秋ノ巻 闇見と歌合 8

 翌日。今日は妖怪の里の秋の行事、闇見が行われる。

 一九は鎌鼬と一緒に、朝から闇見でお供えするための団子をひたすら作っていた。そんな2人のそばでは、お六が大鍋で、大量の小豆をている。


「いやぁ。こんなにお団子を作ることになるとは。さすがに手が疲れてきました」

「ちょっと一九。手を止めないでよ。まだ足りないくらいなんだから」

「えぇ!?」


 一九が一息入れようとした途端とたん、鎌鼬から注意が飛んでくる。一九は再び手を動かしながら、鎌鼬に問いかける。


「こんなに作っても、足りないんですか?」

「闇見の会場は、ここなんだよ。だから里のみんながここに集まるの」

「闇見団子はできる限り、全員に行き渡るようにしねえといけんせん。途中で女妖怪のみんなが手伝いに来てはくれんすが、毎年、ほとんどあちきと鎌鼬で作っているのでありんす」

「そ、それはなんとも重労働ですね」


 鎌鼬とお六の負担を考えて、一九は冷や汗を流した。


「見越殿や雑鬼たちに、手伝わせないのですか?」

「頭領はだめ。団子丸められないから」

「はい?」


 一九は思わず手を止める。


「手を動かす!」

「すいません!」


 鎌鼬が尻尾しっぽを立てて怒るので、一九はあわてて手を動かした。


「頭領、不器用すぎてうまく丸められないんだよね。気が付くと、平べったくなってる」

「雑鬼たちは途中で遊んじまうのでありんす。子どもだから仕方ありんせんのですけどね」

「では、彼らはどこに?」

「お供えする野菜の収穫を頼んでやす」

「収穫を終わらせたら、また湯屋に行かせないと」


 一九は「大変だなぁ」と思いながら、団子を丸めていく。


「ところで、お六殿が作られているのは?」

餡子あんこでありんす。これをできた団子に、たっぷりとりつけるのでありんす」

「もしかして、それが闇見団子の正体ですか? 餡子をたっぷりとつけた闇見団子を、新月に見立てているのですね!?」


 身を乗り出してお六に尋ねる一九。彼の瞳は答えを見つけたと、きらきらと輝いていた。そんな一九に、お六は笑った。


「そうでありんす。一九さんのおっしゃる通りでありんす」

「なるほど。なかなか愉快ゆかいな発想ですね」


 そう言って、一九は丸めた団子を、皿の上に重ねた。

 夕方になると、他の家から女性妖怪たちが手伝いに集まってきた。


「一九さん。ちょいと」

「はい」


 お六に呼ばれ、一九は団子を作る手を止めて、彼女に近づく。


「うちの人と雑鬼たちを回収して、また湯屋に行ってくれんせんか? そうじゃありんせんと、汚れたまま宴に参加するでありんしょうから。それと、彼らが収穫した野菜も持ってきてほしゅうござりんす」

「わかりました」

「鎌鼬、あんさんも休憩きゅうけいついでにお行き」

「わかった。ありがとう、ねえさん」


 一九と鎌鼬は、手伝いに来てくれた女性妖怪たちに一声かけて、風呂の道具を持ち、見越たちを回収しに行った。



「どりゃー!」


 畑に行くと、見越が威勢いせいの良いかけ声とともに、次々と野菜を引っこ抜いていた。見越が収穫した野菜を、猿鬼たちと木魅こだまで、せっせとかごへ運んでいた。


「あ! いっきゅーとかまいたちだ!」


 球鬼が一九と鎌鼬に気づき、それに連れられて猿鬼と蛇鬼もやってくる。


「どーしたんだ?」

「もう、じゅんびは、いいの?」


 鎌鼬は腰に手を当て、雑鬼たちを見下ろす。


「お前たちと、頭領の回収に来たんだよ。湯屋に行って、体を綺麗きれいにすんぞ」

「またいくのかよー」

「めんどくさいよー」


 猿鬼と球鬼が文句を言うと、鎌鼬のこめかみが引きつる。


「ぼく、とーりょーのこと、よんでくるね!」


 蛇鬼はえっちらおっちらと、見越のことを呼びに行ってくれた。


「いっきゅーさん、このあいだぶりですー。収穫した野菜、持って行ってくださいー」


 木魅の声がしたので足元に視線を向けるが、そこにはたくさんの収穫された野菜が乗った籠しか見えない。木魅は想像よりも力持ちのようだ。

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