第26話 薬草の毒見にはスピードが役立つかもしれない!?
勇者パーティーは、船内の食堂で、朝ごはんを食べていました。
彼らは船旅に慣れているので、誰も船酔いしていません。さすがですねぇ。
どうやら盗賊イシュタルは、おかわりをしたいらしく、スープの皿を持って、テーブルを離れていきます。
そこを狙って、私が声をかけました。
「イシュタルさん。この薬草のかけら、試しに食べてくれませんか?」
イシュタルは、じとーっと湿気たっぷりの目で、私を見ました。
「なんかたくらんでるだろ、お前」
「いやいや、レベル60の盗賊である、あなたにしかできない大役ですよ」
ちょっと褒めたら、イシュタルは鼻高々にふんぞり返りました。
「そう、俺様はレベル60の大盗賊だ! お前みたいなレベル1の遊び人にはできない仕事だって、簡単にこなせるんだからな!」
「そうそう、難しい仕事ほど燃えるのが、ハイレベルな冒険者というもの。ここはぜひ、勇者パーティーのお手本というものを見せてください」
「ふふん、しょうがないやつだな、薬草のかけらぐらい食べてやるよ」
はー、お調子者ですねぇ。
そうやって、おだてられると、あっさり転がされるタイプだから、私の当たり屋に引っかかったんですよ。
これだけ強いのに、心に隙があるなんて、ちょっと心配になる人ですねぇ。
と思っているうちに、すっかり調子に乗ったイシュタルは、一つ目の薬草をかじりました。
「か、辛いがこれ!?!?!?!?」
はい、一つ目は毒消しですね。
小型のポチ袋に、毒消し用の薬草を詰めてから、そこに『毒消し』と書いたメモを入れておきました。
続けて二つ目の薬草を差し出しました。
「じゃあ、二つ目を食べてください」
「な、なぁお前、もしかして俺様に毒見役やらせてない?」
いくらお調子者でも、さすがに気づきましたね。うんうん。
でも私は、話術を駆使して、もう一度毒見させることにしました。
「これだけ高度な毒見となれば、レベル60の盗賊にしかできない大仕事ですよ? すでに一つ終わらせてるんですから、二つ目の薬草もいっちゃいましょう」
「そ、そうだよな。わかった。じゃあ二つ目も食べるわ、もぐもぐ…………に、苦すぎる! ブラックコーヒーより苦い! 俺様は甘いコーヒーしか飲めないんだ!」
普段あれだけカッコつけてるくせに、ブラックコーヒーも飲めないとか。
なんというか、二枚目になりきれない三枚目ですねぇ。
まぁ味の好みなんて人それぞれですから、とにかく二つ目の薬草は下痢止めで確定っと。さきほどと同じく、メモと一緒に小型のポチ袋に小分けしておきました。
残り二つは、普通の薬草と、甘い味の酔い止めですから、自分で味見しても問題ないですね。
「ありがとうございました、盗賊イシュタル。さすがレベル60の大盗賊、完璧な毒見でした」
ちゃんと最後に褒めてから、さっさと自分の船室に帰ろうとしたら、イシュタルが怒りました。
「お前、さては自分で苦いのと辛いのを食べたくないから、俺を騙して毒見させたんだろう!」
うーむ、さすがにバレましたねぇ。
でも、彼を騙しても、申し訳ないという気持ちが一切わいてこないので、謝罪する気になりません。
ちなみに朝食中の勇者パーティーのみなさんも、盗賊イシュタルが騙されたことがおもしろかったらしく、笑いを押し殺していますね。
よし、決めました。最後も話術でごまかしましょう。
「いやいや、レベル60の大盗賊にしかできない、世界でもっともスピーディーな毒見でした。さすが勇者パーティーに所属していますね、私の動体視力では認識できないほどの素早さでした」
スピードを褒めまくったら、イシュタルは、すっかり機嫌がよくなりました。
「ま、まぁな。俺様ってば、毒見をやらせても、世界で一番早いからな。はっはっは、やっぱりスピードが一番重要なステータスだよなぁ! お前、わかってるじゃないか!」
やっぱりこいつ単純ですねぇ。
まぁ憎めないやつともいいますか。
いつか私みたいな悪い女に騙されて、身ぐるみはがされて無一文にならないように祈っておきましょう。
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