第1話 サポートキャラは最初のターンに

 現実を受け入れた俺は、とりあえず普通に新入生として動くことにした。

 入学式を終え、ホームルームを終え、帰宅する。

 夜布団の中で、まだ何もわからないから、何かわかるまでは普通に生活をしようと決めた。





 二度目の高校生活が始まって二日目。

 放課後に担任に呼ばれ、担任と共に教室を出て、理科棟一階にある家庭科準備室Ⅱへと連れ込まれる。


「新雲くん、いや黎斗くん。………驚かないんだね。」

「何にですか?」

「私が君のことを黎斗くんと呼ぶことにだよ。」

「いや、驚くも何も、新雲くんは言いにくいから黎斗くんって呼ぶって言ったの澄華先生じゃないですか。」


 長い黒髪をポニーテールにして、落ち着いた服がよく似合った、スタイルのいい我が1年4組の担任、東雲澄華25歳。家庭科教諭で、家事・手芸部の顧問だ。

 俺は三年間担任は澄華先生で、家事・手芸部に所属していたため、前の高校生活ではかなり世話になった。

 ちなみに、俺の三年に及ぶ調査の結果、澄華先生は隠れ巨乳だ。


 ふぅ、と一息ついてから澄華先生は俺に話し始めた。


「やっぱり黎斗くんでしたか。運命の木に選ばれたのは。」

「運命の木って何ですか?」

「一から説明してあげるから、まずは私の話を最後まで聞いてください。」

「はい。」


 それから、澄華先生は運命の木とそれに関する話を俺に話した。


 運命の木とは、理科棟の裏にある古い大木のことであり、運命の木に選ばれると木が定めた異性と互いに心から愛し合い、結ばれるまで高校生活は終わらない。

 高校三年間で結ばれなければ、卒業式の次の日に入学式の日に戻るそうだ。

 高校生活が一度終わり、やり直すときに記憶が残るのは、運命の木に選ばれた人のみで、澄華先生が俺に関する記憶が残っているのは、澄華先生も高校時代運命の木に選ばれたからということらしい。


「なるほど、澄華先生は卒業式の次の日が入学式になったから、誰かが運命の木に選ばれてループしたとわかったんですね。」

「うん。」

「でも、どうして俺が選ばれた人物だとわかったんですか?」

「それは、運命の木に選ばれる男女は、入学式の前に同時に木を見ていた男女で、昨日この教室から誰と誰なのか確認したから。

 まあ、二人とも外にいなかったのには驚いたというか、少し焦ったけど一階でよかった。」

「そのときに俺のことを見て、自分のクラスの生徒である俺から声をかけたと。」

「そ。それに、いきなり私のことを澄華先生って名前の方で呼んだから。」


 今までの話を整理しつつ、疑問に思ったことを聞いてみる。


「木に選ばれた女子にも記憶は残っているんですか?」

「いや、記憶が残るのはどちらか一人だよ。だから、今回は黎斗くんだけだね。」

「結ばれるっていうのは、恋人になればいいんですか?」


 澄華先生は首を横に振りながら答える。


「ううん、ただ恋人になるだけじゃダメ。説明した時に言ったけど、互いに心から愛し合ってないといけない。」

「どうやって判断すればいいんですか?互いに心から愛し合えてるって。」

「卒業式の次の日が入学式かそうでないかだよ。」

「じゃあ、最後の最後までどうなるかわからないってことですね。」

「うん。」


 そこで会話は一端途切れる。

 とにかく互いに心から愛し合えた瞬間に終わるということではないらしい。


「ところで澄華先生、ちゃんと卒業出来たらどうなるんですか?

 そのままですか?それとも最初の卒業式の日に戻るんですか?」

「そのままだよ。相手と結ばれた状態で卒業することになる。

 けど、これは当然と言えば当然かな。」

「どうしてですか?」

「運命の木が選ぶ男女は、互いが互いにとって世界で最もふさわしい相手、つまり、一緒になった時最も幸せになれる男女なんだよ。」


 つまり、ただ運命の木を男女が同時に見るだけでは選ばれないということか――

 俺の脳がフリーズした。


 えっ…俺あの子と…学年トップクラスの人気女子になる藤田実夢と結ばれるのか。


 髪は肩に届かないくらいのふんわりとした印象を与えるミディアムヘア。

 顔立ちは整っていて、強めの美人系でもおっとり可愛い系でもなく、中性的とも言い切れない、美人と可愛いのちょうどいい中間といった顔。

 胸は高校生にしてはそこそこ大きく、脚は細くてとてもきれいだ。

 

 そんな藤田と基本スペックが中の上程度の俺が互いに最高のパートナーなのか。


 俺がそんな思考に囚われている間も澄華先生は話を続けていた。


「相手の女の子は1年6組の藤田実夢さんだったよね?」

「はい。たぶん。」

「前は全く接点なかったよね?たしか。」

「はい。……そもそも男子ともほとんど関わりがなかったのに、女子と接点があるわけないじゃないですか。」

「けど、家事・手芸部ではまあまあ交流してなかったっけ?」

「表面だけの交流でしたけどね。」


 澄華先生は同情するような、少しだけ申し訳なさそうな顔をして俯き、すぐに明るい顔をして「長くなるかもしれないから何か淹れるね。」と言って立ち上がり、準備室にある急須で紅茶を淹れてくれた。


「どうしたらいいですかね?

 そもそも何の接点もない女子に話しかけるとか、俺にとっては正直そうとうレベル高いんですけど。」

「う~ん、藤田さんが男子と話してるのはあんまり見たことがなかったから、仮に黎斗くんが話せたとしても、いきなり藤田さんに話しかけるのはいい手とは言えない気がする。」

「そうですよね。というか、まずは接点のない女子と普通に話せるようにならないとですよね。」

「そうねー。」


 どうするのがいいのか考えるが、なにせそういうことやそれに関する努力を一切してこなかったため、何をしたらいいのか全く分からない。

 お互いに考え込み、準備室に静寂が訪れる。


「黎斗くんは家事・手芸部の子たちとはちゃんと話せてたから、まずは藤田さんのお友達の女の子と仲良くなることから始めるのはどうかな?」

「俺の訓練をしつつ、外側から攻めるということですか?」

「言い方は悪いけど、まあそういうことになるかな。

 私が高校生の時は、自分が所属しているグループの子たちと一緒に旦那のいるグループに話しかけて、グループのメンバー同士で仲良くなるのを最初にやったから。」

「体験談ですか。友達がいるか、ぼっちかという違いはありますが。それは、成功した時にしたことですか?」

「そ。まあ、何回もループに付き合わされるのは嫌だし、私は協力者がいなくてとても大変だったから手伝います。

 それに、困っている生徒を助けるのは教師の仕事だしね。」


 俺は澄華先生と違ってぼっちだから、一人でどうにかしないといけなかったらもしかすると永遠に高校生を繰り返すことになっていたかもしれない。冗談抜きで。


 だから、立ち上がり、心から感謝を込めて頭を下げた。


 自分一人ではどうしようもなくて、誰かの力を借りるときは、きちんと頭を下げてお願いしろ。と両親にきつく言われてきたから。


「ありがとうございます。」


 澄華先生はコクリと頷いて言った。


「一緒に頑張ろうね!」


 こうして、俺と澄華先生との協力関係が成立した。

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