第12話 収入と承認欲求と配信者としての先細り

 おパンツパワーによって視聴者を集める光景に、僧侶のシーダさんは軽く引いていました。


「自分から、ぱ、ぱ、パンツを見せにいくって、やっぱりあの人たち、頭おかしいってば」


 うん、まぁ、常識的な感覚でいえば、こういう感想になって当然なんですよ。


 ただし、自ら武器になると確信しているなら、配信者として強いんです。


 もちろん用法容量を守らないと、あっという間に飽きられてしまいますから、使いどころが難しいんですけど、あのパーティーは女の魔力の使い方を心得ているので、ずっと強いままでしょうね。


 戦士のアカトムさんは、おパンツパワーの扱いに悩んでいました。


「貞操観念の問題は難しいね。どこにラインを引くのかは本人たちの問題だし。そもそも魔法ギルドのセクシー路線だって、過激化しすぎれば《本番》を配信するバカも出てくるから、どこかで禁止ラインを作るはずだし」


 間違いなく、広告収入と承認欲求に負けて、《本番》を配信するバカは出てくるでしょうね。


 その前に手を打つのか、それとも問題リストを作成するためにあえて見過ごすのかは、利害関係者の気分次第でしょう。


 武道家のシーダさんは、他のパーティーの様子を観察していた。


「どうやら、おパンツパワーを真似するやつが出てきたらしい」


 さきほどシーダさんが話しかけたフル装備のパーティーが、防具を脱ぎ捨てて、いつでも洋服を脱げる態勢になりました。


 どうやら風の魔法をあえて受けることで、おパンツパワーで視聴者を増やす気になったらしいですね。


 なんで彼女たちが心変わりをしたのかは、魔法ギルドの人が教えてくれました。


「あれだけ同時視聴者数が集められるなら、現時点の広告収入だけで、すでに1000ゴールド突破してるよ。配信者の分け前が七割だから、700ゴールドだね」


 たった八分の配信で、一週間ほど宿に泊まれる金額を稼げるんですか?


 それだけ稼げるなら、事前の方針を投げ捨てて、おパンツパワーを利用したくなるパーティーが出てきても不思議ではありませんね。


 いやぁ、大変なことになってきました。やっぱりお金と承認欲求は、違法な薬と同じぐらい理性を揺るがすものがありますよ。


 僧侶のシーダさんまで、頭を抱えてしまいました。


「うーん、あれだけ稼げるなら、ちょっとだけ決意が揺らぐかも……」


 気持ちはわからないでもないですよ。財布と承認欲求が満たされちゃいますからね。


 でも私たちはやるべきじゃないです。その理由を仲間たちに語りました。


「倫理的な問題や、配信者としての先細り問題もありますが、それ以上の問題があります。私が男に間違えられるほど可愛くないから、セクシー路線で勝負しても百パーセント負けるんです」


 客観的事実が、自虐ネタになるのは、正直悲しいですね。


 でも説得力はあったので、パーティーの仲間たちは、神妙な顔でうなずきました。


 うなずくだけで終わってしまったともいえます。


 私が自虐ネタでみなさんのピンチを救ったんだから、ちょっとぐらいカバーしてくれてもいいじゃないですか。


 そんなことないよ可愛いところもあるよ、とか。きっとかっこいいカレシが見つかるよ、とか。


 はー、うちのパーティー、結構冷たいところありますねぇ。


 まぁいいですけど、この腹黒さを活かして、いつか幸せになるので。


 ちなみに、うちのパーティーで一番の美少女である武道家のシーダさんは、ぐっと握り拳を作って、こう言いました。


「稼いだ配信者を殴れば、我らがパンツをさらさずとも、広告収入を奪える」


 だからなんでこの美少女は、思考回路が山賊よりなんでしょうか……?


 戦士のアカトムさんは、なんだかんだ真面目なので、先のことを考えていました。


「そんなことより、どうやって当初の目的を達成するか考えないと。魔法ギルドの人たちも監視しているし、ダンジョン配信全体の視聴者数が増えてきたから、この会話だって監視されてるわけだし、ちょっと難しくなってきたね」


 そう、うちのパーティーみたいな、なにもしていない配信でも、十人ぐらい見るようになっていたんですよ。


 それぐらい視聴者数の総数が増えたんですね。


 こんな監視されている状況で、迷惑条項に引っかからないように、クエストを失敗しないといけません。


 どうやって、ダンジョンの奥にある宝箱から、クエストの目的である鉱石を持ち帰らないようにするのか?


 私は、ぴーんと閃きました。冒険者になる前に当たり屋をやった経験が、こんなときに生かされるわけですね。


 うんうん、当たり屋をやっておいてよかったですね。


 というわけで、当たり屋からインスピレーションを受けた作戦を、仲間たちにゴニョゴニョ小声で教えていきます。


 戦士のアカトムさんが、またもや呆れました。


「ユーリュー、君が仲間でよかったよ。もし敵だったら、すごく厄介なことになってたと思う」


 そうでしょう、そうでしょう、私が仲間でよかったですね!


 うちの配信を見ているみなさんだって、そう思うでしょう?

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