第9話 利益の分配条件に潜んでいる権力者の思惑

 円陣を組んだ私たちの会議の内容ですが、こんな感じでした。


「みなさん、利益の分配条件を見てください。なぜか配信者に七割も入るんですよ。これ、間違いなく裏がありますね」


 戦士のアカトムさんが、心配そうに首をすくめました。


「裏って……どういうことだい?」


「さきほどスリで手に入れたメモの内容から、ちょっとエッチな配信をやろうとしていることはわかったじゃないですか。でも、こんなセクシャルなモノを大々的にやったら、王宮と教会が激怒するわけですよ」


 僧侶のレーニャさんが、大きくうなずきました。


「僧侶を育成する教会で習ったわ。【公衆の面前でセクシャルな行為を行うことは、王の戒律と、ンハロ教の教えにより禁止されている】って」


 私は、レーニャさんの指摘に、ぱちんっと指を弾きました。


「その通り。普通に考えれば、この手の事業は、王宮と教会を怒らせることになります。それでもやろうとするあたり、魔法ギルドには裏があるわけですよ」


 戦士のアカトムさんは、騎士の家系に生まれたこともあって、裏の流れに薄っすらと気づいたみたいですね。


「もしかして、配信で得られた利益の一部が、王宮と教会に流れるとかそういう……あっ……! 受付をやってる魔法使い、魔法ギルドに所属してるけど、就職先は王宮じゃないか……!」


 そうなんですよ。私が裏の流れに気づいたのも、受付役の魔法使いが、城の警備をやっているところを見たことがあったからですね。


 城の警備をまかされるような魔法使いは、ギルド内の地位も高いので、戒律に違反するような行為に、なんの裏もなく乗っかるはずがありませんよね。


 では、どんな裏かというのを、私は語りました。


「さきほどのメモに書いてあった内容ですけど、配信画面には、魔法ギルド・王宮・教会の広告を表示したままにしておけって指示があったじゃないですか?


 あれから推測するところ、おそらく配信者たちを、王宮か教会、どちらかと専属契約させて、プロバガンダ配信者に仕立て上げたいんですよ。


 ちょっとエッチなダンジョン配信をしながら、ひたすら王宮か教会に対して肯定的なことを言い続ける広告塔の完成ですね」


 ほとんど推測ですが、おそらく的中ですよ。やれやれ、王宮も教会も、自分たちに利益があるとわかったら、戒律なんて無視ですよ。


 なんなら、本当は戒律なんて建前で、若い女の子がきゃーきゃーと悲鳴をあげるシーンが好きなんでしょう?


 はー、これだから権力者ってやつは。


 武道家のシーダさんは、自分の懐に入っている前金を、ぽんぽんと叩きました。


「難しい話はもういい、頭が痛くなる。我が知りたいのは、この仕事を当初の計画通りにやるのかどうかだ」


 私は、魔法ギルドの様子と、メモに書いてあった内容と、契約書の内容を吟味して、当初の計画を若干修正しました。


「前金だけもらって、クエストをわざと失敗する部分は変えません。ただし王宮と教会が関わっていたので、彼らに睨まれないように、計画して失敗する必要があります。なお、私の思っていた以上に、配信者稼業は儲かる可能性が出てきたので、その後の動きを追加します」


 続きを語ります。


「ここに集められた女の子たちのうち、結構な数のパーティーが、王宮ないし教会と契約するでしょう。だってお金に困っていなかったら、ゼランの勧誘を断っているでしょうからね。いざ配信稼業がスタートすれば、一つか二つぐらいのパーティーは人気になるでしょうし、それでブームに火が付けば、配信稼業自体がポピュラーな産業になるはすです」

 

 最後に結論を語りました。


「そうなれば、他の組織も配信稼業に参入してきますから、配信用のマジックアイテムも普通に売りだされます。その瞬間が私たちの参入タイミングです。今日の試験配信でノウハウを蓄積しておけば、どこの組織にも所属しない自由の身でありながら、スタートダッシュを決められますよ。当然、配信利益は、全額自分たちのモノです」


 パーティーの仲間たちが、それは素晴らしいアイデアだ、と小さく拍手しました。


 うんうん、もっと褒めてください。私ってば、褒められるの大好きですから。


 しかし生真面目なアカトムさんだけは、私にお小言を言いました。


「ユーリューってさ、本当に腹黒いよね……」


 ふっふっふ、腹黒いは誉め言葉ですよ。


 だってこれからの稼ぎに、腹黒さは必須なんです。


 冒険者としての強さを投げ捨てて、配信者として強くならないといけないんですからね。

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