夏ノ巻 花火とお盆 4
数日後。一九は緑と黒の
「「「いっきゅー!」」」
一九は彼らに手を振りながら、小走りで近づく。
「お出迎え、ありがとうございます」
一九がそう言うと、鎌鼬は肩をすくめた。
「こいつらがうるさかったから、来ただけだよ。道中は暑かったでしょ。ご苦労様」
「えぇまぁ。
「ところで、今回は頭領が土産に要望を出していたけど」
鎌鼬はじっと、一九が持っている物、西瓜に目を落とす。
「赤の要素、全くなくない?」
「おや? これをご存じない?」
一九は西瓜を顔の高さまで
「なにそれ? まり?」
「たべもの?」
「うまいの?」
疑問を口にする雑鬼たちに、一九は腰を折って答えてやる。
「これは食べ物ですよ。冷たい水にさらして冷やすと、より美味しく感じるものです」
「おいら、たべたい!」
「ぼくも!」
「おれも!」
「お前ら、食べるのは頭領の所に、持って行ってからだぞ」
今にも西瓜に飛びつきそうな猿鬼たちを、鎌鼬が
「わざわざ持ってきたってことは、頭領の要望には応えられているわけでしょ?」
「えぇ、勿論。きっと驚かれると思います」
「なら早く行こう。一九が来ること、実際に首を長くして待ってるから」
見越の首は
鎌鼬が歩き出すと、一九は雑鬼たちを定位置に乗せてやり、鎌鼬の後を追った。
「あ、頭領の家に行く前に、ちょっと広場に寄るよ。一九に見せたいものがあるんだ」
「見せたいものですか?」
鎌鼬に連れられて行った広場には、たくさんの妖怪たちと親子妖怪たちがいた。そして、多くの
「今の時期はちょうど五月の節句だからね。人間も五月の節句はやったりする?」
「あぁ五月の節句ですか。男の子がいるご家庭はやりますが、ここまで大々的にはやりませんね。幟も立てたりしませんし。ところで、一つ聞きたいのですが」
一九は幟を指さした。
「なぜ、坂田金時がやっつけられているんですか?」
「だって、わるいやつだからな!」
頭の上にいる猿鬼が答える。
「ぼくたち、なにもわるくないのに」
「おれたちをいじめてたんだ」
「なるほど。だから、悪者だと」
蛇鬼と球鬼の言葉に、一九はふむふむとうなずいて、手帳を取り出し、
『五月の節句、幟に描かれるは、妖怪退治でおなじみ坂田金時。しかし妖怪たちにとって、人間の正義の味方は、大悪党なり。里を守るため妖怪一同、力を合わせて悪党を追い返せ!』
と記した。
「瓦版の参考になった? じゃ、頭領の家に行こっか」
2人と3匹は、今度こそ見越の家に向かった。
見越の家に行くと、見越が屋根に登って、何やら作業をしており、お六が首を伸ばして指示を飛ばしていた。一九は何をしているのかわからず、目を
「頭領ー、お六
「おぉ! 鎌鼬に一九か! 待っていたぞ!」
「一九さん、ようおいでくださいんした」
お六はしゅるしゅると首を戻して、
「久方ぶりです、見越殿、お六殿。
一九は深々と頭を下げた。
「お前様、一九さんも来てくださったことでありんすし、
「うむ!」
見越はどすんっと屋根から飛び降りてきた。そして、腰に手を当てて、一九を見下ろす。
「一九よ、わしが文に書いた『赤いもの』は、持ってきたのであろうな?」
「勿論です。こちらを、ご持参いたしました」
一九は両手で西瓜を抱えて、見越に見せる。
「む? 赤くないではないか! なんだそれは、
「れっきとした食べ物ですよ」
猿鬼と同じ反応をする見越に、一九は苦笑した。
「皆さん、とにかく中へ入っておくんなし。特に、一九さんは暑い中、長旅で疲れているのでありんすから」
一足先に家の中へ戻っていたお六が首を伸ばして、見越たちに声をかけてきた。
「そうじゃな。中に入れ」
「はい。またお世話になります」
「はーい」
一九たちは
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