第41話 アスレチック渓谷の攻略開始
私たちはVITを起動したまま、アスレチック渓谷のダンジョンに入りました。
ダンジョンといっても、完全なる密閉型ではなくて、洞窟と森と小高い丘を合体させた平地だと思ってください。
ほら某不思議のダンジョンシリーズみたいに毎回形が変わるわけですから、地形のバリエーションが豊富なんですよ。
では今回のダンジョンが、どんな形なのかといえば、林と小川を組み合わせた一本通路ですね。
うーん、まさに低難易度。
たぶん私たちのレベルが低すぎるせいで、複雑なマップに変化しなかったんでしょう。
とはいえ、ただの一本道じゃありません。その道中には、冒険者たちを妨害する数々のアトラクションが待ち構えています。
ちなみに、なんで入り口の段階でダンジョンの形を把握できるのかといえば、すぐそこにある石板に全体マップが表示されているからですよ。
親切なダンジョンですねぇ。これなら初心者でも安心です。
ただし、このダンジョンを作った古代の魔法使いの狙いは、ぶっちゃけ親切はあんまり関係ないです。
では古代の魔法使いの狙いとはなんなのか?
ちょうどそれがわかる出来事が発生しそうですよ。
僧侶のレーニャさんが満面の笑みで宝箱を発見したんですが、それが問題でした。
「ねーねーユーリュー! いきなりお宝発見したんだけど! ……ってこれ宝箱から魔力を感じるから、まさかミミック!?」
といいながら、レーニャさんは大きめの石ころを拾って、宝箱に投げつけました。
がつんっと宝箱に石ころが衝突すると、ぱかっとフタが開きまして、ぼわわーんっと白い煙が噴き出してきました。
やがて煙は、ターバンを巻いた魔人の姿に収束しました。
魔人は、ふっふっふっと自信満々に鼻を鳴らすと、こう言いました。
『布団が吹っ飛んだ!』
典型的なオヤジギャグですよ…………あまりにも寒すぎて、うちの配信のコメント欄が完全にフリーズしたじゃないですか。
しかも魔人は満足していないらしく、さらにオヤジギャグを畳みかけてきました。
『トイレにいっといれ!』
うっわ、寒すぎ……なんで真冬の屋外みたいに空気を冷やすんですか。
どうやったらこの痛々しい魔人を追い払えるのか悩んでいたら、なんともう一度オヤジギャグが飛び出しました。
『眼鏡をとったら、目がねぇ!』
どうやらオヤジギャグ三連発で満足したらしく、魔人は『アディーオス!』と言いながら、ぼわんっと煙に包まれてようやく消えてくれました。
はー、たった数秒の出来事であっても、最悪の時間でしたね。
戦士のアカトムさんが、空っぽになった宝箱を蹴っ飛ばしました。
「さっきの魔人ってさ、この洞窟を作った古代の魔法使いの残留思念だよね。まったく、百年近く前に亡くなったはずなのに、なんでいまだにあんなバカなことをしてるんだろう」
あんなバカなことを繰り返すことこそが、古代の魔法使いがダンジョンを作った狙いなんです。
俗っぽく表現するのであれば、かまってちゃんなんです。
例の魔人ですけど、生前は魔法大学の優秀な学長だったんです。
しかし奥さんと不仲だったせいで、定年退職したあと寂しい人生を送ることになってしまいました。
友達もいないし、趣味もないので、暇つぶしのために得意の魔法を活かして、アスレチック渓谷を作ったんですね。
だからダンジョンの入り口に石板型のマップが設置してあるんですよ。
もし冒険者が道に迷ってしまったら、暇を持て余した老人のところにたどりつけないじゃないですか。
うーん、典型的な定年退職を迎えた高齢者が濡れ落ち葉になっていく過程ですねぇ……。
しかも学長は強力な魔法使いだったせいで、彼が死んだ後も残留思念がかまってちゃんを繰り返すわけですから、いやはや濡れ落ち葉の最強格みたいなものですよ。
まぁそのおかげで、私たちみたいなダンジョン配信者が潤うわけですから、社交辞令的に感謝はしていますよ。
学長ありがとうございます、ということで、ダンジョン攻略に戻りましょう。
武道家のシーダさんは、良くも悪くもオヤジギャグに関心がなかったらしく、魔人を無視して罠の探索を続けていました。
「ユーリュー、あそこのでっぱり、トラップ床ではないのか?」
おやっ、本当ですねぇ、あれはなにかしらのトラップを内包した床ですよ。
どうやら私たちは最初の罠に遭遇したみたいですね。
暇を持て余した高齢かまってちゃんの作った罠が、どれぐらいふざけた内容なのか?
次回の更新をお楽しみに。
***ダンジョン配信では広告収入を得るためにCMが流れます***
帝国魔法大学より教職員募集のお知らせです。魔法を学問として研究するためのスタッフを募集しています。ゼミを開催して学生の指導も行ってもらいます。なお寒いオヤジギャグは禁止です。
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