第3話 忘れ物

 王城を慌てて出た元マナマイト辺境伯親子は転移魔法陣で領邸に転移した。


「やりましたね。アリストリス王国はまだ我らの物にできませんでしだが独立を認められたので父上が王です」


「そうだな。してやられたこともあるが私が王だ」


 聖女が居なくなり、魔の森対策が大変になるというのにマナマイト辺境伯親子は浮かれていた。


「アリストリス国王が騎士団に欲しがるほどの部隊がこちらにあるのだ。

高額な税をかけ、戦争資金を蓄え、来年アリストリス王国を攻める」


「そうですね。しかし父上……屋敷内が静か過ぎませんか」


 ララバルトにそう言われ、屋敷内を見て廻るとマナマイト辺境伯夫人であるカレリーナとララバルトの妹ラトリシアは勿論、使用人たちが1人も屋敷に居なかった。


「兵団を見にくいぞ」


「はい」


 元辺境伯は最大戦力でアリストリス国王からも欲しがられるほるどだ。


 アリストリス王国最強のマナマイト辺境伯兵団もいなくなって慌てて見に行くことにした。


「辺境伯様。そんなに慌ててどうされたのですか?」


「おお、マイト兵団総隊長。おったか。兵団に問題はないか?」


 この筋肉隆々の長身の男は兵団総隊長で5部隊ある兵団の第1部隊隊長のマイトである。


「何も異常はないですよ。どの部隊も訓練してますわ」


「やはりここにいましたか」


 マイトとラナトスが話していると突然、黒尽くめの男が現れた。


「ハガトか。何用だ。裏の者が貴族の屋敷にこんな真っ昼間にまずいだろう」


「俺が居ても問題ないんじゃないですかね。それより辺境伯領の領民ほとんど居なくなりましたよ」


「なんだと!!残っているのはどのくらいだ」


 重税かけようとしていたのにほとんど領民が居なくなってしまっては計画の変更を余儀なくされてしまうと思ったラナトスは慌てた。


「そうだな……。うちの裏ギルドを除くと裏の規律を守れない俺たち裏ギルドから追放され俺たちの裏ギルドの管理外な別の裏ギルドの奴。

違法なことに手を染めまくっているタダヌス商会っていう悪徳商会の経営者一族の奴ら、あとはここの兵団くらいですね」


「ほとんど居ないじゃないか。ギルドはどうしたんだ?」


「表のギルドの方は、マナマイト辺境伯領から撤退したみたいですよ」


 まずい……裏ギルドのメンバー、こいつらとは別の裏ギルドのメンバーは人数を把握できていないがタダヌス商会は一族経営で店員の多くは居なくなったとして10人くらいのはずだ。


 兵団が100人ほどだとして……やっていけるのか……アリストリス王国を侵略どころではなくなってきた。


「お集まりのようですわね」


「「マリア!!」」


 いきなりマリアンヌ王女とメイドが現れた。


「違いますわよ。聖女は辞めてませんが王女に戻ったのでマリアンヌですわ」


「どうやって現れた。それより独立を認めておきながらマナマイト帝国にやって来るなど宣戦布告か」


 ラナトスは国名を決めてなかったので王国より帝国の方が強いと考えマナマイト帝国と名乗った。


「国名決まったのですわね。宣戦布告ではありませんわ。忘れ物を回収に来ただけですわ」


「忘れ物だと……」


 マリアンヌ王女とメイドだけしかいない。

 2人を人質にとればアリストリス王国を我が物にできるのでは……


「マイトでもハガトでもいい。王女とメイドを捕まえろ」


 ラナトスはマイト総隊長と裏ギルドマスターのハガトに命令した。


「「何故そんなことをしなければならない」」


「なんだと!!」


 ラナトスは2人から拒否され叫んだ。


「マイトはマナマイト辺境伯兵団いやマナマイト帝国兵団の総隊長、ハガトは裏ギルドのマスターだろう。

特に裏ギルドはヤバいことに手を染めているんだ私に協力した方がメリットがあるだろう」


「確かに俺は兵団の総隊長だが……第2〜第5部隊はラナトス元辺境伯がお集めになった兵士たちだが、第1部隊の雇い主は元辺境伯ではないから従う理由がない」


「依頼料貰わないな。まあ、依頼料貰っても裏には裏のルールがあるんでね。従えないけどな」


 ラナトスが騒いでいると全兵団員が集まってきた。


「集まったみたいね。みんなアリストリス王国に帰るわよ」


 マリアンヌがそう言うと兵団総隊長、総副隊長、各部隊隊長、副隊長、第1部隊メンバー、裏ギルドマスターのハガトはマリアンヌの側に移動。


 第2〜第5の隊長副隊長を除く兵団メンバーは移動せずそのままラナトスとララバルトの側にいた。


「どういうことだ!!」


 ララバルトとララバルト、移動しなかった兵団メンバーは、マイトたちがマリアンヌの側に行き、こちらに向かって抜刀しようと剣に手をかけていることに困惑した。


「どうもこうもないですよ。総隊長の俺、総副隊長のマックス、第1部隊メンバー、各部隊隊長、副隊長はマリアンヌ王女の私兵団のメンバーなんだよ」


「王女の私兵団ってどういうことだ」


「アリストリス王族は貴族平民関係なく己だけに忠義を尽くす己で集めた私兵団を持っているってことだ」


 そうそう。マイトの言う通り、頑張って自分の足と目で集めましたよ。


 私の私兵団は家族たちの私兵団と比べると貴族より平民の方が多いですけどね。


「私達を引き抜こうなどと考えても無駄ですよ。

 それは国王陛下ですら叶わないことなんですからね」


「ぐぬぬ……」


 マナマイト家としては最強と言われているマイトたちが戦力として欲しいよね。


 マックスの言う通り、お父様やお兄様たちが以前、マイトたちを欲しがった事があった。


 お父様やお兄様の私兵団に行ってもいいと本人を納得させたら譲ると提案したが無理だった。


「裏ギルドは確かに暗殺や殺しなどの汚れ仕事やりますがアリストリス王家に忠誠を誓い、王家の意志に反する殺しや違法行為はしないという規律があるのですよ」


「ははあ、アリストリス王家が裏ギルドを子飼にしているのか。

アリストリス王国の貴族や他国に話せばアリストリス王家もおしまいだな」


 最強の第1部隊が敵になりラナトスは強がってそう言った。


「何を言っているんでしょうか?」


 マリアンヌはラナトスが言っている意味が分からなかった。


「裏と繋がっている事が王家の弱点だと思っているんじゃないねえの」


「なるほど」


「ハガト。王女に対してその喋り方は何……」


「マリッサ嬢」


 ララバルトがマリッサの名を呼んだ。

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