第34話 インタビュー対象その4 水攻め用水路の現場に同行した医者

 本日も現場を支えるスタッフにインタビューしていこうと思います。


 現場労働には、大なり小なりケガがつきものです。


 市街地でケガしたのであれば、町の医者を頼ればいいでしょう。


 しかしここは遠征地なので、医者が同行していました。


 帝国軍の軍医、ルスクさんです。今年四十二歳の中年男性で、詩人のように細身でした。


 医者としての主な担当は外科ですね。ただし軍医という特殊なポジションに就いていることもあって、内科も兼任しています。


 おまけに回復魔法も使えるので、名医中の名医です。


 うーん、これだけ能力高いと、収入すごそうですねぇ。


 若いころは、女にモテまくりだったんじゃないですか?


 おっと、そんな下世話なことに触れている場合じゃないんですよ。インタビューをしないと、配信が盛り上がらないんです。


「ドクター。いまのところ軽傷ばかり診断しているみたいですが、やはり重傷患者が出ることもあるんでしょうか?」


「もちろんある。土木作業で負傷すれば、腕が潰れてしまうこともあるし。モンスターに襲われたら、片目が食われてしまうこともある。それら重傷患者の命をつなぎとめることが、遠征地における医者の戦いだ」


 かっこいいことを言いますねぇ、さすが軍医。


 きっと数々の難病を治してきたんでしょうし、私みたいな素人には想像できない手術もあったんでしょう。


 どんな仕事をしてきたのか興味が湧いてきました。


 きっと配信を見ているみなさんだって興味が湧いたでしょうし、この物語を見ているみなさんだって興味が湧いたはずです。


 さっそく質問してみましょう。


「これまでの治療で、もっとも難しかったものはなんでしょうか?」


「恋の病だ」


「……は?」


「だ・か・ら、恋の病だ。あれは医者でも治せない……人類にとって永遠の課題だ……」


 なんでそんな斜め上の答えなんですか!?


 私が知りたかったのは、難病と向き合ったとか、難しい手術と戦ったとか、そういう感じの答えであってですね?


 それなのに、なにが恋の病は不治の病ですか!!!!!


 …………はいはい、どうせこの作品はギャグ作品ですから、シリアスなネタなんて出てこないんですよ。


 そういっている間に、うちの戦士であるアカトムさんが、お医者様に相談しました。


「恋の病みたいな甘い話とは正反対で、最近便秘がひどいんですが、治してくれませんか?」


「本当は食生活の改善と適切な運動が望ましいんだが、冒険者の立場ではそう悠長なことも言ってられないんだろう。今回だけ特別サービスで、胃腸を整える魔法で便秘を解消してあげよう」


 お医者様は、手のひらをかざすと、胃腸を整える魔法を唱えました。


 その瞬間、アカトムさんのお腹が躍動して、ぐるるるるっとアレな音が鳴ります。


 アカトムさんは、真っ青な顔で、お尻を押さえました。


「す、すごい! 五日分も溜まっていたのに、こんなに便意が…………でもいまって配信中じゃないですか!?!?!?」


「はやくしないとモレるよ」


「このノンデリ医者!」


 アカトムさんはお尻を押さえたまま絶叫して、すぐ近くの草むらに飛び込みました。


 えー、詳しい描写は拒否します。


 それと配信にアレの音が載るのはかわいそうなので、ミュートしました。


 かといって無音放送だと寂しいですし、私の歌でも聞いてくださいね。


「食物繊維は大事だよー、毎日運動・水分補給~♪ 便意がきたらすぐトイレ♪ 我慢は便秘の最短距離♪ おぉ快便日和~」


 私の快便ソングが終わったところで、勇者を支えるスタッフたちのインタビューは一通り完了しました。


 VITのカメラを引きの画角にしまして、土木作業の全体像を映しました。


「もうすぐ水路の建築が完了して、水攻めが始まるみたいです。我々取材班は、その瞬間を見届けようと思います」


 ***CM***


 こちらはレト薬草園です! 便秘の味方、快便薬草!


 この薬草を毎朝飲みましょう。薬草の効能により胃腸の調子が整えられて、毎日どっさりです。はい、もう一度叫んでみましょう、快便薬草! これであなたも便秘のお悩みから解放されますよ。

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