第3話

 ああ、あり得ない。

 全くさ、こんな事件調べるなんて、私に言わないで欲しい。しかし、血なまぐさくて嫌だ、仕事とはいえいつもいつも、人間ってなんてグロテスクなのだと思ってしまう。

 休日はもう人間を見たくなかったから、部屋にこもって本を読んでいる。

 空っぽで、空白なその時間が、最近は息苦しい。

 「ねえ、一体何なんだよ?」

 「何って?」

 眉毛を挙げて、恐ろしいものを見るような目で彼は訴えかける。それはそうか、何人も死んでいるのだ。それに、概要は分かっている。ある男が、この小さな島に立てこもり、人質を23人取っていた。

 そして、ここで監禁生活をさせ、警察にすらその事情は知れ渡らなかった。

 なぜ、人が死んだのかは分からない。犯人の男は、死んだ。だから誰も事情を知ることができない。

 しかし、私達はそれを、調査しなくてはいけない。

 「てか火薬臭い、こいつらここでホント、何してたんだよ。」

 異様な光景だった。

 火薬の残骸のようなものや、血の跡、固まっているけれど分かる。なぜ、こんなことをしているのだろう、とか疑問をさしはさむ余地すらない惨状、呆れてしまった。

 「ちょっと、俺無理っす。」

 「分かった。船で休んできな。」

 私はそう言った。

 でも、彼の気持ちも分かる。だって、そこら中にぐちゃぐちゃに擦り切れた衣服や、人間が、関与している道具がゴロリと落ちている。

 でもそのどれもが尋常じゃない汚れ方や、壊れ方をしていて、何が起こったのかを、悟らせることすらしない。

 はあ、訳が分からない。

 これは、何なのだろう。


 人質を取って島に立てこもろうといったのは、俺ではない。

 それは、俺がたまたま応募したアルバイトの内容だった。 

 つまり、指示役は俺ではない。

 ここに人質を立てこもらせて、金銭を奪取しようというのが初案だった。

 だから、最初の目的はたった一人、お金持ちの子女を狙いに定めていたのだが、俺は23人をさらった。

 何をしているのか、という自覚は薄かった。

 けれど俺は、それを実行した。

 なぜ、かは分からないけれど、でも彼らは最初、とても脅えた顔をしていた。

 それはそうだ、俺は銃を突き付けていた。

 「………。」

 しかし、口から言葉は出ない。

 相変わらず、俺はいつも通りどこかがおかしかった。寝る瞬間、ふっと現実が浮いたような感じを覚えることが増えたが、俺にはもう突き進むという道しか見えなかった。

 けれど、後悔している。

 きっとこれは、俺の本当にしたかったことなどではないのだ、だから、死のうと思った。

 とっとと、死ぬのだ。

 俺は、

 そう決めた。

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