新年ノ章 ご挨拶 1

 翌朝、一九は布団をかぶって、うーうーとうなっていた。


「あたま、いたい……」


 昨晩、雪をさかなに、お六が用意してくれた熱燗あつかんで、雪見酒を見越たちと楽しんだ一九は、二日酔いにおちいっていた。

 普段の一九は、酒をたしなむ程度にしか飲まないのだが、見越たちにすすめられるがまま、ついつい飲み過ぎてしまい、朝になった今、いわゆる二日酔いで苦しむことになった。


 布団で唸り続けていると、鎌鼬がひょっこりと一九の部屋に顔をだした。


「一九、大丈夫? じゃなさそうだね」

「う~……」


 鎌鼬は持っていた土鍋を、一九の枕元に置いた。


ねえさんが作ってくれたおかゆと、二日酔いに効く薬を持ってきたよ」

「ありがたいですが……しょくよくは……ない……です……」

「食べなきゃ薬が飲めないでしょ。ほら起きる!」


 がばっと容赦ようしゃなく鎌鼬に布団をはがされ、一九はしぶしぶと起きあがった。


 鎌鼬が土鍋のふたを取ると、梅がぽつんと真ん中に置かれた梅粥うめgしゅだった。鎌鼬は梅を崩して全体的に混ぜると、器に盛りつけ、さじと一緒に一九に差し出す。


「はい。少しでもいいから、食べな」

「ありがとう、ございます」


 一九は礼を言って、ふーふーと息で冷ましながら、少量を口に含んだ。


美味おいしい……。胃に染み渡る」


 一九は「はぁ」と感動で目尻に涙を浮かべながら、黙々と匙を動かして器に盛られた分を、あっという間に食べてしまった。


「なんだ。食欲あるじゃない。もっと食べれそう?」

「はい。いただきます」


 結局、一九は土鍋にあったお粥すべてを食べきった。


「ほら、薬」

「ありがとうございます」


 一九は鎌鼬から差し出された薬包やくほうを受け取り、中身の薬を一気にあおった。


「にっが!?」

「そりゃそうだよ。良薬りょうやくくちにがしって言うでしょ」


 一九は、水で一気に苦い薬を流し込む。それを見ながら、鎌鼬は土鍋を持って立ち上がった。


「一九。これから忙しくなるから、一九の相手はしてられない。だからおとなしく寝てな」

「何かあるんですか?」

「里のみんなが、頭領に新年の挨拶に来るんだよ」

「ならその光景を瓦版にしなくては! いった……」

「大声を出すからだよ。馬鹿じゃないの」


 自分の出した大きな声で苦しむ一九を見て、鎌鼬は呆れる。


「しんどいんでしょ? 休んでなよ」

「そういうわけにはいきません。新年の挨拶も立派な年中行事の一つ。瓦版にしなくては」

「わかったわかった。頭領たちの準備が終わったら、呼びに来るから。それまで休んでな」

「すみません。お願いします」


 鎌鼬は肩をすくめて、部屋を出て行った。


 一九は頭に響かないように、ゆっくりとした動作で着替えをすました。ふうっと一息ついていると、だんだんと頭の痛みがとれていくのを感じた。


即効性そっこうせいだったのですね。ありがたい」


 見越のそばで仕事をさせてもらうために、仕事道具をまとめ始めた。

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