第4話

 事件の後、どうすればよかったのだろう。

 路はぼんやりと考えている。男に会っても、何も解決はしなかった。あの男は、おかしい。おかしい人間に何を言ってもダメだった。

 すごく悔しくて仕方が無くて、しかしそれがずっと続くと、自分の心がなくなっていくことに気付いた。

 何に怒っているのだろう、いや、怒っているのだろうか。

 とにかく、会社にはいかなくてはいけないから、急いで支度をした。

 普通を装うのは難しかった、だから、周りの同僚にもあの事件の被害者の中に彼がいて、そのことが知れ渡っている。

 最初は気づかれなかったけれど、テレビの報道や、私の電話の内容、彼の名前を知っている人もいたから噂が広まるのはすぐだった。

 けれど、この会社の人はとても優しくて、私はまだい続けることができている。

 「はあ…。」

 だから、帰るのが億劫だった。

 帰れば母が、私を過剰に気遣ってくれる。

 それはそうか、今にも死にそうな娘を、放っておける母親などいないだろう。

 けど、私にはすべてが重荷だった。

 でも投げ出すわけにはいかない、だから背負っている。


 俺は、何をしていたのだろう。

 もう、元には戻れない。そんなことは分かっているのに呼吸をしている。呼吸をし続けている。

 何に不満を感じていたのだろう、でも、何にでも、全てに不満足であったことだけは分かる。

 彼女だって、作ったことがあるのに、それでも何をしても満足できなかった。

 俺はどこかが壊れているのかもしれない。でもそれは仕方が無いことなのだと思う。

 ぶっ壊れたまま、そのまま、俺は今、前を見ている。

 そこには、ぶっ壊れた、現実が広がっていた。

 俺はもう、やめにしようと思った。

 自分の中の暴力性をはるかに超えた、拡張された現実、俺がしたのは、ほんの少しだけのことだったように思う。

 けれど目の前にはただ、真っ赤な現実が広がっていた。

 警察を、呼んだ。

 もう、やめよう、と思ったのだ。

 めんどくさくなってしまった。

 真っ暗で空っぽな、とてもとても意味のない、この場所。

 ここにいるくらいなら、早く外に行こう、そう決意していた。


 「…あれ?」

 あれ、ここどこだっけ?ちょっと記憶が飛んでいる。しかし、とても焦燥感があって、どうしよう。何だろう、何をしようとしていたんだっけ?

 「ねえ。」

 「あ…。」

 路だ、いたのか。

 「やっと目覚めたんだね。」

 「え?」

 目覚めた?寝てたのか、僕は?

 「良かった。」

 そう一言いい残して、路はいなくなった。

 僕は、まだ、何が何だか、理解できていない。

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