第23話 勇者パーティーが受注したクエストの内容と、私たちアルバイトの役割について

 私と、盗賊イシュタルが、がるるるっと犬猿の仲で睨み合っている間に、仕事の説明が始まりました。


 勇者エリアフは、簡素な図形の描かれた黒板に、手のひらをバンっと当てました。


「今回受注したクエストは、魔王軍四天王の一人、ドルンバンが支配するダンジョンの攻略だ。さすがに敵の数が多いからね。配信機材を自分たちで持ち運ぶと手間がかかるし、野次馬に入ってこられても困るから、君たちに手伝ってほしい」


 四天王???


 そんな危なそうなところを攻略するつもりですか。


 さすが勇者パーティーですね。


 噂によれば、平均レベルが60前後あるらしいですけど、四天王攻略だって射程に入っているんですね。


 そんな私の心理状態を読んだらしく、盗賊イシュタルがわざわざステータス画面を見せてきました。


「俺様のレベルは60だ。すごいだろ? とくにスピードの値がぶっちぎってるぜ」


 あぁ、鬱陶しい! なんなんですか、こいつは……?


 どこぞの馬の骨じゃなくて、腐っても勇者パーティーの一員ですからね?


「ノーサンキューなんですよ、この匂いフェチの変態」


 私は、イシュタルのステータス画面を、ぽいっと投げ捨てました。


 でもイシュタルは、にやにやしながら、ステータス画面を拾ってくると、私の顔にべたっと貼り付けました。


 こ、こいつ、なんでこんな腹の立つことを繰り返すんですか……!!!


 頭にきたので、私は自分のステータス画面を、イシュタルの顔に貼り付けました。


 イシュタルは、私のステータス画面を一瞥すると、ぽかーんとしました。


「うわっ、こいつのステータス低すぎ…………あれ、お前、なんか運の値だけ、やけに高くないか?」


 腹の立つやつですが、やっぱり勇者パーティーの盗賊だけありますね。私の長所を一発で見抜きました。


 そう、私、運だけは高いんです。


 つまりレベル1の私が、あれこれ無茶なことをしながら生き残っているのは、まさに運がいいから。


 でも、こんなムカツク盗賊に付きまとわれているのは、あきらかに不運ですよ。


 まぁどれだけ運のステータスが高くても、たまには運が悪いこともありますから、これぐらい見逃してあげますよ。


 さて勇者エリアフの説明は、いまも続いていました。現在は、ダンジョンの形状についてです。


「地上、地下一階、地下二階、の三層構造だ。道の幅はそこそこ広いけど、生息してるモンスターが大型タイプばっかりだから、せまく感じるかもしれない」


 一つ目の巨人サイクロプス、牛の頭を持ったミノタウロス、大酒のみのトロル、他にも大型モンスターばっかりです。


 うん、むさくるしいダンジョンですねぇ。


 できることなら近づきたくないです。


 ダンジョンの形状と出現モンスターについて説明が終われば、次は四天王ドルンバンの特徴です。


「見てのとおりマッチョマンだ。オーガタイプで、パワー一辺倒。魔法は使えないが、とにかくタフ。力の信奉者だね」


 オーガといえば、鬼人です。二本の角があって、たてがみはモサモサです。身長は三メートルぐらいあって、巨木みたいな筋肉の持ち主です。


 どうやら武器は使わず、鍛え抜かれた己の肉体をのみを武器にしているそうですよ。


 あれまぁ、うちの美少女武道家みたいな四天王ですね。


 そのシーダさんですけど、うんうん、とうなずいています。


「やはりパワーはいい」


 四天王に共感してどうするんですか、まったくもう。


 最後に勇者エリアフは、私たちアルバイトの役割を説明しました。


「配信機材は、すでに船に積み込んであるから、現地の船着き場に到着したら、それをダンジョンまで運んでくれ。野次馬たちの排除だけど、それ専用のマジックアイテムも用意したから、うまく使ってくれよな」


 というのは表向きの説明で、実態は少し違うようです。


「まぁすぐに終わると思うよ。露払いが失敗したらダンジョンに入るけど、露払いに成功すれば、ダンジョンに入ることなくクエスト完了だから」


 露払いが、なにを意味するのかわかりませんが、これにて説明は終了しました。


 さっそく移動開始です。


 なんですが、その際に、帝国騎士のみなさんが、机の下に隠れている戦士のアカトムさんに気づきました。


「あそこの彼女は、いったいなにをしているんだい?」


 あっ、まずい。アカトムさんにしてみれば、実家のお兄さんとの兼ね合いがあるので、正体に気づかれてほしくないはず。


 アカトムさんも、およよーっといわんばかりの泣きそうな顔で、ぶるぶる震えています。


 はたして、アカトムさんの正体は、帝国騎士団にバレてしまったのか、どうなのか?


 次回に続きます。

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