第30話 取材中に、厄介ファンが乱入してきました

 勇者ファンもとい、現地まで駆けつけてきた厄介ファンについて触れていきましょう。


 構成メンバーは、老若男女バリエーション豊富で、レンタルした漁船の上からこんなことを言っていました。


「エリアフ、いますぐ四天王をやっつけちまえ」「生き神さまや、ありがたや、ありがたや」「勇者さまの活躍を間近で見られるなんて感激よ」


 勇者を好きすぎる気持ちは痛いほど伝わってきたんですが、ここは人里離れた離島ですからね。


 モンスターだっているし、海難事故の危険性だってあるし、そもそも彼らの水と食糧を用意してないんですから、ぶっちゃけ邪魔なんですよ。


 うちの配信に滞在する勇者ファンの人たちも、コメント欄で怒っています。


『ああいう厄介ファンが悪目立ちするから、勇者ファンの評判が悪くなるんだ』『なんであんな危険な現場に近づくのかしら』『っていうか、船をレンタルしてまで追っかけしてるのかよ。頭おかしいだろ』


 勇者パーティーの配信は、同時視聴者数が10000人を超えているわけですから、大多数の良識的なファンの中に、一握りの異常者が加わることになります。


 統計で考えると、これは避けようがない事態です。


 どんなジャンルのファンであっても、規模の原理として発生するので、モラルの問題ではないんですよ。


 だからこそ、帝国騎士のみなさんが、厄介ファンを追い払うための警備員として雇われたわけですね。


「この現場は、関係者以外立ち入り禁止だ」


 帝国騎士のみなさんが、マジックアイテムのロープを船着き場に貼って、マジックアイテムの光る棒を振りかざしたら、なんと厄介ファンたちは上陸できなくなりました。


 どうやらロープを貼ることで部外者の出入りを制限できるし、光る棒を振ることで邪魔者を追い払えるみたいです。


 最近の錬金術師たちは、本当に便利なものを開発しますねぇ。


 VITの発明を皮切りにして、どんどん世界が便利になってきましたよ。


 きっと世界のインテリたちが、VITで遠方の同類たちと連絡を取れるようになったので、新商品の開発が加速したんでしょうね。


 それはさておき、立ち入り禁止となった厄介ファンのみなさんは、ちょっと不満げでした。


「仕事の邪魔をするつもりはないんだ」「勇者様の活躍を、この目で見届けてからでないと死ねないねぇ」「いくら帝国騎士の警備でも、勇者エリアフと会いたい気持ちは止められないわ」


 ろくな戦闘手段を持っていない民間人が、なんの用意もなく鉄火場に入ってくること自体が足手まといということを理解できないみたいですね。


 こんな身勝手な人たちに付きまとわれているとなれば、勇者パーティーの苦労を察しました。


 しかし勇者エリアフは、怒るわけではなく、まるで親が子供を諭すように、厄介ファンに声をかけました。


「ここは本当に危ない現場だから、いますぐ家に帰ったほうがいい。命は一つしかないんだから、大切にしないと」


 やっぱり彼は真面目ですねぇ。注意する言葉ですら真っすぐです。


 どうやら厄介ファンの人たちも、他でもない自分たちの命を心配されてしまったら、これ以上意地を張れなくなったみたいです。


 しょうがないなぁ、といった感じで地元の港に引き返していきました。


 勇者エリアフの説得は成功です。


 やりますねぇ、さすが勇者。


 私はVITのマイクを、勇者エリアフに向けました。


「これだけファンの数が多いと、大変なことも多いようでしょう」


「完璧な人間はいないんだから、彼らをうまく受け流すことだって、勇者の役割というわけさ」


 いやはや、清々しいぐらいに人格者ですね。いったいどんな育ち方をしたんでしょう。


 気になりますねぇ。みなさんだって気になるでしょう?


 というわけで、勇者の生い立ちについてインタビューしていこうと思います。


 ただし、CMのあとで。


 ***CMタイム***


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 見てください、この火力、この硬さ、やはり時代はマッスルアイテム!

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