第4話 新たな幕開け<暁音>
==ツアー 最終日==
1ヶ月かけて行ってきたツアーもとうとう最終日だ。
俺は久しぶりに彼ら《”R-end”》を見た。
初日の時とはまた雰囲気が変わって見えた。
「悠悪いな」
ツアー中俺に変わり全ツアーに付き添ってくれた。
「暁音の頼みだしね」
「それで彼らの調子はどうだ」
逐一報告は受けていたものの、ツアーを通しての出来ばえやファンの様子は今後のマネジメントにとっても重要な情報だ。
「そうだなぁライブ自体はとっても良かったんじゃないか。SNSでの反応も悪くないし」
「ライブ以外に問題があったか」
「あー」
悠は言っていいものなのだろうかと少し口を濁した。
「誰か問題でも起こしたか?」
「いや、そういうことではないんだけど、彼らどうしてあんなに喧嘩するんだ」
「ん?そうかー彼らのは喧嘩というより、よりいいものにするための意見だしじゃないか」
音楽グループのメンバー同士が衝突することはよくあることだ。
「彼らは仲がいいから大丈夫だよ」
「いやそんな楽観的な。暁音は見てないから」
俺は初期から彼らの言い合いを見慣れているので、あまり気にしたことがないが、亀裂が入るくらい揉めたのだろうか。
「わかったよ。あとで様子見てくる。それより今日はちょっと意見を聞きたいんだけどいいか」
俺は今依頼が来ている彼らの仕事について悠へも意見を聞くことにした。
音楽活動への依頼は、スケジュールが空いていれば基本断ることはないが、蓮にドラマ出演のオファーが来たのである。
ドラマへの出演とその主題歌。今いるファン層とは異なるファン層を見込めるので主題歌については問題ないのだが、ドラマへの出演ときた。
「蓮の役どころは?」
「ピアニストの役らしい。蓮はピアノ弾けるから問題ないんだけど問題はそこじゃなくて」
「もしかして恋愛もの?ですか」
「あぁ、しかも脇役じゃなくて主演なんだよ」
「はっ??プロデューサーは誰です?演技の経験もない人を主演に抜擢するなんて」
そう。普通はただのバンドのボーカルを主演になんてしない。ましてや彼ら《”R-end”》はデビューしてから長いこと音楽活動を休止していたし、TV番組への出演はない。
どうやって知ったのかは気になるだろう。
「いや、それがな……うちのスタジオを使用していた音響エンジニアが、何かの打ち上げか何かで次のドラマに合ういい曲を知らないかってドラマのプロデューサーに聞かれて”R-end”の曲を教えたらしい。それでツアー初日に実際に聴きにきてくれたらしく、蓮にドラマのオファーが来たみたいなんだ」
「……なるほどな。それで……いやぁでも蓮にオファーね。彼演技できるか?」
「そこだよな……趣味=音楽の彼に音楽の時間を奪ってまで演技させるのは気が引けるよな……」
「本人の意向を聞くしかないね」
「そうだな」
他のメンバーからは反対の声も上がりそうだが、どうだろう。
ライブも終盤に差し掛かり、残るは新曲の披露とアンコールのみとなった。
蓮がツアーの初日に作っていた曲が完成したのだ。まだ収録もしてないので、本当に初披露だ。
俺もフルで聞くのは初めてである。舞台袖に移動した。
珍しく零が俺にドラムのことを聞いてこなかった。6年もやってきてパターンを掴んできたのだろう。
頼られなかったことが少し悲しいが、成長を喜ぶべきなんだろうな。
「新曲”
蓮の曲は恋愛曲が多いが、これもまた恋愛曲だった。
しかし今までの切ない印象とは違い、優しくそして温かみの溢れる曲だった。
蓮のスランプから復活まで色々あったのだろうが、蓮も温かさに気付いたのだろうか。それが誰なのか。蓮はよく零を見つめていることが多い。彼だろうか。蓮はよく零と一緒に過ごしているし、幼馴染だし、若いし、才能もあるし、支えてくれた零に対して好意を抱いているのだろうか。
零も蓮と距離が近いし……。俺が付け入る隙ないよな。
俺は曲が終わるとすぐに喫煙所へ向かった。
ふぅー。
「”R-end”は完全復活……いや復活というより新たな幕開けの始まり」
そろそろアンコールか。
俺はメンバーに打ち明けなければならないことがあった。
ライブの全日程が終了し、打ち上げをする予定だった。
しかしそれは予想外の形でできなくなったのである。
ステージから裏に戻ってきた彼らはとても満足そうな表情をしていた。
「次はいつライブできるかなぁ」
「もう次のライブのこと考えてるのか」
「もちろん」
京が琉の元気さに少し胸焼けを起こしていた。
その少し後に蓮と零が歩いていた。
「蓮サイコーに楽しかったな」
「あぁ」
零と目が合う。
「暁音さん新曲どうだった?」
「あぁ良かったよ」
「そうでしょーサプライズ大成功ー」
とても満足げの零。蓮も少しホッとしたような表情だ。
2人とも控え室に戻って行った。しかしその後すぐにガタッと何かが倒れる音ともに零の叫ぶ声が聞こえた。
「蓮っ……おいしっかりしろ」
駆けつけると蓮は気を失っているようだ。
「おい大丈夫か。すぐに救急車を」
しかしその声は零に遮られた。
「大丈夫。寝てるだけだと思う」
京は頷くと琉と目線を合わせた。
「いやいや一応医者いるんだから見せるよ。君ら何言ってんの」
悠がギョッとして表情でコチラを見ている。
「まだ帰っていないようなら一応見てもらうか」
俺も何度かこの光景を見てきたので慣れてしまっていた。悠に言われなければ特に気にしないことだが、確かに何かあってからでは遅いな。
「すいません誰かー」
医者を呼びに行く悠。その間零は蓮をソファに寝かせた。
やはり蓮にドラマは難しいかもな。
その後医者からも睡眠不足と告げられた。
「蓮家に送ってくわ」
急いでシャワーを浴び帰る準備をした零が告げた。
「俺が送って行こう。お前も疲れているだろ」
「おぉ暁音さんサンキュ」
「悠あとの処理は頼んだ。京と琉は送迎車で帰ってくれ。明日は休みだからしっかり休めよ」
零が蓮をおぶっているので、俺は2人の荷物を持つと車に乗り込んだ。
「ほんと毎回無茶するよな」
「あぁでもそろそろ倒れるの減るといいけどな。でもいい曲作るから何も言えないか」
「ほんと……。せっかく復活したのに書くの止めたらまたスランプになるんじゃないかって誰も止められないんだよなー。さすがにまずいよな」
零は助手席から後ろで寝ている蓮に視線を移す。
家が隣同士の2人。高校生に上がる頃にはあまり合わなくないっていたようだが、家族ぐるみの付き合いのようでよくお互いの家を行き来していたそうだ。
寝食を忘れて作曲に没頭する
「明日蓮起きたら生存連絡だけ入れてくれると助かる」
「わかった蓮の携帯にメモ残しておく」
「まぁでもこうなるってことは蓮調子はいいんだろ」
「……だな」
「すまん零ももう眠いよな。着くまで寝てていいぞ」
「……ねぇ暁音さん」
いつもより少し低めのトーンに少しどきりとする。
「どうした?」
「俺さ……」
次の言葉が一向に出てこないが、静かに待つ。
何か悩み事だろうか。
「……っ。ごめんやっぱなんでもない……疲れてるのかも」
「まぁあんまり抱えすぎるなよ。また眠れなくなっても困るしな」
「ありがと」
そのあと、蓮の家に着くまで2人は寝ていた。
2人を無事に家に送り届けると、悠に一応状況を確認した。
「こっちは大丈夫だから暁音もそのまま帰っていいよ」
「すまんな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます