第27話 帝国のやり方にはロマンがない
私たちの船は、隣の大陸の先端にやってきました。
険しい山に囲まれた大陸なので、船がないと上陸できないんですよね。
そんな大陸にも、寂れた船着き場があります。
どうやら大昔の探検家たちが、海図を作るときに船着き場を作ったみたいですね。
やや古い設計ですけど、土台を魔法鉱石で固めてあるので、海水の浸食を防げていますよ。
これだけ耐久力があるなら、問題なく利用できそうです。
私たちパーティーは、配信機材を担いで、船を降りていきます。
「クリスタルで動く照明器具、木と布で作った反射板、大型のVIT、ミスリルで音を拾うマイク。公式チャンネルのスタッフみたいな撮影機材を使うんですね、勇者パーティーって」
私が担いでいるのは、照明器具です。
大気中のマナを吸って、ぱーっと光ります。獣脂のランプと違って、火事の危険がないし、臭くないし、長持ちするので、ご家庭でも重宝しています。
ただし撮影機材として使うやつは、一般家庭用のやつを大型化したやつですね。だから薪の束ぐらい重いわけですよ。
僧侶のレーニャさんは、反射板を担いでいました。
「これだけ荷物を抱えてたら、四天王と戦えなくなるから、勇者たちはアルバイトを募集したわけね」
普通のザコモンスターが相手だったら、荷物を抱えたままでも倒せるんでしょうけど、今回は四天王が相手ですからね。
戦士のアカトムさんは、変装グッズを顔につけたまま、大型のVITを運んでいます。
「大きなVITってさ、レーニャの大好きな競馬場で撮影に使ってるやつだよね。映像が鮮明で、画角が広くてさ」
そうそう、公共放送の高画質配信だと、こういう大型のVITを使っているんですよね。
ちなみに大型のVITは、高級品かつ生産台数が少ないので、一般人には売ってくれません。
そんなものを自己所有しているんですから、やっぱり勇者パーティーは優遇されていますね。
武道家のシーダさんは、ミスリル製のマイクを担いでいました。
「重い荷物を抱えたまま戦えば、修行になるかもしれない」
やめたほうがいいと思いますよ。反射板だけ安物ですけど、それ以外は高価な機材ですから、乱暴に扱って壊したら弁償しなきゃいけないでしょうし。
そう考えると、ちょっとだけ緊張してきますね。もし弁償することになったら、あっという間に破産ですから。
まぁ私たちは戦闘しないですから、そんな心配しなくてもいいんですが。
僧侶のレーニャさんは、指定の位置に反射板を置くと、船着き場を見渡しました。
「てっきり、あたしたちと騎士団と勇者パーティーしかいないと思ってたんだけど、ぜんぜんそんなことなかったわね」
そうなんです。実は船には、勇者パーティーを支えるスタッフが大勢同伴していました。
船を運用していた帝国水兵。
水と食糧を管理する戦士ギルドのメンバー。
親方が管理する現場作業員の人たち。
アルバイトで雇われた帝国騎士のみなさんと、私たちへっぽこパーティー。
これだけ大所帯で行動すると、勇者パーティーが少数精鋭で悪いやつをやっつけるイメージが消滅しましたね。
でも、なんでこんな人数が必要なんでしょうか。
戦士のアカトムさんは、騎士の家系なので、勇者の内情を知っていました。
「そりゃ一騎打ちで勝てたらカッコいいけどさ、負けたら死んじゃうし、包囲して手数で攻めれば確実に勝てるでしょ。となれば、帝国としては安全で確実な手を採用するわけさ」
はい、夢の壊れた音が聞こえますよ、みなさん。
勇者も、帝国騎士も、正々堂々と戦いません。
相手より数を集めて、囲んでボコボコにするんです。
うーん、ロマンがないですよ、ロマンが。
そんな私の嘆きを、さらに加速させるように、現場作業員たちが、土木工事を開始しました。
なんで四天王のダンジョンの前で、いきなり土木作業を始めたんでしょうか。
っていうか、なんで彼らは私たちと同じ船に乗っていたんでしょう。
答えを教えてくれるのは、盗賊イシュタルです。
「せっかくダンジョンの近くに海水があるんだから、こいつを流し込んで水攻めするんだよ。そうすりゃ水耐性を持ったやつ以外全滅してから、ダンジョン攻略を始められるだろ」
よりによって四天王のダンジョンを水攻めするんですか!?
物語の見せ場になるはずなのに!?
やっぱり帝国にはロマンがない!!!
っていうか、事前説明にあった露払いって、水攻めのことだったんですねぇ!!!
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