新年ノ章 ご挨拶 4

 見越が手を合わせるので、みんなも手を合わせる。


「では、いただきます!」

「「「いっただきまーす!」」」

「いただきます」


 今日の夕食はお雑煮ぞうにだった。焼いた角餅に、小松菜と大根と里芋が入った、すまし汁仕立てのもの。空きっ腹に優しいご飯だった。


 温かい食事を終えてお茶で一息を入れている時に、一九は話を切り出した。


「皆様、私は明日にでも、江戸に戻ろうと思います」

「いっきゅー、もうかえっちまうのか?」

「いっしょにあそんでもらおうと、おもったのに」

「まだいろよー」

「そうじゃぞ。せっかくの正月なんだから、もっとゆっくりしていけ」


 雑鬼たちは帰るのに反対し、見越も急な話にそう提案するが、一九はゆっくりと首を横に振った。


「とてもありがたいですが、新しく新年の瓦版も書けましたし、行事も一区切りついたので、私の雇い主と今後をどうするかを話し合いをしたいのです」

「いっきゅー、もうここにはこないのか?」


 猿鬼が一九の膝に手をかけて、顔を見上げる。蛇鬼と球鬼も同じように一九のそばに寄る。


「きてくれるよね?」

「きてくんなきゃ、さびしーぞ!」

「あぁ。お前たちは昨日、食事が終わったら眠ってしまいましたから聞いていませんよね。安心しなさい。信楽殿からの歌舞伎原稿の依頼がある以上、里へは出入りさせていただきます。出入りしているうちに、また新しいネタも、見つかるかもしれませんし」

「なぁんだ!」

「そっか!」

「またあそんでもらえるんだな!」


 一九の言葉に、雑鬼たちは安心したように笑う。そんな微笑ましい様子を見て、お六が言った。


「そういうことでありんしたら、引き止められせんね。明日はお弁当を作って差し上げんす。道中の腹の足しにしておくんなんし」

「ありがとうございます!」

「荷造りはこれから? 手伝うよ」

「助かります」


 鎌鼬がお茶をぐっと飲み干したので、一九も同様にお茶を飲み干し、立ち上がった。


「それでは、荷造りを済ませたら、今日はもう休みますね」

「うむ。ゆっくりと休むといい」

「おやすみなさいまし」

「いっきゅー、おやすみー」

「おやすみ、いっきゅー」

「ちゃんとねろよー」


 見越たちに挨拶とともに一礼して、一九は鎌鼬と一緒に自室に戻る。


「予想はしてたけどさぁ。なんでこんなすぐに散らかすかなぁ」


 一九に続いて部屋に入った鎌鼬は、部屋の状態を見て、そうこぼした。執筆道具は出しっぱなし。資料は適当に積まれていたせいで、崩れて散乱していた。


「これのどこが片づけたわけ? 一九はほんと、片づけが苦手だね」

「はい。そうですが?」

「あ、自覚あるんだ」


 一九は「いやぁ」と言いながら、頭をかく。


「雇い主にも、よく怒られるんです。年末はそれでたくさん物を捨てられて」


 一九は悲しそうに言うが、鎌鼬は納得したようにうなずく。


「何でもかんでも取っておいたら、えらいことになるからね。いいんじゃない? 代わりに掃除をしてもらったわけでしょ」

「よくないですよ! まだ使える資料もあったかもしれないのに」

「片づけが進まない奴の、典型的な考えだね。ほら、荷造りしなよ」


 鎌鼬にうながされ、一九は帰る支度を始めた。それを見て鎌鼬は、掃除道具の付喪神つくもがみたちを呼びに行った。

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