第5話 決断と決断<暁音>
翌日 夕方過ぎ
蓮から起きましたと報告が入った。
数日後
“R-end”のメンバーが全員揃っていたので、ちょうどいい機会だと報告をした。
「すまない。薄々気づいているかもしれないが、俺はお前らのプロデュースから離れることになった」
「えっ暁音さんなんで」
メンバーは皆戸惑っているようだ。
「後任は悠だ。もし何かあれば彼に連絡するように」
「えー暁音さんは何するの?」
琉が質問してきた。
「しばらく海外に行く」
「えぇーいいな俺も行きたい」
「仕事だぞ」
琉は仕事と聞くと嫌そうな顔をした。
「どれくらい行かれるんですか」
「うーん少なくとも半年ぐらいかな」
「結構長いですね」
「そうか?」
世界的スターのスティーヴ。彼の周年記念のドラムのサポートとしてワールドツアーを一緒に回る予定なのだ。練習期間も含めても数ヶ月。そしてその後しばらくは拠点を海外にしようかなと思っていた。
「ずっと日本で仕事できていたのになんで海外へ?」
蓮が少し含みのある言い方をしてきた。
「あーそれは知り合いにドラマーとしてライブツアーを一緒に回らないかって誘われてな」
「誰です?」
「スティーヴさ」
「スティーヴ……。って”solaria”とか”Way of you”とかの?」
「あぁさすがに知ってるか」
蓮はまっすぐにコチラを見た。
「知り合いなんですか」
「あー。親の知り合いで小さい頃よく面倒見てもらったんだよ」
どうやって父がスティーヴと知り合ったのかは知らないが、俺が物心着く頃にはすでに仲が良かったのである。
俺がドラムを始めたのも彼の影響だ。
「だからあんなに家が大きいのか」
メンバーも何度かうち《実家》でレコーディングをしたことがあるので、だいぶ合点が入ったようだ。
「あれ俺家のこと言ってなかったっけ?」
「俺は遠縁だから知ってるよ」
琉は実は親戚である。”R-end”のベーシストとしてどうかと薦めたのは俺だ。
「俺は興味なかったから知らない」
蓮がサラッと告げた。しかし俺も自分の家のことを抜きに俺を見て欲しかったのもあって言ってなかったのかもしれない。
業界で名のしれた両親。その子供というだけで、七光だの両親のおかげだの陰口はだいぶ聞いた。
俺は両親とは違う楽器をやっていたこともありそこまでの言われなかったものの、兄は父と同じピアニストの道を選んだので相当比較されてきたのではないかと思う。
それでも兄は俺の知る限り、努力を惜しまない人だった。
俺が初めて好きになった人もそんな兄に好意を抱いていた。まぁ兄は当時ピアノ一筋だったから特に恋愛関係には至ってないはずだが。
「まぁそういうわけだ。日本公演もあったはずだからその時は一時帰国するさ」
「へぇーチケットまだ買えるかな」
琉は早速ネットで検索した。
「あっまだ買えそう。うわぁ高っ」
「そりゃVIP席とかは高いだろうな。後ろの方ならまだ手が出せるんじゃないか」
「あぁほんとだ。えーどうしよう」
「VIP席いくら」
「えっ蓮VIP席狙いなの??」
「貴重な機会だから」
「蓮さん普段お金使わないから有り余ってるのかー俺には無理そう」
「僕も厳しいぞ八雲」
「零なら一緒に見てくれるんじゃない?」
一向に話に混ざってこなかった零。しかしいつの間にかいなくなっていた。
「あれ?零トイレでも行ったのかなぁ?」
「八雲は綾辻と2人でVIP席に行くといい、僕と琉はもう少し手軽な席を取るよ」
「いや音楽をやっているならVIP席で聞くべきだ。俺が払うからチケット4枚取っておいてくれ」
「えぇいいんすか蓮さん。やったー俺申し込みしちゃいますねー」
「八雲大丈夫なのか?」
「ん?何が?俺やる気湧いてきたから曲作る」
蓮はどこかへ消えた。
「まぁ楽しみにしててくれ。ってことで俺からは以上だ。他に何もなければ解散していいぞ。俺は蓮に相談あるから。帰り気をつけろよ」
俺は京と琉に別れを告げると蓮を追いかけるため部屋を出た。
右と左どっちに行った。
すると姿を消していた零が現れた。
「零。蓮見なかったか」
下を見ながら歩いていた零は少し驚いた表情をしたが首を振った。
「ありがと」
俺は零と反対方向に向かった。すると服がツンと引っ張られる感覚があった。
振り向くと零が俺の服の裾を掴んでいた。
「あっ悪い」
「零大丈夫か。顔色も少し悪いみたいだが」
俺は俯いている零のおでこに手のひらをあてる。
「熱はなさそうだな。寝不足か」
「いやごめん……大丈夫。行っていいよ蓮に用事があるんだろ」
「零も一緒にきくか?蓮の保護者代表として」
「……?」
元気のない零を半ば強引に誘い一緒に蓮を探す。
非常階段で無事に蓮を見つけると俺は悠を呼んで会議室へと入った。
「蓮お前にドラマ出演の依頼が来てる」
「……はっ?」
先に反応したのは零だった。
「来夏から始まるドラマの主題歌と主演を依頼された。ただしどちらかだけというのはない。お前は依頼受けるか。率直に意見を聞かせてくれ」
「……会社的には受けた方がいいんですよね」
「いや、お前に無理強いするつもりはない。ドラマに出ることで音楽作りに影響が出るなら出ない方がいいと思っている」
「そう……ですか。ちなみに内容ってわかっているんですか」
「……ピアニストの恋愛ものらしい。しかし詳しい内容については聞いてない。オリジナル作品ということだ。興味があるなら詳しく聞いておくがどうする。おそらく脚本はできていると思う」
「ただでさえ作曲で忙しいから、無理に受けなくていい」
零は表情を変えずに即決した。
「いや、俺それ受けるよ」
予想外の答えだった。
「まぁ仕方ないよな……って受けるのか?」
「あぁ色々吸収したいんだ。ただ、俺に演技力があるのかはわからないけど」
「そうか……。それじゃあ返事しておくよ。ただ今よりも忙しくなるから体調管理気をつけろよ」
「……あぁ」
「悠。返事はしておくからあとの調整を任せても大丈夫か。俺についていた部下にも共有しておくから一緒に動いてくれ」
「んっ。わかった」
「初めてのことで、大変かと思うけどよろしくな」
先方へ早速ドラマオファーの件連絡を入れた。
プロデューサーは大層喜んでくれた。早速打ち合わせをしたいと言われスケジュールを調整してまた連絡する旨を伝えた。
部屋に戻ると中にいる3人の空気が悪い気がした。
「何かあったか?」
「……いえ」
零が歯切れ悪そうに答える。
「用事は以上ですか」
「あぁ。蓮明日早速挨拶に行く予定だが、大丈夫か」
「はい。大丈夫です」
「明日1件外回り行くから、そのまま家まで迎えに行くよ」
「わかりました。それじゃあ俺らはここで一旦失礼します」
蓮が零を連れて行った。
2人が去った後俺はもう一度悠に尋ねた。
「本当に何もないのか」
「……今後のことについて話していただけですよ」
「そうか。それならいいが、あいつらとうまくやってくれよ」
「暁音は心配性だな」
「俺がツアー回っている間も定期的にメンバーの様子とトラブルとかあったら必ず連絡入れてくれ。一応お前の部下につく2人も仕事できるからわからないことあったら聞いてもらって構わない」
「はーい」
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