錠よりも大きく両手全体を覆うような装置だ。
「悪いがしばらく我慢してもらいたい。こちらとしても君たちに敵意が無いことは理解した。しかし、今の君たちにはある疑いがかかっている」
「疑いだと?」
「あぁ……」
帝は訝し気に問いを出し、木ノ下という男はそれを肯定する。
「正しくは君にではなく、君だ。愚上 零君」
「俺?」
「この映像を見てくれ」
そういって木ノ下は手元に置いてあったノートPCを開き、画面をこちらに向けて来た。画面にはおそらくスマホの映像だろうか、手振れのせいで映像は見ずらい。画面越しに何かを話しているのが分かる。話の内容からして撮影者はコメントを読みながら外で配信をしているのだろう。
「これは……」
どこかで見たことがある。そう思いながら映像を見ていると突然、画面端の建物の窓ガラスが割れて中から人が飛び出して来た。背中に大きな翼を携え人を掴みながら滑空して向かいの建物に突っ込んでいった。
「この日、一般人から人が空を飛んでビルに突っ込んできたという通報が4件、人のいない雑居ビルで人が死んでいるという通報が1件、そして謎の人物がビルの壁面に鎖でぶら下がっていたという通報が1件」
「……」
「……」
俺と帝は黙って映像と一緒に木ノ下の話を聞く。どのみち拘束されているので何もできない。
「君たちは……この男を知っているか?」
「こいつは……」
出された写真にはある男が写っている。肌は黒く焼けていて頭はスキンヘッド、首元や手の先には血管の浮き出た筋肉が見えている。
この男はあの日、悪神を尾行した場所に元々居た男だ。名前は分からないが確かこいつは悪神に……。
「この男は
「知っている。あの日、悪神と戦って殺された男だ」
「悪神か。……君は殺していないのか?」
「あぁ」
「それを証明できるものはあるか?」
「それは……」
それを言われると言葉が詰まる。俺が疑われているという事はあの雑居ビルには監視カメラ等は設置されていなかったのだろう、そうなると無実の証明が厳しくなる。状況的には何の関係もない俺がわざわざ男のいたビルに行き、別の男に掴まれながら向かいのビルに突っ込みそのまま消えたという訳の分からない状況だ。
「零のDNAを採取して鑑識に送れば、無実を証明が出来るだろう。零はその男に触れてすらいない、皮脂や髪の毛が付いていなければ証明にはなるだろう」
帝が口を開き、隣から向かいの二人に提案をしてくれた。確かに俺は写真の男に触れてすらいない。DNAは付いていないはずだ。
「相手に触れることなく殺すことが出来る異能力者も発見されている。彼がそう言った類の異能力者ではないと言い切れるか」
「それこそ、あんたらの言う検査でどういう異能力者か判別すればいいんじゃないのか?」
「そうだな。あとで検査を受けてもらうのはこちらも考えていた」
「なら、なぜ俺も拘束した?」
そうだ。帝はなぜ拘束されているんだ?まぁ……見た感じあの女の人とひと悶着あったようだが、お互いに怪我しているという訳ではない。こんどは木ノ下という男ではなく、有間と言う女性が口を開いた。
「貴方は公安の潜入捜査官を見破り、さらに異能力者という事も判明しました。異能力者は一時的に拘束をしてその能力を判別してから個人情報をリストへ登録することになっています。滞りなければ1時間ほどで終了します」
「六法にそのような法律は存在しない、つまりこれは不当な逮捕に当たるのでは?」
「えぇ……ですが、我々の業務は異能力の秘匿であり、異能犯罪の抑制です」
「理由になっていないな。『解けろ』」
「!?」
帝が手元の器具に命令して拘束を解除する。それを見た有間という女は腰の辺りから銃を抜いた。
「今すぐ手を机の上に起きなさい」
「誰に対して命令している」
帝はわずかに怒りの感情をチラつかせながら両手をポケットに突っ込んだ。俺は殺人の容疑を掛けられているので拘束は妥当だと思うが、帝からしてみれば無実の身で拘束されていたことになる。
「銃を下ろせ。有間」
「しかし……」
「この状況で争い合うのが一番の悪手だ。奴の言う
「……
「『世界』を知っていると言っていたな」
世界。このゲームの元凶であり、俺が最初に会った異能力者。何故か聞く人によって姿や性別が変わる不可思議な人物で特に有用な情報は持っていない。
「まずは……そうだな。異能について君たちはどこまで知っている?」
「は?」
「異能力……超常的な能力であり、現在日本で確認されている異能力者は100人にも満たない。しかし、年間で1万件ほど通常の物理法則では説明のつかない事件が起きている。そういった事件を異能犯罪事件と言う。我々はそういった警察では扱いきれない事件の解決、および異能犯罪の抑制をするのが仕事だ」
「へぇ……」
まぁ……異能力という超常的な物が存在する以上、そう言った組織があるのは当然か。
「異能力には主に2つの性質がある。1つ目は身体能力の向上。これは君たちにも覚えがあるはずだ」
「まぁ……」
「そうだな」
確かに今まで会ったことがある異能力者は少なからず人外のような身体能力をしていた。帝のように異能力で身体能力をさらに引き上げる者もいれば、細い腕で俺の腕を掴んで離さなかった朱音ちゃんのような例もある。
「2つ目は異能力の解釈についてだ。異能力は発現してからその能力を使用すればするほど異能力の解釈が広がるという性質だ」
「なんだそれ?」
「……」
帝は思い当たる節があるのか黙り込んで、考え込んでいる。俺が異能力をはっきりと知覚したのは最近なのであまり関係ないと思う。
「例えば君の異能力は他者や物体に命令することが出来る能力だろ?」
「……なっ!?」
帝は目を見開いてあからさまに驚いた素振りをしている。帝は自分の異能力を無暗に話すような奴ではないので、何故向かいに居る男がそれを知っているのか分からないといった様子だ。
「驚いているようだな。君の異能力の命令するという部分。命令する内容や対象は能力を使えば使うほど拡大していくはずだ。それが解釈の拡大」
「なぜおまえは俺の異能力を知っている?」
「これら2つの性質は……異能力を継続して使用するほど高まっていく」
「『答えろ』!」
帝が声を荒げる。威圧感、というのを生まれて初めて体感した。人に命令する才能というのだろうか人の上に立つべくして立つ人間だと改めて思う。
「私の異能力は異能力者の個人情報を知ることでその異能力者の異能力を知ることが出来るという能力だ。君ほど有名な人物であれば個人情報を手に入れることは容易だった」
「チッ……そういうことか」
確かに帝はネットに顔写真が載っているほど有名でいくつか帝に関する記事を見ることもあるくらいインタビューなども受けている。
「有名人も大変だな」
「あぁ……今後は避けるようにしなければ」
「課長、何故ご自分の能力を……」
「すまない。彼の能力でうっかり……」
なんか変な空気になってしまった。最初はお互いに尋問する気満々でいたが、今ではなんとなく雑談のような雰囲気になってしまった。
「とりあえず……これ、外してもらえません?」
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