第1話 まずは自己紹介から。私の名前はユーリュー、職業は遊び人です

 ダンション配信のきっかけを語るためには、約一か月ほど前にさかのぼる必要があります。


 当時の生活状況から触れるとして、ついでに私たちの自己紹介もしていきましょう。


 まず私から。名前はユーリューです。性別は女の子なんですが、よく男の子に間違えられます。原因はわかっています。


 背が高くて、顔のパーツが凛々しいタイプで、ショートカットの髪型と黒ぶち眼鏡が似合っていて――そしてなによりも貧乳だからです。


 はー、貧乳は基本的に損ですね。男子にちやほやされないし、あまりにも小さすぎるとドレスも似合わないし。もし私の胸がもう少しだけ大きかったら、あれこれ得する場面もあったでしょうに。


 さてそんなボーイッシュな私ですが、職業は遊び人です。


 いやギャグじゃなくて、本当に遊び人という職業で冒険者ギルドに登録されています。


 だから装備は遊び人用のジャンプスーツで、得意技は手品です。それといって得意な武器はありません。重たい防具も装備できないですし。


 なかなかふざけた職業ですが、私の求めているステータスである運の値が一番高かったので、これを選びました。


 戦闘向きのスキルなんて持っていない職業ですが、私は前向きに考えています。だって遊び人は、高レベルになると賢者に転職できますからね。


 というわけで、明るい未来を目指して、野宿の準備でもしますか。


 そう、野宿です。


 私たちは、中継都市ハーギヤという交易の中継地を冒険の拠点にしているんですが、うちのパーティは貧乏なので、宿に泊まるお金がないんですね。


 だからといって都市の内部で野宿をすると、公共空間の税金を払えと役人がうるさいので、外壁の外で野宿しないといけません。


 というわけで、私たちは外壁沿いに陣取ると、四人で手分けして、野宿の準備を始めました。


 私の役割はテントの設営です。手ごろな石ころをトンカチ代わりにして、テントの杭を固定していきます。


 額に汗しながら野宿の準備をしているとき、都市の内部から料亭で提供しているコースメニューの香りが漂ってくると、実にイラっとします。


 ですが料亭が悪いわけじゃなくて、お金を持ってない私たちが悪いんですから、じゃあ置き引きとか、スリとか、当たり屋でもやって一儲けしようかなぁ、と心の中の悪魔が騒ぐわけですよ。


 しかし犯罪に手を出したら、もはや冒険者ではなくて、山賊の亜種なので、ぐっと我慢しましょう(ただし冒険者になる前に、複雑な事情があって、やむなく当たり屋をやったことは白状しておきます)


 とにかく大切なことは、心の内側に溜め込んだ怒りと不満を『いつか絶っっっ対に成り上がってやるから覚悟しとけよ!!!!』と気合に変換することです。


 なんて偉そうなことを言いましたが、私たちは住所不定無職なので、地元住民にしてみれば、怪しい連中なわけですよ。


 となれば、地方都市の衛兵が、見回りにやってきました。


「そこのお前、こんなところで野宿するんじゃない」


 私の本音としましては『うるさいですねぇ、国王の犬風情が。私たちがどこで野宿しようが勝手でしょう』と言いたいところです。


 しかし、それをいってしまったら、最悪豚箱行きですし、そもそも彼だってお仕事で巡回しているわけですから、もっともらしい言い訳をすることにしました。


「衛兵さん、私たち貧乏な駆け出しパーティーなんです。路銀が底をついてしまって、宿に泊まるお金もありません。どうか見逃してください、およよよ~……」


 手品で鍛えた小技により、衛兵から見えない角度で目薬を取り出して、己の目玉に数滴――およよよ~と泣いたフリをしました。


 私ってば、遊び人らしく演技派ですね。


 さて衛兵なんですけど、どうやら私の演技が突き刺さってしまったらしく、やや困った顔をしてから、ため息混じりで巡回に戻りました。


 やりました! 私の演技で国王の犬を追い払いましたよ!


 えっへん、私ってば偉い。


 さて、私の担当であるテントの設営は終わらせたので、あとは仲間たちが担当した仕事が終わるのを待つだけですね。


 噂をすればなんとやら。仲間たちが続々と戻ってきたわけですが、彼女たちの紹介は、次回に持ち越しですね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る