第10話 初心者向けのダンジョンと、女の子配信者たちの戦略

 私たちを含んだ、配信のテストモデルたちは、初級者向けのダンジョンに連れてこられました。


 ぶっちゃけた話、私たちみたいな弱小パーティーでも、クリアしたことのあるダンジョンですね。


 実にシンプルな構造で、一本道です。しかも、そこそこ広い道で、歩きやすい地盤なので、足元の負担も軽めですね。


 出てくるモンスターもすごく弱くて、小さいコボルトと、小型のスライムだけ。どんな初心者でも油断しなければ勝てます。


 だから当面の問題は、魔法ギルドの人たちが、ちょっとエッチな配信にするために、あれこれ妨害してくることでしょう。


 まだ配信はスタートしていませんが、もし配信用の装置が起動したら、魔法ギルドの動きを警戒したほうがいいです。


 私は、もう一度仲間たちと円陣を組んで、小声で作戦を確認しました。


「いいですか、みなさん。私たちは、こんなしょうもないスタンスに付き合わないで、ダンジョン配信の手ごたえだけつかんで、さっさと失敗しますからね」


 僧侶のレーニャさんが、すぐ隣のパーティーを指さしました。


「ねぇユーリュー、あっちのパーティー、全員で短いスカートはいてきてるし、なんなら洋服の露出も激しいんだけど……」


 お隣のパーティーは、女の子五人組なんですけど、全員がミニスカートにはきかえてきました。上着もひらひらで、肌も露出しまくりで、まるで蝶々みたいに可愛いですね。


 あれは冒険者の防具じゃなくて、アイドルの衣装ですよ。


 おそらくスカートの下のパンツも、見せパンじゃなくて、生パンですね。


「彼女たちは、やる気満々ということですよ。こっちの路線で」


 あちらのパーティーは、若い女の子であることを全力で利用するつもりでしょう。


 あそこまで開き直れるとなれば、将来的に手ごわいライバルになるかもしれません。


 要警戒ですね。ダンジョン配信者として。


 しかしレーニャさんは、肩をすぼめて、こう言いました。


「怖くないのかなぁ。配信にパンツとか肌が映っちゃうの」


 正常な感性だと思います。ただしそれは普通の女の子としてであり、配信者としてはまた別の感性になってくるでしょう。


「彼女たちは、パンツや肌を見せることが、広告料を稼ぐチャンスだと思っているはずですよ。たくましい精神だと思いますが、我々がやるべきじゃないです」


 私たちは、このクエストをわざと失敗して、王宮と教会のスキームから離脱するつもりなんですから、お色気路線はお断りしましょう。


 いくら若い女の子だけのパーティーだからといって、誰もがセクシャルアピールで配信をやっていく必要はないんです。


 むしろお色気路線だけが武器になってしまうと、後々行き詰まるはずなので、いまのうちに正統派の配信スタイルを確立したいですね。


 戦士のアカトムさんが、小声で私に質問しました。


「さて、わざとクエストを失敗する計画だけど、どうやってやろうか?」


 このダンジョンのクリア条件は、洞窟の一番奥にある宝箱から、ちょっと高価な鉱石を拾ってくることですね。


 本当にただ宝箱がぽつんと設置してあるだけだし、ボスモンスターだって存在しませんから、おつかい感覚でクリアできます。


 もし、こんな簡単なクエストを、なんの策もなく失敗しようものなら、魔法ギルドの人たちに、私たちの野望は見抜かれてしまうでしょう。


 そうなったら、迷惑条項に引っかかって、前金を没収されてしまいます。


「露骨に失敗すると、前金を没収されるだけじゃなくて、魔法ギルド、王宮、教会の三勢力から、悪い意味で顔を覚えられますからね。自然な形でクエストを失敗したいです」


 武道家のシーダさんが、むきっと上腕二頭筋を強調しました。


「この拳で、宝箱を破壊すればいい」


 ありっちゃありなんですが、なんの脈絡もなく宝箱を破壊するのは、迷惑条項に引っかかるでしょうね。


 なにか一つ、もっともらしい前置きが欲しいです。


 そうやって迷っているうちに、魔法ギルドの人たちが、ダンジョン内の掃討作戦を終わらせてきました。


「我々魔法ギルドが、ダンジョン内のモンスターをほぼ退治してきた。これで基本的には安全だから、まずは配信しながら普通にクリアしてみてくれ」


 もう少し迷う時間が欲しかったんですが、もたもたしていると疑われるので、私たちは配信用のマジックアイテムを起動することにしました。


 サイコロみたいな形をした正方形の箱です。箱のサイズですが、女の子の手のひらにちょうど乗るぐらいですね。


 それぞれの面にボタン・カメラ・モニタがついていまして、そこそこ使い勝手はいいみたいです。


 私たちは、モニター用の画面を見て、ちゃんと配信画面が映っているか確認しました。


 本当に映っていました。魔法の力で、私たちの姿が配信に乗っているみたいです。


 現在の視聴者数は三人です。まぁ初めての実験配信なので、三人の視聴者はお客さんじゃなくて、魔法ギルド、王宮、教会の監視役でしょう。


 それにしても、なんだか不思議な感じですね。自分たちの姿を、不特定多数の人間に晒しているなんて。


 僧侶のレーニャさんは、恥ずかしそうに両手で顔を隠しました。


「ちょっとヤダ、本当にあたしの顔が配信に映ってる」


 たったこれだけの恥じらいリアクションなのに、配信を見ている視聴者たちが、コメントで大盛り上がりになりました。


『可愛い!』『僧侶の子、いいなぁ、素朴な感じで』『もっと顔を見せて、できればパンツも見せて』


 完全にキャバクラないしアイドルライブのノリですね。


 っていうか、なんですか、パンツも見せてって。


 どうせ卑猥なコメント書いた人、教会の関係者でしょう。普段禁欲なんて偉そうに説いているから、若い女の子の配信で煩悩が爆発するんですよ。


 でもまぁ、こういうおバカな視聴者のおかげで、配信業は成立するわけですから、たとえ内心でバカにしていても、絶対に表に出してはいけません。


 そんな難しい配慮を心に秘めながら、私たちはダンジョンを攻略するフリをしながら、配信テストを開始しました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る