第15話 愚者は死神と寝る
「やっぱり、出てこない」
「よかった~」
ほっと一息つく。彼女が「死神」を発動しようとしたが、彼女の傍にあのノイズじみた死神は出てこなかった。
「やっぱり……死なないの?」
「まぁ……異能では死なない……のかな?」
「そうなんだ」
(まぁ……耳は削られたけど)
そう心の中で呟きながら左の耳を触る。耳の上の辺りが若干、歪な形になっている。傷は癒えたが傷は残ってしまった。
「それより、部屋決めないと」
昨日、同棲することが決まったが未だに朱音ちゃんの部屋が決まっていない。彼女は昨日リビングにある二人掛けのソファで丸くなっていた。おそらく今日、ベッドが届くと思うので先に部屋だけでも決めておきたい。
「えっと……俺の部屋は一応、あそこ使ってるんだけど」
そういって、リビングに一番近い部屋を指差す。まぁ、一人だったから自分の部屋でも無いが。少女はリビングから辺りをキョロキョロと見まわす。
「じゃあ……あそこで」
彼女はリビングと玄関を繋げている廊下の一番近くにある部屋を選択した。これで3つある小部屋のうち2部屋が埋まった。
「じゃあ……とりあえず届いてきた荷物、運んじゃうね」
「私もやる」
その後二人で荷物を運んだり、部屋の掃除をしたり、昼食を食べたりした。
+ +
「……え?今日は届かないの?」
≪あぁ……発送が遅れているらしい。何とか頼んで明日には届けてくれるらしいが≫
帝からの電話を取ると驚きの内容だった。なんと配送業者の諸事情で発送が遅れたため、届く日時が1日遅れるらしい。
「まぁ……分かった。じゃあな」
《あぁ》
電話を切る。朱音ちゃんは心配そうにこちらを見てくる。
「どうしたの?」
「ベッド……今日中に届かないらしい」
「大丈夫だよ。昨日と同じようにソファで……」
「いや、さすがにキツイだろ。俺がこっちで寝るから朱音ちゃんは俺のベッド使って」
「でも……おにい……零さん、私より身長大きいしさすがにキツイんじゃ……」
彼女は時々、俺の事を「お兄ちゃん」と呼び間違えることがある。戸籍上では俺の妹に当たるらしいが、今のところかなり距離を感じる。同じ家で暮らしてみて分かったが、会話のほとんどがよそよそしいし、名前を呼ぶときもさん付けだ。
「まぁ……一日だけだし」
「……一緒じゃダメ……ですか?」
「え?」
+ +
「じゃあ……電気消しますね」
「うん」
部屋の電気が消える。視界が暗闇に包まれる。何も見えないが隣からベッドにもぐりこむ音は聞こえる。隣の人がわずかに体を動かすたびに仄かに甘い香りが漂ってくる。俺も使っているシャンプーのにおいだ。
「……ンンッ」
大きめの咳ばらいをして雑念を払い、何とか寝るために精神を落ち着かせようとするほど目が冴えていく。
「……実はね。昨日、全然眠れなかったの」
「え?」
「寝ている間に死んでないか心配になるんです」
「誰が?」
「貴方」
「俺?」
隣で寝ているのは分かるが部屋は暗いのでどんな顔をしているのか想像つかない。周囲の雑音がないため、声がいつもよりはっきり聞こえる気がする。
「私と一緒に居た人はみんな死んじゃいました」
「……」
今は聞くことに徹する。彼女の事を何も知らない俺は何も言えない。
「こうやって人と一緒に寝るの……久しぶり」
「……」
「あれ?寝ちゃいました?ならいっか……」
俺が黙ってばかりいるので寝たと勘違いしたのか話すのをやめてしまった。起きていることを伝えようとすると……。
「!?」
彼女の肩が俺の腕に当たる。このベッドは割と大きめなのでどっちかが端に寝ていれば身体が当たるという事はないはずだ。そして、今俺はベッドの端に居るはず。
「……ん」
「……」
このままにしてあげよう。昨日、狭いソファで寝させてしまったんだ。今日くらいのびのびと寝てもらいたい。
+ +
「フゥー」
黒のジャージに身を包みサングラスをかけた男が付けている黒マスクをずらして煙草を吸っている。その隣の男も同じように全身黒ずくめの男が電話を耳に当てながら立っている。
「あぁ……分かった。そろそろ通るぞ」
「了解」
煙草を吸っていた男はその煙草を地面に落として足の裏で消火した。黒マスクで口元を隠し、サングラスで目元を隠した男二人が防犯カメラも街灯も設置されていない暗い夜道で待機している。
「来たぞ」
「おう」
二人は立ち上がり、指定された場所に向かう。ある人物を襲うためにもう二人の仲間と挟み撃ちにする予定だ。
「あれか……」
「行くぞ。一人だからって油断すんな」
+ +
≪あぁ……発送が遅れているらしい。何とか頼んで明日には届けてくれるらしいが≫
≪……あぁ≫
皇帝は電話を切る。目線を前に据えると男が二人立っていた。恰好は黒ずくめ。私服にしてはいささか似合わない。なぜなら二人とも顔を隠しているからだ。
「ん?誰だ……」
「あんたが皇家の御曹司、
「まずは先に自分の名を名乗るのが礼儀だろ」
「俺たちは名乗るものでもない。下っ端だ」
先に声をかけて来た男の隣に居た男が口を開く。片方はサングラスと黒マスク、もう一人は目出し帽で顔を覆っている。
「大人しくしてれば半殺しで済むけど、暴れれば死にかけてもらうからな」
「……大人しくしてろよ」
「……」
男が近づいてくる。手には警棒らしきものと手錠。
「『動くな』」
「がっ……何だこれ?おいっ」
「ちっ……何か仕掛けが……」
目の前の男二人は体をピクリとも動かせない。命令の効き具合から見て、非異能力者だろう。おそらく依頼主からは俺が異能力者だとは教わらなかったのだろう。
「1つだけ聞こう。誰から依頼された?」
「お……俺は何も知らない」
「俺たちはただ指令されただけで……」
「『黙れ』」
「ん……んんーー」
目出し帽の男の口を異能で塞ぐ。なんとなく目出し帽の方の男は話が通じなさそうだと感じたため、サングラスの男の方を尋問する。
「さて、お前が知っている情報を……『吐け』」
「
「みなしね……皆死ね?まぁ……良い。他の仲間の居場所と……車もあるだろう。『言え』」
「あぁ……」
男は嗤う。
「お前の後ろに二人」
「……そうか」
後ろを振り向く。二人の男と同じような格好をした男がさらに二人、自分の後ろから鉄パイプを振りかぶっていた。
「チィッ……情報を吐かないならもういい『揺れろ』」
サングラスの男の脳みそを振動させて気絶させる。男は振動の影響で涙と唾液をまき散らしながら意識を手放した。
「こいつ、殺してもいいだよな?」
「あ、あぁ」
「さて……そうだな。こっちにするか」
息を吸う。右の男に意識を向ける。呟く言葉はただ一言。
「『捻じれろ』」
「ぇは?……ぎゃああぁぁぁあぁぁぁ」
右の男は悲鳴をあげる。何故なら、男の腕が本来、ありえない方向に曲がっているからだ。それもただ曲がっているのではなく、何周も捻じれている。骨と筋繊維がねじ切れる音が夜道に響く。
「ひっ……な、なんなんだよ」
もう片方の男は鉄パイプを下ろして、逃げ腰になっている。こいつは殺さないことにしよう。何も情報を得られなければこいつらのような馬鹿が同じようにやって来るだけだ。
「情報を『吐け』」
「は、はいぃいぃぃい」
恐怖心で抵抗力は皆無。こいつは簡単に情報を吐くだろう。
+ +
「そうか」
「は、話した。全部、話したんだ。殺さないでくれ」
「あぁ……殺しはしない。死ぬほど痛んでもらうが……」
「ひっ、や……やめ……」
「『押し潰れろ』」
「ぴ……ピギッ……」
目の前の男は変な声を上げながら地面にめり込んでいく。馬鹿は治るが、アホは治らない。こうして見せしめにでもしないとしつこい。ピクリとも動かない4人の男を放置してその場を後にする。
「愚か者共が……あの世で死神と寝ていろ」
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