レベル1からレベル5までしかいない低レベル女の子パーティーなんですけど、ダンジョン配信を始めたら冒険の収入より広告収入が上回りました

秋山機竜

貧乏すぎて野宿を繰り返していた時代ですね

プロローグ 金、金、金、まったく世の中どうしてこんなにお金が必要なんでしょうか

 レベルが低いパーティーにはお金がない。そう思っていた時期が私にもありました。


 しかし紆余曲折の末に、ダンジョン配信を始めたら、そう悪くない収入を得られるようになったんです。


 じゃあダンジョン配信をやる前はどうだったのかといえば……はい、うちのパーティーは本当に貧乏で、野宿を頻繁にやっていましたね。


 いやまぁ野宿は冒険者の基礎なので、スキルはあるんですけどね。野生動物の狩りとか、水場の確保とか、テントの設営とか、火起こしとか。


 でもねぇ、貧乏っていうのはですねぇ、つらくて、みじめで、なにより怒りがたまるわけですよ。


 なんで汚い金持ちどもが綺麗な豪邸で楽しく元気に暮らしているのに、清廉潔白な私たち女の子パーティーが危険な山林で野宿しているんだろうかって。


 あぁ、もし憎しみで人が殺せるなら、あいつらから資産を奪い取るのに。


 あれだけお金があったら、あんなこともこんなことも、やり放題。ぐへへ、たくさんお金欲しいなぁ。


 ……おっと、話がそれてきましたね。とにかくダンジョン配信で貧困生活を脱出した私たちは、今日も元気にダンジョンを冒険しながら配信しています。


 どんなダンジョンで配信しているのかと言いますと、ざっくり総評すれば、そこそこ難しい難易度です。


 あともう一つ特徴があって、ボスが強いです。


 えっ? 低レベルパーティーが、強いボスのいるダンジョンに挑戦して大丈夫なのかって?


 大丈夫です。問題ありません。


 なぜなら私たちの目的は、配信の取れ高を確保することであって、ボスを倒すことではないからです。


 でもダンジョンのボスみたいな悪いやつを倒そうとしないなら、なんで私たちは冒険者になって、パーティーを結成したんでしょうね?


 …………ま、まぁいいじゃないですか。世の中しょせんは金なんですから、魔王退治やらなんやらは、勇者パーティーにまかせましょう。あの人たち、ちゃんと強いし、お金もあるし、品行方正だし、なんとかしてくれますよ。


 私たちみたいな弱小パーティーは、生き残ることだけを考えればいいんですよ、うんうん。


 そんな本末転倒になった私たちのダンジョン配信ですが、現在、同時視聴者数300人ちょっとです。


 駆け出し配信者として考えれば、悪くない数字じゃないでしょうか。


 でも、そろそろ取れ高が欲しいですよね。私たちは広告収入を増やすために、視聴者のみなさんは配信の山場で盛り上がるために。


 あぁ、もちろん配信規約に違反しない範囲内での取れ高ですよ。


 以前配信していたとき、全滅した先輩パーティーの死体が、モンスターに捕食されているシーンが映ってしまって、危うくBANされるところでした。


 いくら我々の意図していないショッキングシーンだったとしても、運営はそんなこと考慮してくれないですからね。


 ホント、ダンジョン配信稼業は、綱渡りの連続ですよ。


 と、過去の名場面を振り返っていたとき、さっそくトラブル発生です。


 私たちの前に、モンスターの群れが通りかかりました。定番のゴブリン、オーク、スライムたちです。軽装で歩き回っているあたり、どうやらダンジョン内をパトロールしていたみたいですね。


 もし勇者パーティーであれば、あっさり倒せる相手なんでしょうけど、私たち弱小パーティーにとっては、そこそこ強敵です。


 中継を見ているあなたならどうします? 私ならこうします。


「モンスターを発見したら、まずは逃げるルートを確認せよ。私の座右の銘です」


 仲間たちに異論はありませんでした。だって配信の取れ高が目的であって、モンスター退治が目的じゃないですし。


 というわけで退路を確認していたら、モンスターの群れが私たちに気づいて、ダンジョンの隅っこから、なにかを荷車で運んできました。


 うわっ、臭い! なにあれ、もしかしてモンスターのフンを溜め込んだ樽? なんであんなモノを溜め込んでいるんですか?


 兵法に詳しい仲間が教えてくれました。どうやら戦時においては、フンも立派な武器になるそうで。知りたくなかった、そんな情報……。


 いや、訂正します。今すぐ知らないといけない情報でした。


 なぜならモンスターの群れは、フンを溜め込んだ樽を、私たちに向かって転がしたんです。


 ぷんぷん臭う不衛生な樽が、坂道を転がって、私たちに迫ってくるんですが!?


 しかもすでに中身が漏れ始めていて、茶色いアレやら黄色いアレやらが、びしゃびしゃ坂道を汚していますが!?


「こういう取れ高はNGですよぉおおお!」


 私は絶叫するなり逃げることにしました。いやぁ、退路を確認しておいて正解でしたね。


 パーティーの仲間たちも、全力疾走で逃げながら絶叫していますよ。「臭すぎ!」とか、「いくら取れ高のためでもアレは浴びたくないね」とか、「あんなの浴びたら病気になりそう……」とか。


 さて、私たちは、無事モンスターのフンが詰まった樽から逃げられたんでしょうか?


 その結果を語る前に、なんで私たちがダンジョン配信を始めるようになったのか、順を追って触れていこうと思います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る