第7話 新しい学校生活
「えっと、愚上 零です。諸事情があって転校が遅れましたがよろしくお願いします」
「はいっ……という事で新しくクラスに加わることになった愚上君です。仲良くしてください」
学校生活は第一印象が大切だと前の高校で学んだが、俺はなんとなく誰とも目を合わせないよに教室の後ろの壁を見ながら自己紹介をした。声も聞こえているのか分からないくらいだ。
「席あそこね」
「はい」
そういってクラスの隅っこに用意されていた空っぽの席に向かう。いつもとは違う空気。地方の高校とは全く違う。なんだか全員頭が良さそうな顔をしている。
「ではこれで朝のHRを終わります」
そうして担任の教師が教室から出ていった。生徒たちが一斉に立ち上がったり、話始めたりしている。しかし、俺は一切知り合いなどいない隔離された環境にいるため誰とも話すことが出来ない。
「あの……愚上君……だっけ?」
「あっ……はい」
「珍しい苗字だね」
「あっ……よく言われます」
ダメだ。コミュ障なので話す前に「あっ」と言ってしまう。隣の席になったのは女子生徒だった。柔らかそうな物腰に優しそうな声だ。いきなりマジマジとは顔を見られないのでパッと見ただけだがそれだけでも分かるくらい美しい顔だった。
髪はボブ?というのか長くはない。片側の髪を耳にかけている。
「分からないことあった聞いてね」
「えっと、名前聞いてもいいですか?」
「そうだった。ごめんね。私、
「しもせさん……」
事前に渡されていたクラスの名簿を見ながら名前の漢字などを確認していく。
出席番号21番 下世 永遠。
「下世さんですね。よろしくお願いします」
「下世って言いづらくない?永遠で良いよ」
「えぇ……じゃあ、永遠さんで」
愚上零、高校二年生。新しい学校でさっそく友達が出来ました。
+ +
「うっそだろ……」
朝のHRを終えてさっそく授業が始まった。しかし、俺は黒板を見ながら固まっている。今、黒板でやっている数学の授業の内容は明らかに前の高校の先を行っている。俺がまだ学習していない分野の問題が平気で出てきている。
「やっべぇ……そう言えば教科書もねぇよ」
帝は俺より斜め右の遠くの席にいるため教えてもらうことも出来ない。さすがに都内の高校は勉強の進みが早すぎる。
「大丈夫?」
「え?」
「まだ教科書持ってないの?」
「はい、ホント今日こっちに来たんですけど前の高校の教科書と違ってて……」
何とか目立たないように小さめの声で会話する。黒板の前では数学担当の教師が例題を書いている。
「そっか……じゃあ見せてあげるよ」
「いいんですか?」
「あなた達、例題は解き終わりましたか?」
いつの間にか数学の教師が俺と永遠さんの間の前に立っていた。例題を書き終わったので教室を回りながら、問題の回答の進捗を確認しているらしい。
「あっ……先生。愚上君、教科書持ってないみたいなんで見せてあげてもいいですか?」
「あら、そうなの。なら見せてあげてください。下世さん」
「は~い」
返事をすると永遠さんが机を近づけてくる。俺もそれに合わせて机を近づけていく。何だかアニメの転校生のテンプレ見たいなことをしている。
「これで見える?」
「はい、ありがとうございます」
「そんな敬語とか使わなくていいよ」
「は……うん」
永遠さんの話術がすごいのか、俺がチョロすぎるだけなのか、だんだん距離が近づいている気がする。俺もここまですぐに仲良くなった人は初めてかもしれない。
+ +
「疲れた~」
数学の授業は何とか乗り切ることが出来た。分野は先に進んでいたが2年で学習する分野には変わりないので理解することは出来た。前の高校では一応成績は上位の方にあったので学習面は大丈夫かと思っていたがそんなことはなかった。
「トイレってどこかな」
朝は緊張していたため感じなかったが緊張が解けると同時に尿意が湧いてきた。隣の席の永遠さんは別の友達と会話しているので聞きづらい。
「帝は……」
斜め前の方に居る帝の席を見る。帝は小さな本を開いてそれを読んでいた。席を立って帝の席の方に向かう。俺が転校生だからなのか周りの生徒はチラチラとこちらを見ているような気がした。まぁ……普段クラスに居ないやつが急に教室に居たら違和感くらい覚えるだろう。
「なぁ……帝」
「!?」
クラスの一部でどよめきが起きたような気がする。周りの生徒も急に黙る人が多くなった。
「ん?なんだ」
「トイレってある?」
「あぁ……廊下に出て左手にあるはずだ」
「分かった、ありがとう」
俺はそのまま教室の出入り口から廊下に出ようとするが、何故かさっきより視線が多い気がする。何故か永遠さんもこちらを見ている。やけに緊張するので少し急ぎ足でトイレに向かう。
+ +
「ふぅ~」
トイレから帰ってきて席に戻ってからも何故か視線を感じる。俺、何かした?だんだん不安になって来る。
「……ねぇ、」
「はい?」
永遠さんと一緒に話をしていた女子生徒が話しかけて来る。名前は分からない、背が小さいというのが第一印象だ。
「君、皇さんのお友達?」
「まぁ……友達ですね。あいつが俺の事こっちに連れて来たので」
「え゛?マジ?」
「は……はい」
そう言うとその女子生徒は距離を詰めて来たのでちょっと椅子を後ろに下げて下がる。女子生徒は訝しげな顔をしながらじっとこちらを見てくる。俺は顔を逸らして目を合わせないようにする。
「えぇ……
「皇帝様って……あいつ、友達いないんですか?」
「いや~いないって言うかみんな怖がってるって言うか」
「最初はみんな友達になりたがって話しかけに行ってたんだけど、皇君って話し方が高圧的だからみんな怖がって近づかなくなっちゃったんだ」
横にいた永遠さんが補足するように説明してくれた。確かにあいつの話し方は高圧的だし命令口調が多いが俺はそこまで怖いと思ったことはない。もしかしたら帝は異能のせいで意図せず他人に命令してしまうことがあるのかもしれない。
「そうなんで……え?」
帝の方を見ると何故かこちらの方を見ていた。これだけの距離があるので会話の内容は聞こえないはずだが。いや、帝にそんなのは関係ない。自分の体に命令して聴覚を高めればよいだけだ。
「え?なんか皇帝さまこっち見てるんですけど。やばっ、聞こえてたのかな?」
「えぇ……聞こえないでしょ。この距離は」
永遠さんとその友達は当然、異能力のことなど知りもしないので聞かれていないと思っている。
「さ……さぁ?」
聞こえているのか聞こえていないのか分からないがとりあえずこれ以上余計なことを言わないように黙っておくことにした。
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