第28話 プロジェクト情熱大陸X ~四天王のダンジョンに水攻めをやり遂げる勇者たち~

 勇者と帝国騎士にロマンがないなら、ダンジョンに水攻めをやり遂げる姿をロマンに変えてやろうと思いました。


 名付けてプロジェクト情熱大陸Xです。


 私はVITを起動して、水攻め用の土木作業を配信していきます。


 大がかりな作業ですから、作業員だけではなく、食事係も、お医者さんも、それらを護衛する戦士たちも同伴していました。


 夜通しの作業もありえるため、野営装備と、照明器具が持ち込まれていて、ちょっとした駐屯地みたいな雰囲気です。


 私は、アルバイト用の照明器具を担いだまま、自分のVITに向かって語りかけていきます。


「本日のプロジェクト情熱大陸Xは、勇者パーティーと、それを支えるスタッフたちが主役です。


 勇者パーティーは、帝国の尖兵として、数々の凶悪モンスターを退治してきました。そんな彼らが本日狙うターゲットは、四天王ドルンバンです。その初手は、なんと水攻めでした。


 ダンジョンを水攻めするとなれば、大がかりな装置が必要です。


 いまスタッフたちは、水攻め装置を組み立てるために、土木作業に勤しんでいます」


 配信画面に、土木作業の現場を映しました。


 みなさん汗水たらして、せっせと装置を組み立てています。


 親方を中心とした作業員たちは、重たい建築素材を運んでいます。


 そこに勇者パーティーも加わって、水の経路を確認しています。


 彼らを支える裏方が大勢いて、食事係、医者、警備、ですね。


 ちなみに勇者パーティーは、イケメンばかりなので、彼らが一生懸命働く姿は、あまりにもまぶしいですねぇ。(ただし仕事をサボっているスピード自慢の盗賊は除く)


 僧侶のレーニャさんが、一番素直な反応をしています。


「なんかいいわね、イケメンの働く姿って、胸がきゅんきゅんしてくる!」


 正直でよろしい。ただし、あなたの立場は僧侶ですからね。欲望に正直すぎると破門ですからね。ギャンブルだって例外じゃないんですよ。


 戦士のアカトムさんは、こめかみに指を当てながら、うーんうーんと苦悩しています。


「困ったなぁ。イケメンの欲望にあらがっておかないと、実家に帰ったとき、親族全員に白い目で見られると思うんだよ」


 戦士の立場で考えるなら、イケメンに鼻息荒くしても問題ないと思いますよ。ただまぁ騎士の家系っていうのは、そういうめんどくさい縛りがあるんでしょうけど。


 武道家のシーダさんは、アルバイト用のミスリル製マイクを放置すると、土木作業に加わりました。


「勇者パーティーは、土木作業を手伝うことで、超人的なパワーを身に着けている?」


 さすが脳筋、発想がなんでも修行に繋がります。っていうか、高価な機材を地面に放置するのやめてくれませんか。


 しょうがないので、私がマイクも担ぎますよ。あぁ、重たいですねぇ。


 それはそれとして、勇者パーティーの舞台裏を中継したことで、勇者ファンの人たちが、うちの配信に雪崩れ込んできました。


 その結果、なんと視聴者数が1000人を越えました。


 コメント欄も活発です。


『こんなタイプの配信もあるんだね』『舞台裏の撮影か。考えたなぁ、発想の勝利だ』『勇者エリアフをたくさん映してちょうだい』『ダンジョンを水攻めって、なんかワクワクしてくるな』


 やりましたね、寄生配信の狙いは成功です。


 ただし、この1000人を超えた視聴者たちは、あくまで勇者パーティーを見たいだけであって、私たちのファンではありません。


 もし勇者たちを撮影するのをやめれば、さーっと水が引くように消えるでしょう。


 そうなる前に、今回のドキュメンタリー配信を成功させて、彼らの一部を私たちのファンにしちゃいましょう!


 というわけで、まずは勇者エリアフからインタビューしていくんですが、どんな内容になったのかは、次回更新のお楽しみです。


 ***CMタイム・これを流すことで、私たちの広告収入が増えます***


 インメル土木工業です。我々の会社は、帝国の土木作業を担っています。体力自慢や腕力自慢の応募を待っています。元冒険者の応募大歓迎。とくに戦士職は優遇。


 筋肉ムキムキの土木作業員が、丸太を担いで白い歯を見せています。その両隣には元冒険者風の男たちがいて「冒険をやめて一緒に働こう!」と叫ぶCMです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る