27話 戦争は続くよ、どこまでも
「紹介しよう。右から
「どうも」
「よろしくお願いします」
木ノ下さんと同じようにスーツを身に付けた男女がそれぞれ挨拶をしてくる。
「愚上です」
こちらも軽く会釈だけして挨拶を返す。帝はと言うと……。
「……」
見て分かれと言わんばかりのオーラを出している。どうやら帝は生まれてから縛られたことがほとんどないため拘束されるストレスに慣れていないらしく、珍しく不機嫌だ。
「それで……皆さんも
「あぁ、正確には私と有間君は参加者で、他のみんなは協力者にあたる。私たちの元にも『世界』と名乗る人物が現れた。その人物の話では数字を持った異能力者同士の殺し合いが東京で起きているというものだった」
「……最後まで残った異能力者に『世界』を与えるとも言っていた」
あっ、やっとしゃべった。さっきまで睨むようなしかめっ面だった帝が口を開く。それに続くようにお互いの情報を話していく。
「それが本当かどうかは分からないけど、これに参加しないと各々、大事な人を殺される可能性があるわけですよね」
「まぁ……そんな感じの事は言っていたわ」
なら大事な人が居ない人は何を条件に参加させられているんだ?ルールの穴はいくつか気になるところはあるが、直接世界に聞いてみない限り分からない。
「……そこでだ」
木ノ下さんが会話に区切りをつけるために割り込んできた。
「君たちは我々に協力して頂きたい。この
「まぁ……良い……」
「その前に2つ聞いておきたいことがある」
「何かな?」
「何を持って終結とする気だ?もし、参加している異能力者の全滅を持って終結とするのならば俺たちはいずれ敵対する。もう1つ、この
俺はそこまで考えずに了承しようとしていたが、帝が細かいところを確認しに行く。にこやかだった顔が一瞬で強張るのを確認できた。
「
「出来る限り?」
「君たちにとってはありえない話だが、無実の一般人を殺害したなどはさすがにこちらも擁護しきれない」
「まぁ……さすがにそこまで狂った人間ではないが……良いだろう。
「もちろん、そのつもりだ」
こうしてなんやかんやあったけど、とりあえず警察のお世話になるのだけは避けられた。
+ +
「明日までにこの資料に目を通して置け」
「えぇ……」
公安の人たちから渡されたらしい
公安の建物を出るとすっかり外が暗くなっていて、急いで家に帰った。家では案の定、お腹を空かせた朱音ちゃんが倒れていたので急いで夕食を作ってなんとか復活させることが出来た。
「お風呂空いたよ」
「うん」
スマホに表示されているファイルをスクロールしながら確認していく。
先月起きたビルの損壊だけでなく、異能犯罪者収容施設の襲撃、それに伴う異能犯罪者の脱走、女子高校生の失踪事件、など関係がありそうでなさそうなものも含まれている。
「……
主に六本木を拠点にする半グレ集団「ライオット」のリーダーであり、過去10年で少なくとも15件の事件に関わっているとされている。数年前、一度逮捕されたときに異能力が判明。その後、異能特異対策課が定期的に監視していたが約1か月前に悪神によって殺された。
「異能力は……硬度操作」
自分自身だけでなく、周りの物体などの硬度を操作することが出来るというもの。これにより筋肉の強度を増幅させ、圧倒的なパワーとスピードを発揮する上、体表の皮膚を硬化させることで拳銃等の弱い小さい銃弾程度ならば弾くことが出来るらしい。
「木ノ下さんと……有間さんも異能力者」
木ノ下さんは俺たちの前で言っていたように、異能力者の個人情報を知れば知るほどその異能力者の異能力の詳細を知ることが出来る能力。ゲームにおける番号はⅪ『正義』。
有馬さんの異能力は変身。自分自身の体を遺伝子レベルで変質させることが出来る。他人に変身することはおろか、存在しない人間の姿に変身することも出来る。どうやら1か月前から高校に居た野中先生はこの世に存在しない人間だったらしい。数字はⅡ『女教皇』。
「誰?その女の人」
「有馬さん」
聞かれたので素直に答える。
ふと、隣に暖かい感触がした。甘い匂い、まだ濡れたままの髪をタオルで覆った朱音ちゃんがソファの狭い空きスペースに座って来た。
「どうしたの?」
「……別に」
朱音ちゃんの頭がタオル越しに触れている。まだ少し暖かい。まるで擦るかのように頭を揺らしている。
「早く乾かさないと……」
「……うん、そうだね。お兄ちゃん」
+ +
同日 午前2時1分 新宿駅前
駅に入っていく人間、駅から出てくる人間、店に入る人間、スマホを片手にその場で突っ立て居る人間。深夜だというのにまだまだたくさんの人間が居る。
「よっ……」
「君……どっかで会ったっけ?」
「覚えてねぇよな」
「まぁ……女の子なら覚えられるんだけど……男の顔はなぁ……」
その瞬間、目の前の男が殴りかかって来る。大ぶりの拳は届くことなく空を切る。ガタイが良い癖して女の子みたいなパンチだ。
「ん?」
「がっ……っ……は」
何故か男は殴ったままの姿勢で固まったままになっている。
「あのさぁ……何がした……!?」
男の首に巻いてあるチョーカーが赤色に光った。その瞬間……。
爆発した。
轟音と熱波を生み出しながら爆発した。爆発音の残響と周囲の人間の悲鳴が合わさって独特なミュージックを奏でている。男の体は炎に包まれている。苦しみ悶える隙さえ無く絶命したことが確認できる。
当然、その男の至近距離に居た悪魔も死んでいるはず……いや、死んでいて欲しい。
「ふぅ……」
「チィッ……生きてんのかよ」
「何?俺が生きてると何かダメなことでも?」
「俺の精神衛生が良くならない」
「どうでもいいじゃん」
すべての言動がむかつく。何故だろう。まるで魂自体がこいつの存在を否定しているかのようだ。
「それよりさぁ……ちゃんと調べたの?」
「サボり魔のてめぇじゃねぇんだ。ちゃんとやったつぅの」
「いやぁ、可愛い女の子に逆ナンされちゃってて」
「死ね」
悪神はニヤニヤとしながら歩き出した俺の背後をついてくる。別にあの爆発した男の後始末は警察にでも任せておけばいい。これから聞き出した情報の裏を取らないといけない。
「てめぇも仕事しろ。ボスにチクんぞ」
「僕も仕事ならしてるよ。さっきの男。先日潰した敵組織の構成員だ。多分、刑務所にぶち込まれてたはずなんだけど……」
「あ?なんで、そんなこと知ってんだよ」
「悪魔は相手の思考を読めるし、悪魔の目は相手の感情を読める。それに潰した相手くらい覚えるって」
「そうかよ。叩きつぶした相手なんざいちいち覚えてねぇよ」
爆発の後を見ようと駆け出していくもの、危険だとその場を離れていくもの。とりあえずスマホのカメラだけ向ける馬鹿。色んな人がいろんなリアクションをしている中、煙草に火を付けつつ人の流れに逆らって歩く。横で悪魔が呟く。
「なんで……あのチョーカーみたいなのは光ったんだ?」
+ +
「これは始まりだ」
この爆発事件を皮切りに東京では爆発事件が多発した。合計で281件。死者負傷者併せて2075名。
首謀者は……『死神』の兄。
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