第18話 ダンジョン配信でスタートダッシュを決めるために、ちょっとした小細工を

 さっそくVITを使って、組織に属さない個人配信を始めるわけですが、せっかくですから、スタートダッシュを決めることにしました。


 私は、とある求人広告を持ってきました。


「みなさん、これを見てください。なんと勇者パーティーがアルバイトを募集しています」


 武道家のシーダさんが、アルバイトという単語に向かって、正拳突きしました。


「アルバイト? クエストをクリアして、お金を稼がないのか? 我々は冒険者なのに?」


 その質問に限定して答えるなら、私たちみたいな弱小パーティーの場合、冒険で得られる利益が少なすぎるので、普通に労働したほうが圧倒的に稼げるんです!


 それなら労働者になれよ、というツッコミはなしです。だって冒険者にはロマンがあるんですから。


 ロマンは安定収入より尊い! 尊いんです! 本当なんです! しくしくしく…………。


 っと、そうじゃなくて、この求人広告に応募する理由は、ちゃんとダンジョン配信に関わっているんですよ。


 戦士のアカトムさんは、求人広告を読み込むと、ははーんとうなずきました。


「ダンジョン配信を補助するアルバイトだ。撮影機材の運搬と、撮影現場に入ってくる部外者を追い払えばいいんだね。この仕事をこなしながら、ボクたちも配信すれば、勇者たちの配信ノウハウを盗めるし、彼らの視聴者がうちの配信に流れてくる」


 大正解だったので、私はアカトムさんの背中をバシンっと叩きました。


「その通り! これぞ寄生虫配信の極意ですよ。いやぁ、アカトムさんも腹黒くなってきましたね。実家に帰ったとき、騎士の家族にどんな目で見られるのか、いまから楽しみです」


「しくしく……ボクは騎士の生まれなのに、貧乏に負けて汚れキャラになってしまった……」


 とてもいい傾向ですね。私たちはネタ枠で人気配信者になろうとしているんですから、清廉潔白ではやっていけないんですよ。


 僧侶のレーニャさんは、VITで勇者パーティーの過去配信ログを再生しながら、にやにやしています。


「勇者パーティーってさ、見た目もかっこいいし、お金もあるし、人気者だし、今回のアルバイトがきっかけで、仲良くなれるかも」


 私は、レーニャさんの肩越しに、勇者パーティーの過去配信ログを見ました。


「こういう正統派のイケメンが好みということは、レーニャさんって、意外に普通の乙女みたいな趣味だったんですね」


「なによ意外に普通って。っていうか、勇者パーティーよりも、競馬ジョッキーのほうがかっこいいから、勘違いしないでよね」


「なんでもギャンブルにつなげる人……」


「別にいいでしょ! そういうあんたは、どういう男が好みなのよ」


「私だって、好みの男性は正統派ですよ。ところで、勇者パーティーの盗賊の人なんですけど、どこかで見たような……?」


 私は、勇者パーティーの盗賊を、どこかで見たことがある気がしていました。


 長身痩躯の男子です。切れ長の目で、鼻・耳・顎、すべてがシャープ。表情は自信満々で、誰がどう考えても俺様キャラです。


 どうやら素早い動きが自慢らしく、なにげない日常動作ですらキレキレですね。


 なんというか、このキレキレのうざい動きに、見覚えがあるんですよ。


「えっ、なになに、ユーリューって、屈折したイケメンが好みなの!?」


 レーニャさんが、耳元で飛び回る蚊みたいな動きで、私にまとわりつきました。


「いや、そういうわけじゃなくて、どこかで会ったことがあるような……?」


「運命の出会いってこと!?」


「レーニャさん、実は恋愛トーク好きだったんですね……?」


「そうよ好きよ。でもこのメンバーだとまったく恋話なんて起きないから、ずっと話す機会がなかったのよ」


 私、腹黒トーク。


 僧侶のレーニャさん、ギャンブルばっかり。


 戦士のアカトムさん、日常生活にまつわる常識的な話題。


 武道家のシーダさん、脳筋。


 うん、恋話が起きないですね。


 さらにいえば、これまでまともな収入源がなかったから、恋話をする余裕がなかったのもあるでしょうね。


 しかし、いまの私たちには、5000ゴールドの前金(ただし、ある程度使ったので、1000ゴールドしか残っていない)があるし、ダンジョン配信という希望の星まであるわけです。


 よしっ、ダンジョン配信で成功して、お金持ちになりますよ!


 やっぱり冒険者はロマンを求めないと!


 というわけで、私たちは、勇者パーティーのアルバイトに応募するために、戦士ギルドに向かいました。


 しかし、誤算がありました。


 いや、予想はしていたんですが、想定より多かったといいますか。


 勇者パーティーのアルバイト募集に集まった人数が、百人近かったんですよね。


 あー、これは、普通に落ちる可能性が出てきましたねー…………。

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