第29話 インタビュー対象その1 勇者エリアフ

 プロジェクト情熱大陸X、第二回です。


 本日は、勇者エリアフのインタビューから始まります。


 私は、VITのマイクを、勇者エリアフに向けました。


「勇者エリアフ。いつもお疲れ様です。今日は四天王のダンジョンを攻略するわけですが、意気込みを聞かせてください」


 勇者エリアフは、土木作業を中断すると、完成間際の水路を、手のひらで叩きました。


「なるべく味方には損害がでないように。それでいて敵には大損害を。これを心がけていきたいね」


 勇者たるもの、剣と魔法でモンスターと戦う知識だけではなく、戦略にも詳しいようですね。


 だからといって、水攻めで四天王を倒そうというのは、私たちが思い浮かべてきた勇者のイメージとかけ離れているわけですよ。


 そう思ったからこそ、やや踏み込んだ質問をしました。


「勇者パーティーといえば、熱いバトルで敵の親玉を倒すイメージなんですが、もしやこれまでも水攻めみたいな作戦をやってきたんですか?」


「もちろん。なんでもかんでも正面から突撃するなんて、いくら俺たちでも、命がいくつあっても足りないさ」


 へぇー、イメージと違って、安全重視だったんですね。


 ちなみに配信のコメント欄にいる勇者ファンたちは、勇者が安全重視であることを知っていたみたいですね。


『水攻めをやるのは、今日で三回目』『以前やったときは、水攻めだけでダンジョンのモンスターを倒せたよ』『でも勇者マニアしか知らないかも。VITで水攻めの現場を配信するのは、今回が初めてだし』


 なるほど、一回目と二回目の水攻めは、VITによるダンジョン配信が始まる前の話なんですね。


 それじゃあ、マニアではない私が知らなくて当然でした。


 となれば、きっと勇者パーティーには、我々一般人には知らない一面がたくさんあるんでしょうね。


 そのあたりを深掘りしようとしたら、盗賊イシュタルが駆け足で近づいてきました。


「なんだよユーリュー。俺様にもインタビューしろよ。ちゃんとかっこよく撮るんだぞ」


 彼はヘラヘラしながら、モデルみたいなポージングを決めています。


 しかし泥で汚れていません。なぜなら水路の建築をサボっているからです。


 なんて情けないやつ。恥ずかしいと思わないんでしょうか。


「イシュタル。あなたも水路の建築を手伝ったらどうなんですか? パーティーの仲間たちが一生懸命仕事してるんですから、ヘラヘラしてる暇はないはずですよ」


 私が珍しく正論で問い詰めたら、イシュタルの顔色はどんどん悪くなります。


 やがて顔色が、海と同じぐらいの青になったら、勇者パーティーの仲間たちが働く姿を、ちらっと横目で確認。


 ちょっと呼吸が乱れてから、ごまかし笑いを合間に挟んで、ぴゅーっと弾みたいに走って建築現場に合流しました。


「おいこらユーリュー! お前よく見とけよ! 俺様のスピードはな、土木作業でも役に立つんだ!」


 どうやら心を入れ替えたらしく、とんでもないスピードで建材を運んでいきます。


 あれだけ活躍できるんですから、最初から真面目に働けばいいのに。


 勇者ファンだらけのコメント欄でも、盗賊イシュタルは注目の的でした。


『あいつ、なんか憎めないタイプのバカだよな』『あんなに強くて顔もいいのに、どうして三枚目になっちゃうんだろう』『スピードにステータスを割きすぎて、それ以外が、ちゃらんぽらんになった盗賊』


 うーん、たしかにスピード重視で、それ以外はちゃらんぽらんですねぇ。


 あんなに顔がよくて、レベルも高いのに……相変わらずもったいない男ですね、盗賊イシュタルは。


 僧侶のレーニャさんが、配信に拾われないように小声で耳打ちしてきました。


「やっぱり癖のあるイケメンが好きなのね、ユーリューってば……!」


 だから違いますってば。あんな疲れるやつ、好きになるはずないでしょう?


 もう本当にレーニャさんは恋話が好きですねぇ……なんで船で遠征した先でも、こんな話をしなきゃいけないんですか。


 と呆れていたら、船着き場でトラブル発生です。


 熱心というか厄介な勇者ファンたちが、新型の小型漁船をレンタルして、現場に乱入してきたみたいです。


 厄介なファンに、どうやって対処したのかは、次回の更新のお楽しみです。


 ***CMタイム***


 エルレ造船社からお知らせです。新型漁船を開発しました。最大で六人乗れる船舶で、従来の帆船よりも操縦性が向上しています。


 錬金ギルドの開発した新装備により、帆に風の力を集められるようになったので、微風の日であっても、最低限の推進力を維持できます。


 お求めの際は、あなたの町の造船場へどうぞ。

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