24話 謎の女
『女教皇』……タロットカード大アルカナ2番目のカード。
知性の高さや冷静さが、プラスに働くことを示します。勉強関係の質問で出ると幸運です。
神経質に考えすぎることがマイナスに働くことを示します。知性や判断力の低下を招くことになります。
+ +
悪神と戦った日から1か月ほど経過したある日。
「あっ……愚上君。さっき野中先生が読んでたよ?提出物で話があるって……」
「え?マジ。ありがとう永遠さん」
授業が終わり帰ろうとしていた時、永遠さんに呼び止められた。野中先生とは化学担当の教師で数回しか会ったことがない。担任を持っていないので授業以外だと会う機会が限られている。
「でも、化学の授業で提出物ってあったっけ?」
「いや……無かったと思うんだけど……。まぁ、とりあえず行くよ。ていいうか、帝がどこに行ったか分かる?」
教室を見渡すが、帝の姿が無いことに気付き、隣の席の永遠さんに話の流れて質問する。
「そう言えば、居ないね。どこに行ったんだろう?」
「あっ……皇帝様ならなんか授業終わりに急いでに出て行ってたよ」
思い出したように教室を見渡す永遠さんの前の席に座っている、お友達が代わりに口を開いた。いつもなら帝はしっかり帰りのHRが終わるまで席にいるはずだが、今日は居ない。
「どこ行ったんだ?」
+ +
「野中先生、あなたの経歴について少し調べさせてもらった」
「何を言っているの皇君」
「貴方は大学を卒業し、教員免許を取得後この私立高校に就職した。教員免許も確かに本物だった、しかしあなたの出身大学に在籍していた記録が存在しなかった。大学に残っていたのは貴方という人間が卒業したという記録だけ。卒業以前の記録は何処にも無かった」
「……」
返答なし。図星だな。かなり時間を掛けて調べた甲斐があった。
「それにこのレベルの私立高校に就職するにはそれなりの経歴が必要だ。教師になりたての人間が簡単に就職できるほど甘くはない。この高校の理事長とは何度が話をしたことがあるが貴方の情報については頑なに話そうとしなかった」
「……何が言いたいの?皇君」
「以上の事を踏まえると貴方の立ち位置がわずかに浮かんでくる。教員免許の偽造だけでなく、大学のデータベースの改ざん。そして、この高校には政府の官僚の子供、財閥の跡取りなど立場の高い人間の子供が何人か在籍している」
「……っ」
さすがに言い逃れは出来ない。言い逃れなどさせない。だからわざわざ教室から遠い、この化学実験室まで呼び出したのだ。
「貴方は政府の人間である可能性が高い。教員免許の偽造だけならまだ他の可能性もあった。だが、国立大学のデータベースまでも偽造するとなると相当の地位が必要だ。ましてやこの高校に侵入するにはいろんな審査が必要になる。それらすべてを掻い潜るには、ただ裏社会に通じているだけでは不可能だろう」
カチッ。
「ん?」
元野中先生ただは立っている。音のもとは目の前の元野中先生の手元だ。彼女は手の中に黒のボールペンを握っていた。そのボールペンの芯を出す音だ。何故だ?この状況で何故その行動をとる?
「すごいですね。学生という立場でここまで調査できるなんて。さすが、日本一の財閥の御曹司」
「認めるという事か。悪いが貴方の本当の身分を明かして欲しい」
今、このタイミングで身分を隠した人間がこの学校に侵入してきた目的を推察すると、答えは1つしか思い浮かばない。
異能力者だ。
「貴方は一体……」
「……総員、突入!」
「……っ!?」
謎の女の号令により、教室の窓ガラスが割れる。首を振って周囲を確認する。暗い色の迷彩服、防弾ベスト、フルフェイスのヘルメットそして携帯した小銃。完全武装の兵士。まずい。
「『動くな』!」
「……なっ!?これか……」
「……チッ。『我が足は金剛』」
2階の端にある筈の教室に突入してきた兵士は4人。全員に命令することでとりあえず拘束する。体の自由を奪われた兵士が声を上げている間に自身の足を強化して足元にあった椅子を思い切り蹴る。蹴られた椅子は元野中先生の方に飛んでいく。
「ふっ」
しかし、元野中先生は手の甲で椅子を振り払う。椅子はバキッという音を立てながら床に落ちた。兵士共はまだ動けていない。彼女が動けるという事は、これで彼女が異能力者であることはほぼ確定。
「なっ……!?」
目の前の謎の女は懐から銃を取り出した。銃身の先端には筒状のものが取り付けられている。それだけも驚きだが、そんなことが気にならなくなるくらいの事が目の前で起こった。
「顔が……」
両手で銃を構えている謎の女の顔が変わっていた。先ほどまでは若干垂れた目に丸い顔の
いや、顔だけじゃない。体型や身長も変わっている。おそらく……。
「異能力か……」
ブシュッという銃には似つかわしくない音を何度か立てながら、謎の女が発砲した。姿勢を低くしつつ袖を顔の前に持ってきて命令する。
「『硬化しろ』」
服に命令することで銃弾らしきものは服に当たると甲高い金属音を立てながらどこかに弾かれる。意識を服から離すことで命令を解く。先ほどまでまるで金属化のように固まっていた制服が元に戻る。
「チッ……」
「ハッ」
謎の女は銃を下ろして接近してくる。そして、銃を持っていないフリーの腕で俺の顔面を狙ってくる。それを上体を逸らして避けつつ、左の足を彼女のあばら目掛けて蹴り上げる。
「無駄です」
「やっぱり、訓練を受けているな」
彼女は俺の蹴りを足を上げて膝のあたりでガードした。それに合わせてカウンターで銃を持った方の肘を振りかぶってから俺の顎めがけて振った。それを何とか受け止めるが、間髪入れず銃床でこちらの顔面を殴ろうとしてきた。
「させるか」
「っな!?」
実験室の机の上の置きっぱなしになっているビーカーを思い切り天井に投げつける。天井に衝突したビーカーは当然、割れた。そして……。
「『加速しろ』」
重力加速度に則って落ちてきていたガラス片に命令することで殺傷力を増幅させる。相手は格闘術にかなり精通している。訓練を受けた人間だ。手加減をしていては勝てないだろう。殺す気で行く。
「くっ……離しなさい!」
逃がさないように自爆覚悟で受け止めていた方の腕を掴んでいたが、謎の女はそれを剥がすかのように飛び上がり空中で後ろ回し蹴りを使ってきた。
彼女の踵が俺の腹に突き刺さる。蹴られた衝撃で後ろに後退すると同時に彼女の手を離してしまった。彼女は蹴った反動で落下するガラス片を避けていた。
「ふぅ~、『崩れろ』!」
「なっ!?」
一息ついてから彼女の頭上にあたる位置の天井に命令する。崩壊した天井が彼女に落ちていく。しかし彼女は後ろにバク転をすることでそれを避ける。
「『我が腕は金剛』」
天井だった瓦礫を踏みながら謎の女に追撃を仕掛ける。
「お返し」
「フンッ」
彼女は近くにあった背もたれのない椅子を俺の方に投げつけた。最初に俺が使った手だが、大したことはない。強化した拳で椅子を粉砕する。
「……これなら」
拳を振り抜いた無防備な状態。それを彼女は見逃さなかった。再び銃を撃つ。弾丸が迫ってくることは認識できるが、人間である以上反射神経には限界がある。
「『止まれ』」
「大人しくしなさい」
銃弾を止めたが彼女は銃を持ったまま、懐から小ぶりなナイフを取り出した。彼女は小柄な体格を生かして俺の懐に素早く潜りこんで来た。ナイフをこちらの喉元に滑らせてくる。
「『軟化しろ』」
「何!?」
ナイフを防御するために刀身を握る。しかし、掌から血は出てこない。刀身がまるでゴムのように柔らかくなり、ぐにゃっと変形した。
「動ける奴から撃て!」
「しまった!?」
彼女の攻撃に対して意識を割き過ぎたため兵士に対する意識が薄くなってしまった。そのせいで命令が解けてしまった。
「撃……ガッ……」
割れた窓から誰か入って来た。その人物が一番窓際に居た兵士の頭を蹴り、壁に激突させた。
「手、貸すぜ。帝!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます