秋ノ巻 闇見と歌合 10

 一九は落ち込む3匹の頭を撫でた。


「鎌鼬殿は、きっと自分の仕事で手一杯なのでしょう。ならば今回は、私に宴のことを教えてください」

「いっきゅーに?」

「うたげのことを?」

「おしえるの?」


 3匹が首を傾げるので、一九は優しい顔でうなずいた。


「えぇ。私が書く瓦版は、妖怪の皆様の暮らしを、人間に見て欲しくて書いているものです。だからより正確に、そして楽しんでいる様子を、書きたいのです」

「それを、おいらたちが、てつだえばいいんだな!」

「ぼく、がんばる!」

「おれたちにまかせな!」


 元気になった雑鬼たちに、一九はほっと息をついた。

 屋敷に戻ると、再び宴の準備に翻弄ほんろうされる。


「一九さんは、鎌鼬と会場の準備をしておくんなんし」

「わかりました。雑鬼たちも一緒で、構いませんか?」


 一九がそう言うと、じろりと鎌鼬が雑鬼たちを見下ろす。


「遊ばずにちゃんと準備するんだろうな?」

「もちろん!」

「ぼくたちだって、やるときはやるよ!」

「だからあんしんしな!」


 胸を張る3匹に、鎌鼬は一九に視線をやる。鎌鼬の意図を察して、一九は問題ないとうなずいた。


「わかった。俺たちの言うことを聞いて、しっかりやれよ」

「「「まっかせろー!!」」」


 お六の指示のもと、一九は雑鬼と雑鬼たちと一緒に、会場の設営を行うことになった。


 一九と鎌鼬は闇見団子を乗せた三方を二つ持ち、雑鬼たちは3匹で一つを持っている。


「三方は、どこに置けばよいのでしょうか?」

「なつに、すいかわりをしたえんがわ!」

「あそこがいちばん、そらがみえるから!」

「いつもそこで、うたげをするんだ! うたあわせも、いっしょにやるぞ!」

「たしかにあそこの庭は広いですもんね。わかりました」


 猿鬼、蛇鬼、球鬼に代わる代わる教えてもらい、三方を設置していく。鎌鼬が言った。


「あとは、野菜とすすきを、傍に置けばいいけど、量が多いからね」

「何度か行き来する必要がありそうですね」


 一九たちはくりやと縁側を往復し、会場の準備を整えていく。やがて会場の設営が完了した。


「ふぅ」

「お疲れ。一九」

「鎌鼬殿も、お疲れさまです」


 一九が縁側で一息ついていると、厨に行っていた鎌鼬が二人分のお茶を持ってきた。鎌鼬は一九にお茶を差し出す。一九は礼を言いながら、受け取った。

 広い庭では、雑鬼たちが「わーい!」とお供えものの一つであるすすきを持って、走り回っている。


「まったく。結局、遊んでるじゃねぇか」

「まぁまぁ。設営を頑張ってくれたのですから、少しくらい」

「一九は甘すぎるよ。見た目も精神も子どもだけど、あれでこの里一番の年寄りだぞ」


 鎌鼬はため息をつき、お茶を口に含んだ。それを見て、一九もお茶でのどうるおす。


「今回は、本当に助かったよ。手伝いにきてくれる人たちがいるとはいえ、毎年、ねえさんと2人で準備していたからね」

「少しでもお役に立てたなら、嬉しいです」

「少しなんてもんじゃないよ。雑鬼たちも、悪戯いたずらしなかったし」


 鎌鼬はぐいっとお茶を飲み干す。


「おいちび共。もうすぐ始まるんだから、そろそろ遊ぶのをやめろ」

「「「えー!!」」」

「えーじゃない!」


 雑鬼たちの非難の声に、鎌鼬がいらついたように、尻尾をぴしりと振る。怒る鎌鼬をなだめながら、一九は雑鬼たちに目を向けた。


「お前たち。すすきは大事なお供えものの一つです。それがないと、神さまが降りてきてくださらないので、もうお供えしましょう」

「そうだな!」

「おそなえしなきゃ!」

「おれたち、ちゃんとやるぞ!」


 3匹は持っていたすすきを、闇見団子の脇にお供えする。


「なんで一九の言うことは、素直に聞くんだか」


 鎌鼬は口をとがらせ、その表情に一九は笑った。

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