第40話 不思議なダンジョンって書くだけなら著作権セーフ!

 私たちは、受注したクエストを攻略するために、地方都市の南へやってきました。


 そこそこ険しい渓谷です。それなりに豊かな森林と、魚を釣りやすい川と、地元民であれば簡単に登山できる山が特徴ですね。


 そんな初心者向けの土地に、ぽっかりとダンジョンの入り口が開いています。


 ダンジョン名は【アスレチック渓谷】です。


 モンスターは、ほとんど出ません。


 罠も、ほとんどないですね。


 お宝だって、ほとんど出現しません。


 このように熟練の冒険者であれば見向きもしない条件なんですが、とある理由によりダンジョン配信向きの内部構造になっています。


 古代の一風変わった魔法使いが設計したため、侵入するたびに内部構造が変化するんですよ。


 某不思議なダンジョンシリーズみたいなものですね。


 トル〇コとか、シ〇ンとか、〇スカとか、チョコ〇とか。


 目指せ、百万回遊べるダンジョン配信!


 ……パロディネタとメタ発言が増えてきたのは、作者の本性が露わになってきたからであって、私は悪くないです。本当です、信じてください(善人を騙すために純真な瞳を強調)


 と、軽い冗談をかましつつ、本題に戻るんですけど、とにかくアスレチック渓谷はダンジョン配信向けなんですよ。


 だって簡単に挑める難易度でありながら、入るたびに内部構造が変化するんですから、何度でもお手軽に配信できるじゃないですか?


 実際、ほとんどのダンジョン配信者は、このアスレチック渓谷で撮れ高を稼ぐことが定番になっています。


 私たちと因縁のある、おパンツお色気配信パーティだって、ここがホームグラウンドですからね。


 あいつらと同じ場所で配信するのは、正直気に食わないんですけど、でも私たちは駆け出しの配信者ですし、流行は抑えておかなきゃいけないわけですよ。


 私はVITを起動する前に、パーティーメンバーたちに一声かけておきます。


「みなさん、もうすぐ配信開始ですよ。準備はいいですか?」


 僧侶のレーニャさんは、珍しく当たった馬券をぶんぶん振り回しました。


「当たり前よ! 今日もたくさんお客さん集めてたくさん稼いで、ギャンブルにつぎ込むわよ!」


 相変わらずギャンブルばっかりですねぇ、この不真面目僧侶は。


 まぁいいでしょう。労働意欲が高いことは良いことですから。


 戦士のアカトムさんは、いつものようにパーティーグッズの鼻眼鏡を装着しました。


「こうやって変装して身バレを防ぐと、ちょっとずつ気が大きくなってくるから、油断大敵だね」


 いいんですよ、騎士階級の隠された本能みたいなものが表に出ても。


 ほら、ジェダイの騎士もフォースの暗黒面に落ちるじゃないですか、あんな感じで。


 おや、読者のみなさん、もしかして『なんで異世界ファンタジーの主人公が、突然スターウォーズのネタを引っ張ってきたんだ』って思いました?


 はっはっは、そんなナイーブなフェイズはとっくの昔に終了して、闇鍋みたいな作風を楽しむ時間帯なんですよ。


 さぁ私と一緒に地獄まで落ちましょう!


 武道家のシーダさんは、私の隣に立ってから、とある方角を指さしました。


「ユーリュー、ときどき虚空を見つめながら、ぼそぼそ喋ってるけど、あちら側に誰かいるのか?」


 あちら側には読者のみなさんがいるんですが、第四の壁に触れていいのは主人公である私だけですし、シーダさんは気にしないでいいんですよ。


 さてパーティーメンバーの心の準備は整ったので、私はVITを起動すると、配信用カメラで、アスレチック渓谷の入り口を映しました。


「配信をオンにしましたよ。うちの配信を心待ちにしていた視聴者のみなさん、お久しぶりでーす」


 数少ない熱心なファンたちが、配信開始と同時に駆けつけてくれました。


『待ってたよ、頭のおかしい配信者』『もっと笑わせてくれ』『安定した百回の配信よりも、記憶に残る一度きりの配信を頼む』


 ちょっと客層がアレな感じもしますが、視聴者層のカラーは配信者の性格が反映されると言いますし、これは自業自得なんでしょう。


 ただし考えようによっては、私たち向きのお客さんが集まってきたとも言えるわけですよ。


 上等じゃないですか。私のお笑い腹黒パワーで、ダンジョン配信界の頂点まで上り詰めてやりますよ。


 というわけで、来週からアスレチック渓谷の攻略を始めようと思いまーす。


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