第8話 配信のテストモデルに集められたのは女の子ばかりでした

 私たちは、一晩だけ野宿したあと、例の案件に参加するために、行動を開始しました。


 中継都市ハーギヤの外壁の内側に入ると、魔法ギルドを目指して歩いていきます。


 交易の中継拠点なので、物流が盛んであり、朝から荷馬車が飛び交っていました。その分、通路に落ちた馬糞の量もすごいことになっているので、掃除係の人たちが苦労しています。


 そんな馬糞臭い道を歩きながら、農民は外壁の外にある畑に向かっていきます。


 あらゆる労働者たちが朝から活発に働いているので、飲食店はすでにフル回転です。


 私たちは『あぁ金のない冒険者は無職と一緒だなぁ。なんだか肩身が狭いなぁ』と思いながら、活発な街中を通り抜けると、魔法ギルドに到着しました。


 怪しい模様がたくさん刻まれた実験棟です。サッカーコートと同じぐらいの広さがあって、魔法使いのローブを来た人たちが忙しそうに働いていました。


 そんな建物の入り口に、ダンジョン配信に参加するパーティーが集められていました。


 右を見ても左を見ても、女の子パーティーだらけです。それも若くて可愛い子ばっかり。


 こうなってくると、魔法ギルドの狙いは明らかですね。


 アイドル路線のダンジョン配信です。


 という推測に裏付けが欲しかったので、私は段差で転ぶフリをしながら、受付役の魔法使いにぶつかりました。


「す、すいません。レベル1の遊び人だと、ちょっとした段差に弱いんです」


 と相手に謝罪しつつ、実はぶつかったときに、メモをすり取っていました。


【配信者の女の子が怪我すると、運営に批判が集まるだろう。そこでギルドの魔法使いたちが先行して、ダンジョンの危険を八割ほど排除してから、女の子たちは配信スタート。


 なお配信画面には、魔法ギルド・王宮・教会の広告をずっと表示しておくこと。


 配信開始後の魔法使いたちの役割だが、風の魔法でスカートをめくったり、あえて小型のスライムを残して洋服が溶けるように仕向けることだ。大きな音が出るタイプのトラップを設置して、可愛い悲鳴を上げさせるのもいい。


 大切なことは、ちょっとエッチなハプニングを心がけることだ】


 なにがちょっとエッチなハプニングですか、冗談じゃないですよ。


 こんな調子でダンジョン配信するなら、アイドル路線どころか、キャバクラ路線じゃないですか。


 なんでゼランが、あんな水商売じみたチラシを配っていたのか理解しました。


 求められている役割が同じだったからです。


 ふーん、魔法ギルドって、いつも高潔なインテリぶってますけど、金になるとわかった瞬間、水商売に手を出すんですねぇ。


 どれだけ高度な魔法学を修めても、肝心なところでは、女の【魔力】を頼るわけですよ。


 さぞかし難しい魔法式なんでしょうなぁ、ちょっとエッチなハプニングの中身は。


 と皮肉を思い浮かべたところで、さきほどスリとったメモを地面に捨てておきます。


 こうしておけば、魔法使い自身がメモを落としたことになるので、私がスリとった事実は公にならないわけです。


 ほら、ごらんのとおり。


「おっと、大事なメモを落としていたらしい……あぶない、あぶない」


 受付役の魔法使いは、地面に落ちていたメモを拾ってから、ギルド前に集まった女の子たちに、契約書を配布していきます。


 私は契約書を受け取るなり、じっくり隅々まで読むことにしました。


 まずは一番気になっている、違約条項からです。


 長期契約ではなく、あくまで今回の試験配信オンリーの契約なので、今回かぎりで離脱しても問題ないですね。


 なお運営に迷惑をかけるような行為が発覚した場合、前金は没収になります。


 この【運営に迷惑をかけるような行為】の部分に、わざとクエストを失敗することが含まれているのかは、なんともいえないですね。


 あえて曖昧な条項にすることで、前金の没収条件に幅を持たせたんでしょう。そうしないと、私みたいなやつが悪用するから。


 まぁ、このあたりの機微は、現場の雰囲気を読み取りながら、臨機応変に対処していくしかないでしょうね。


 次に読み込んでいく契約書の項目は、配信で得られた利益の分配条件なんですが、かなり気になる内容でした。


 私は、仲間たちと円陣を組むと、利益の分配条件にまつわるエトセトラを、小声で会議することにしました。


 どんな内容の会議になったのかは、次回のおたのしみに。

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