おまけ話 『愚者』の『世界』
何故か今日、俺は女の子とファストフードの二階の席で向かい合ってハンバーガーを食べています。向かいの女の子はいつも学校で隣の席にいる
「やっぱ照り焼きが一番美味しいね」
「確かに」
美味しそうにハンバーガーを頬張っているが、実は彼女が食べているハンバーガー実は二個目である。俺がポテトとハンバーガーを食べている間にLサイズのポテトとハンバーガー1個を平らげてしまった。
「何?」
「いや……何でも……無いです」
「……っ!?こ、これは違うからね。いつもは普通のサイズだけど……今日はお昼あんまり食べられなかったからお腹すいちゃって……」
いつもは見せない稀な感情。恥じらい。普段はそう言った女の子らしい反応を見せないので少し新鮮に感じる。
「そういう日もありますよ。俺も思い切り食べる日だってありますし」
「そう?なら良いや見られても」
そういって持っていたハンバーガーに食らいついた。周りには俺達と同じように学校終わりに立ち寄ったと思われる学生や仕事が早く終わったのかスーツ姿の男性が居る。この時間にしては人が少ない方だな。
「それより、良かったの?いつも皇君と一緒に帰ってるけど……」
「あぁ、まぁ……最近はあいつもやることが多いって言ってたんで……」
「あいつねぇ……皇君のことあいつなんて言うの愚上君くらいだよ」
「そうなんですか?」
「うん。皇君ってあの皇財閥の御曹司でしょ。入学した時はいろんな人が仲良くなろうとして話しかけてたんだけど……」
+ +
「よう、俺〇〇〇って言うんだけどよろしくな」
そういって彼が手を伸ばす。しかし、皇帝は目線すら動かさずに一言。
「あと何秒しゃべるつもりだ?」
「!?」
+ +
「って言って周りの人全員引いてたんだよ」
「あいつそんなこと言うのかよ」
正直想像は出来るがそんなこと言うタイプには見えない。よほど絡み方がうざかったのか、それとも何か別の理由があったとかだろうか?
「でも、愚上君と一緒の時はそう言うこと言わないよね。愚上君、皇君とどうやって出会ったの?」
「えぇ……っと、前の学校でいろいろあって仲良くなりました」
「具体的には?」
「う~ん、ちょっと説明が難しいっすね」
何とかこれで誤魔化せるか?ダメならもう少し具体的な嘘話をしなければいけないが……。
「まぁ……いいや。わざわざ詮索するほどの事でもないしね」
永遠さんにはさすがに話せない。ある日、異能力者という都市伝説のような力を持っていると言われて同じような力を持つ人間と戦わされて仲良くなった相手が帝ですとは言えないしな。
「この後、時間ある?」
永遠さんはハンバーガーの包み紙を折りたたみながら質問してきた。すでに2つのハンバーガーとLサイズのポテトを食べ終わり、残すのは同じくLサイズのソフトドリンクのみとなった。
「一応、夜までは時間ありますよ」
家では朱音ちゃんが待っているため夕食の時間までには帰らないといけない。今は17時近いので2時間ほどは時間に空きが出来る。
「じゃあさ、遊びに行こうよ」
「え?」
+ +
「そこそこ、今!」
「はい」
ゆっくりとクレーンが景品の方に降りていきアームの部分が景品の端を掴んだが……。
「あぁ……」
「惜しいっ」
景品の重さに耐え切れずアームから景品が零れ落ちてしまった。これで3回目、どうやら3度目の正直は無かったらしい。
「どうします?諦めます?」
「いや、まだまだ」
そういって永遠さんは硬貨を筐体の投入口に入れていく。どうやら諦めきれないらしい。
「ほら、そこ」
「はい」
「よし、そのまま」
「はい」
ゆっくりとアームが降りていき景品を掴む。今度は端ではなくど真ん中を捉えた。ゆっくりアームが引き上げられて行く。そしてアームは大きな穴の上までそれを運び、景品を落とした。
「よしっ」
永遠さんは右手でちいさくガッツポーズを取った。急いで景品の取り出し口に手を伸ばす。景品を取り出して確認する。それは大きなぬいぐるみと同じキャラのストラップの2つが入った箱でキャラクターが大きくプリントされている。
「はい、あげる」
「えぇ?大丈夫ですよ。永遠さんのお金で取れたんですから……」
「でも、3回も払わせちゃったし……あっ、じゃあ……」
「ん?」
永遠さんは景品の箱を開け始め、中から小さなストラップを取り出した。
「こっちあげるよ。私、同じようなストラップ持ってるから」
「良いんですか?じゃあ……」
遠慮しすぎるのも良くないと思い、取り出されたストラップをもらっておくことにした。ふと周りを見るが、周囲に人は居なかった。下手したらカップルみたいに見えてしまうと思ったがそんなことは無かった。
「じゃあ次は……」
「まだあるの?」
「フフフ……やっと敬語外れたね」
「え?……あっ……」
いつの間にか口調が砕けているのに気付く。基本女子と話すときは緊張して敬語になってしまうが、何故か永遠さんの前だと緊張が無くなっていくように感じる。
「これからは敬語なしで行こうよ。せっかく隣なんだから」
「まぁ……永遠さんがそれでいいなら」
「さんって……まぁ、いっか」
名前の呼び方を途中で変えるのは割と恥ずかしいので、しばらく呼び方はこのままになりそうだ。
「ほらっ……あっちのプリクラ行こ?」
「あっ……ごめん。もう帰らないと……」
「そっか……もう時間か……じゃあ、しょうがない」
そろそろ帰って夕食を作らないといけない時間だ。
「また……学校で……」
「じゃあね」
+ +
夕方の帰宅ラッシュのはずなのに人が全然居ない電車に揺られながら思考を巡らせる。
「……」
なんで永遠さんは俺とあんな風に遊んでくれたんだろう。正直、席が隣って理由だけで学校帰りに遊びに誘ったりするんだろうか?ただ単に永遠さんが優しいという可能性もあるが……いや、永遠さんは俺にだけ優しいわけじゃなくてみんなに優しいだけだ。勘違いすんな。
でも……いつもより楽しそうな顔してたような……。
いや無いな。
+ +
「ただいま……うわっ!」
「零、お腹すいた」
家の玄関の扉を開けると目の前に朱音ちゃんが立っていた。最初に会った時のようにくすんだ眼をしながらボーっと立っていた。
「ごめん、すぐに作るから待ってて」
そういって靴を脱ぎつつポケットに入れていた手を抜こうとすると何かが落ちた気がした。
「ん?……ちょっと待って」
「何?」
「ナニコレ?」
「え?」
俺が落ちたものを確認しようと下を見ると同時に、朱音ちゃんは腕を掴んできた。床に落ちてしまったキーホルダーを拾って質問してくる。
「あ~それは……友達とゲーセン行って取った景品だよ」
「その友達は男?女?」
「え?女子だけど……」
「あっそ」
何故か拾ったキーホルダーを持って早歩きで部屋のほうに戻って行ってしまった。
え?なんか……盗られたんだけど……。
+ +
「あっ……世界戻しとかないと」
少女は周りを見ながら、ポツリと呟いた。
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