第2話十年の記憶
私は深呼吸する。
すーはーと息をする。
空気がこんなにも美味しいとは思わなかった。
深呼吸している私を女官は不思議そうな顔で見ている。
たしかこの目の細い女官は
この自室には姿見の鏡があったはず。
私は花梨にお願いして、鏡を持ってきてもらう。
寝台からおり、私は自分の姿を見る。
そこにはまだ少女とも呼べる私自身が写っていた。
もう一度私は花梨に確認する。
「今は何年何月だ?」
「はあ……光翔三十二年の四月ですが……」
絵に描いたようなきょとんとした顔で花梨は答える。
花梨の言葉を信じるなら十年前に戻っている。
彼女が嘘を言う理由はないし、鏡にうつるこの姿はまさしく自分自身だ。
導きだされるのはやはり私は十年前に戻っているということだ。
死んだと思ったら、十年前に戻っている。
まずは生きていたことを喜ぼうと思う。
そしてこれからどうするかだ。
放っておけば反乱軍は組織され、
あの毒酒を飲まされたとき、生き残った皇族は私ともう一人だけだった。
そのもう一人は南で抵抗戦争していたと思う。
その人物は
そんなことを考えていたら花梨が声をかけてきた。
「朝食をお持ちしました」
と彼女は言った。
花梨が朝御飯に玉子粥を持ってきてくれた。私にとっては約半年ぶりのまともな食事だ。
「美味しい」
一口食べて私は涙が出てくるのを覚えた。
「殿下、お身体どこか痛むのですか?」
心配そうに花梨が私の顔を見る。
「あ、大丈夫だよ」
私は言った。
粥を食べながら私は頭のなかを整理する。
このまま座してまっていたら、また毒酒を飲まされて殺される。もうあんな苦しい目はごめんこうむりたい。
太史真が反乱軍を組織し、この帝都を陥落させるのを防がないといけない。
私に出きるだろうか?
そんな疑問が頭をよぎるができなければまたあの毒酒をのまされ、死んでしまう。
生き残るにはやはり太史真の反乱をどうにかして防がないといけない。
ではなぜ、太史真が反乱したかだ。
彼は北の国境を守る将軍であった。何度も北方騎馬民族の侵入を阻止してきたまさに生きる英雄である。
ある時、北の騎馬民族が大挙して攻めてきた。その数は少なく見積もっても五万騎はいたという。
太史真は帝都に援軍を要請した。さすがにその大軍には彼の軍だけでは対応しきれないとおもわれたからだ。
だが私の父である皇帝は援軍を送らなかった。
太史真はどうにかして騎馬民族の進攻を防いだが、それが帝国への忠誠を揺らがす原因となる。
いろいろな要因がかさなり、太史真は担がれる形で反乱軍を組織し、わずか一年で帝都を陥落させるのだ。
騎馬民族の侵入があるのは今から八年後だ。
それまでにどうにかしないといけない。
どうして、父である皇帝が援軍を送らなかったのか?
それは愛姫
皇帝が蘭玉陽に出会わなければ、皇帝は太史真に援軍を送るだろう。
私の父はもともとは希代の名君と呼ばれていたのだから。
傾国の美女に出会わなければ、私は太史真に殺されずにすむのである。
私が十四歳のとき、まだ蘭玉陽は皇帝の妃の一人になっていない。
皇帝に会う前、彼女はどこにいたんだっけ?
記憶をたどるが、思い出せない。
気がつけばあの蘭玉陽は皇帝の側にいた。
確実なのは十四歳のこの時はまだ蘭玉陽は皇帝の近くにいないということだ。
私が先に蘭玉陽を見つけだし、皇帝にに近づかさなければ、この帝国は傾かなくてすむ。そして私は死なずにすむのだ。
「蘭玉陽はどこにいるんだ……」
粥の最後の一口をすすりながら、私はぼそりとつぶやいた。
「あら殿下は玉陽のことをご存知なのですか?」
細目の女官花梨が私に話しかける。
「えっ?」
私は花梨の細い目を見る。この女官、目は一重で細いけど、どこか憎めない愛嬌があるな。
「私の友人ですよ」
にこやかに微笑みながら、花梨は言う。
これはなんたる幸運なのか。
私付きの女官があの傾国の美女と知り合いだったとは。
「花梨頼みがある。その蘭玉陽に合わせて欲しい」
私は花梨に頼む。
「はあ、まあ構いませんよ」
花梨は言った。
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