第5話 ゼランで求人・ゼランで高収入♪ 前編

 クエスト手配師のゼランですが、いかにも怪しい風貌でした。


 濃いサングラス、整えたカイゼル髭、表情の読めない営業スマイル。


 顔のパーツだけでも怪しいのに、ギンギラギンの派手なスーツを着ていて、しかも胸元をガバっと開けているせいで、茨のようにもじゃもじゃした胸毛が丸見えです。


 うーん、怪しすぎる。


 いますぐボコボコにして川に投げ捨てたいぐらいですが、さすがに現段階では儲け話を持ち掛けられただけですからね。


 まずは正当な言葉をぶつけて追い払いましょう。


「ゼラン、あなたの儲け話なんて信用できませんよ。かつてアカトムさんたちを騙して、タチの悪いキャバクラで働かせようとしたでしょう」


 いくらある程度バカ騒ぎを許容するキャバクラであっても、マナーが悪ければ出入り禁止になります。


 そんな出入り禁止になったお客さんが、もしお金持ちだった場合、お店側としては、もったいないわけですよ。


 そこで考えついたのが、お金持ちの厄介客だけを集める店舗でした。


 でもそんな危ない店舗、普通の女の子に務まるはずがないので、危険に慣れた冒険者の女の子を集めることになりました。


 しかし普通に広告を出しても集まらなかったので、高収入の冒険があると偽って、クエスト手配師ゼランに集めさせたわけですね。


 そんな詐欺を働いていたゼランですが、まったく反省していませんでした。


「騙してはいないだろ。【モンスターと同じぐらい厄介な敵が洞窟にいる。こいつらをうまくさばければ、高額報酬だ】と言ったんだ。なに一つ間違ってないよな?」


 そう、洞窟内にある店舗だったんです。


 クエストの募集要項にも、正規の手続きで洞窟の地図が貼られているせいで、アカトムさんみたいな騎士階級のしっかりモノでも見抜けなかったわけですね。


 でも、ちょっとした縁によって彼女たちと親しくなった私が気づきまして、事なきを得ました。


 こうして彼女たちは、世間知が欠如していることに気づいて、私をパーティーに誘ったというわけですね。


 うんうん、やっぱり私、役に立ちますね。レベル1の遊び人でも問題なし!


 おっと自分語りに時間を割きすぎました。


 さて戦士のアカトムさんですけど、まるで親の仇みたいな勢いで、クエスト手配師ゼランをにらみつけました。


「ボクたちを騙そうとした前科があるのに、なんでわざわざ怪しい案件を持ってくるのさ。もし恥という概念を知っているなら、今すぐ帰るべきだね」


 うんうん、まったくもって正しい反応ですね。さすが代々騎士の生まれ。


 僧侶のレーニャさんは、ゼランに向かって、あっかんべーをしました。


「どっかにいっちゃえ、胸毛サングラス」


 ストレートな悪口も、今回ばかりは正しいですね。あの胸毛は、もはや犯罪ですから。


 武道家のシーダさんは、いつでもゼランを殴れるように構えました。


「人間を殴るのも得意」


 クエスト手配師ゼランは、シーダさんの鍛え抜かれた拳を見るなり、つーっと冷や汗をたらしました。


「お、落ち着けって、とくに武道家のシーダ。いきなり殴ったら、せっかくの儲け話が、ぱぁーになっちまうよ」


 なぜ彼がシーダさんの拳を恐れているかといえば、洞窟キャバクラでパーティーを騙そうとした際、シーダさんが激怒して鉄拳制裁したからですね。


 あの日、ゼランは崖から落ちて重傷を負ったはずですが、なぜか生きています。ゴキブリみたいにしぶといですねぇ。本当に気持ち悪いやつです。


 こんなやつの依頼なんかに耳を傾ける必要はないので、私はさっさと追い払うことにしました。


「さっさと帰ってください。私たち野宿の準備が忙しいので」


 野宿というキーワードに、ゼランはサングラスの奥にある妖しい瞳を輝かせました。


「街の近くで野宿ってことは、お前ら金に困ってるんだろ!? なら今回の儲け話に乗れよ。まともな仕事なんだ。だってケツモチが魔法ギルドなんだぜ!」


 といって彼が差し出したチラシには、こんなメッセージが踊っていました。


【表題:ダンジョン配信で高収入!】――【本文:ゼーラン、ゼランゼランで求人、ゼーランゼランゼランで高収入♪ 即日配信求人、ゼラン♪ 今日すぐ稼げるお仕事、ゼラン♪】


 あからさまに水商売向けのキャッチコピーが並んでいたので、シーダさんは無言で激怒すると、完全無欠の右ストレートでゼランをぶん殴りました。

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