第25話 船酔いとの戦い

 私たちは、四天王のダンジョンに向かうために、勇者パーティーが所有している船に乗り込みました。


 そこまで大きい船じゃないですね。マストが二本と、おまけ一本だけなので。


 船を運用しているのは、戦士ギルドに所属している水兵のみなさんです。


 あくまで勇者パーティーは目的地を示すだけで、実際に船を動かしているのは、専門のスタッフなんですね。


 まぁ当たり前っちゃ当たり前ですよ。いくら勇者だからって、帆船を適切に動かせるわけじゃないんですから。


 そんな大所帯となった勇者たちの船ですが、現在、内海を運航中です。


 そこまで波は荒くないし、海流の速さも平均値です。


 目的地は隣の大陸であって、だいたい四時間ぐらいで到着するそうです。

 

 もし外洋に出るのであれば、もっと本格的な装備と、水と食糧の備蓄が必要ですが、そういうわけではないので、積み荷は少なめでした。


「やっぱ釣りっていいですよね」


 私は、暇つぶしに、海釣りをしていました。


 すでに一匹ゲットしているので、あとで煮魚を作ろうと思っています。


 いくつかの野菜と一緒に煮込むとおいしいですよ。


 釣ったばかりの魚を調理するのであれば、生臭さはそこまで気にしなくていいので、薬味は最小限で大丈夫でしょう。


 なんて具合に、余裕があるのは、私だけでした。


 他のメンバーは、船初体験なので、みんな船酔いでグロッキーです。


 まず僧侶のレーニャさんから。


「き、きもちわるい。回復魔法も効かないし、どうしろっていうのよ」


 かわいそうに。きっと僧侶なのにギャンブル中毒者になったレーニャさんに対する天罰ですよ。


 だからギャンブルをやめれば治るはずです。うんうん。


 次、戦士のアカトムさん。


「もし眼鏡&鼻&ヒゲをつけた状態で吐いたら、いろいろ悲惨なことになる気がするから、我慢しないと」


 そうなんです、アカトムさん、お笑いグッズで変装したままなんです。だって騎士団の人たち、同じ船に乗っているわけですし。


 でも、お笑い的には、ゲロ吐いたほうがおもしろいと思いますね。目指せ、天下一お笑い武道会。


 最後に美少女武道家のシーダさん。


「船酔いに負けたとあっては武道家として不名誉……おろおろおろ~」


 最初に吐いたのは、シーダさんでした。どれだけ筋肉をつけても、船酔いには勝てないんですね。


 しかし美少女っていうのは、ズルいですね。ゲロを吐く姿にすら華があるんですよ。


 きっと世の男性は、こういう船酔いした美少女に弱いんでしょうね。


 ……つまり私がゲロを吐けば、この物語を読んでいるみなさんにモテる可能性が!?


 試しに第四の壁を越えて、画面の向こう側でゲロを吐いてみましょう。


 えっ、やめろって?


 もうしょうがないですねぇ、今日はかんべんしてあげます。


 さて、メタ展開はこんなもんにして、どうやってパーティーメンバーの船酔いを軽減しましょうか。


 実をいうと、船酔いに効果のある薬草を持ってきたんですけど、荷造りに失敗して、四種類の薬草がごちゃ混ぜになっているんですよね。


 普通の薬草・下痢止めの苦い薬草・毒消しの激辛薬草・酔い止めの甘い薬草。


 それぞれ効能は違っても、見た目は一緒です。


 幸いなことに、味が明確に違うので、毒見すればわかります。


 でも、自分の体調が悪いわけでもないのに、苦いのと辛いのはイヤですよねぇ…………。


 ああ、そうだ。勇者パーティーの盗賊イシュタルにやってもらいましょう!


 彼はレベルが高いんですから、苦いのも辛いのも余裕で耐えられますよ!

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