第13話 わざとクエストを失敗しましょう、当たり屋の経験を使って
というわけで、当たり屋作戦、開始です。
私は、武道家のシーダさんと、口論をはじめました。
「ちょっと可愛いからって、いい気にならないでください」
台本通り喋っているんですが、でも実際可愛いからって、いい気にならないほうがいいと思うんですよね。
だって悔しいじゃないですか、私が。
生まれながらに男顔だと、まったくモテないわけです。いやもうこの際モテなくていいから、せめて女の子として認識してほしい。
もう二度と、男と間違えないでください。いいですね、みなさん、約束ですよ。
と、私はあれこれ考えながら、シーダさんの台本通りの返事を待ちます。
しかしシーダさんですが、なぜかフンフンとスクワットを始めました。
「可愛くても筋肉がなければ意味がない」
台本と違うことを言われましたが、まぁいいでしょう。これぐらいなら修正範囲です。
「それは自慢でしょう。見た目は十分可愛いから、さらに優れたモノが欲しいっていう」
「違う。もっとパンチ力が欲しいのだ。すべてを一撃で粉砕できる圧倒的な力が」
しゅっしゅっとパンチの練習です。うん、完全に台本無視してますね。やっぱり脳筋に当たり屋の相方頼んだのが間違いでした。
もうこうなったら、私の柔軟性で、強引に当たり屋展開に持っていきますよ。
「な、なんですか脅しですか、そのパンチは」
と仲間割れしているフリをしながら、私はジリジリ後退りしました。
この少しずつ後ろに下がる動きが本命です。口論はそれを自然に見せるための伏線だと思ってください。
やがてシーダさんは、こぉおおっと特殊な息遣いで気合を入れてから、ずがんっと地面を叩きました。
「天元岩盤割り!!!!」
どうやら彼女なりに台本通りに動いたみたいなんですが、必殺技を撃てとは言ってないですからね!?
彼女の必殺技により、パンチした地盤が直線で割れて、その衝撃波が私に向かって迫ってきます。
「これを避けるの地味に難しいんですが!?!?!?」
台本とかなり違う展開だし、そもそも必殺技が直撃したらマジで痛いじゃないですか!
だって私レベル1の遊び人ですからね????
HPも防御力も、めっちゃ低いですからね????
でも、いまさら後には引けないので、当たり屋展開をやりきるしかないです。
私は、ちらっと一瞬だけ背後を確認。
物陰に隠れた魔法ギルドの職員が、私たちの隣にいるパーティーのスカートを、風の魔法でめくろうとしていました。
そのタイミングにあわせて、私はバックステップしました。
しかも、シーダさんの必殺技を回避した体裁になるように、ちゃんとバックステップする角度も計算しています。
その結果、魔法ギルドの職員が撃った風の魔法が、私の側面にヒット。
そこそこ強い冒険者であれば、そんなダメージを受けないんですが、私はレベル1の遊び人なので、大ダメージを受けました。
私は人形みたいに吹っ飛ばされて、クエストのクリア条である宝箱に激突しました。
あぁ、マジで痛いやつ! 全身がバキバキな感じ! ちょっとやりすぎましたね、これは……。
でもそのおかげで、宝箱は木っ端みじんに壊れて、クリア条件である中身の鉱石があっちこっちに飛び散ってしまいました。
そう、これでクエストクリアは、不可能になったんです。
おまけに私はHPゲージが減っているので、冒険を継続することすら不可能です。
しかも裏側はともかく、表側の体裁としては【魔法ギルドの監視役が、風の魔法で私をぶっ飛ばした】ことになったので、魔法ギルドの職員が真っ青な顔でやってきました。
「お、おい、そこの君、ケガは大丈夫か?」
例のメモによれば、出演者の女の子たちが怪我しないように見守ることも、監視役の仕事のはずですからね。
それなのに彼は、私を大怪我させてしまった。これは大失態ですよ。
私は演技として……いや本当に痛いので、かなりリアルに救援を求めます。
「うーん……結構痛いです……足も動かないので、外まで運んでください」
「わかった。担架を用意する」
こうして私は担架でダンジョンの外まで運ばれることになり、パーティーはクエスト中断扱いになりました。
作戦成功!
迷惑条項に引っかからないように、クエストを失敗して、前金5000ゴールドをゲットしたわけです。
ふふーん、これが当たり屋で鍛えた戦法ですよ。
自らの体を張ることで、目的を達成する。しかも責任は相手に負わせる。
レベル1の遊び人という最弱ステータスが、当たり屋稼業をやるとなれば、ダメージを受けやすい肉体というストロングポイントに早変わりですよ。
完璧&完璧な作戦。
肉を切らせて骨を断ったんですね。
ただし、私のダメージも想定より大きかったので、足が本当に痛いです。治るまで結構かかりそう。
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