第42話 回転床(回転するとはいっていない)

 私は罠の種類を特定することにしました。


 うちのパーティーには盗賊がいないですからね、遊び人である私が罠チェックの担当ですよ。


 いやもちろん普通の遊び人であれば、罠チェックなんてスキル持ってないんですけど、私の場合、スリや置き引きのために修得したので。


 ははは、人生っていうのは、どんな経験が役に立つかわからないものですよ。


 なんてことを考えながら、私はほふく前進でトラップ床に近づきました。


 トラップ床に圧力をかけないように、そーっと手を伸ばして、罠の形と魔力の導線をチェック。


 罠の種類を特定しました。


「回転床ですね。この先のフロアにびっしりと埋め込んでありますよ」


 回転床のイメージは、これまでやってきたゲームによって異なるでしょう。


 ドラクエ系であれば、操作キャラを床に載せると、自動でぐいーっとどこかへ持っていかれる感じです。


 ウィザードリィ系であれば、操作キャラがその場でぐるぐる回ってしまって、正面の方角がわからなくなります。


 僧侶のレーニャさんが、いぶかしげな顔で、私の隣に座りました。


「これってさ、本当に普通の回転床なの? アスレチック渓谷の罠って、いっっつもピントがズレてると思うんだけど……」


 ええ、私もそう思いますよ。ためしにちょっと離れたところから、回転床を起動してみましょう。


 力自慢である武道家のシーダさんに頼みまして、さきほど魔人が出てきた空っぽの宝箱を、ぽーいっと回転床に投げてもらいました。


 もし普通の回転床であれば、空っぽの宝箱がどこかへ運ばれていくか、もしくはその場でぐるぐる回転するはずです。


 しかし、宝箱は回転しませんでした。


 では、なにが回転したんでしょうか?


 すぐ近くの壁がパカっと開きまして、そこには八百屋が設置されていまして、八百屋のおじさん風の魔人が大根を振り回しました。


『へいらっしゃい! 開店記念で大根が安いよ!』


 …………もしかして、回転ならぬ、開店床。


「またオヤジギャグじゃないですか!!!!」


 私がツッコミを入れたら、魔人が嬉しそうに笑いました。


『ナイスツッコミ、アディーオース!』


 こうしてすぐ近くの壁は閉じまして、魔人の八百屋は閉店しました。


 うちの配信のコメント欄も、ツッコミだらけですよ。


『なんだあいつ寒いオヤジギャグばっかりいいやがって』『せっかく魔法大学の学長になったのに、定年退職したらただのバカじゃないか』『でもあいつのおかげで、コメント欄は盛り上がってるよな』


 そうそう、コメント欄が盛り上がるんですよね。魔人のオヤジギャグが寒いおかげで。


 しかも元々うちの配信をフォローしていたお客さんだけじゃなくて、完全新規のお客さんも一緒に盛り上がってくれますから、ぼちぼちチャンネル登録者数も増えてきました。


 配信者としては順調じゃないですか。魔人と対面する私たちにオヤジギャグという名のストレスがたまるという弱点を除けば。


 戦士のアカトムさんは、生真面目なところがありますから、オヤジギャグが精神的なダメージになっているみたいですよ。


「もし将来騎士団に入ったとき、上司がオヤジギャグ好きだったら、たとえつまらなくても笑顔で聞き流さなきゃいけないのかな……」


 どうやら将来の苦しみを想像して、ダメージを受けているみたいですね。


 まぁ上司におべっかを使うのも仕事の一つと言いますし、がんばってほしいですね。


 ちなみにうちの父は、帝国海兵時代におべっかという名の不正の手伝いを拒絶した結果、いろいろあって指名手配犯になりましてね。


 つまりおべっかを使うかどうかは、ケースバイケースということです。


 そのあたりの判断力を養うことも、冒険者として大切な過程なのかもしれません。


 さて私の身内の話はどうでもいいので、アスレチック渓谷の話題に戻しましょう。


 回転床ならぬ開店床ゾーンは終わりまして、次の部屋に向かうことになりました。


 武道家のシーダさんは、やっぱりオヤジギャグに関心がないみたいで、次の部屋の偵察をすでに行っていました。


「ユーリュー、どうやらこの先の部屋にも、トラップ床があるみたいだぞ」


 はいはい、どうせまたくだらないトラップ床ですよ。


 というわけで、次回もトラップ床ネタです。お笑いの技術でいうところの天丼ですね。


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