夏ノ巻 花火とお盆 3

 一九は文を弥次郎に見せる。


「ほら、ここにちゃんと『見越入道』と名前があるでしょう? 三ツ目鴉もれっきとした妖怪です。彼らが住む妖怪の里は実在するんです!」


 三ツ目鴉に、汚い字で書かれた見越入道からのふみなどの証拠しょうこきつけられ、弥次郎はうなった。


「俺は一九の与太話よたばなしだと思ってたが、こうも証拠を突きつけられちゃあ信じるしかねぇな」

「与太話とは失礼な!」

「わりぃわりぃ」

「絶対、悪いと思ってないでしょう!?」


 弥次郎の軽い謝罪に、一九は憤慨ふんがいする。


「カア!」

「あたっ!」


 突然、三ツ目鴉に固いくちばしで手をつつかれ、一九は驚いて手を引っ込めた。

 三ツ目鴉はくちばしで一九の持つ文を示し、その場で翼を広げると、足踏あしぶみみをして何かを訴える。しかし一九は、三ツ目鴉の言いたいことがわからず、困惑した。


「この子は、一体何を言いたいのでしょうか?」

「早く文を読んで、返事を寄越せってことじゃねえか?」

「カア!」


 三ツ目鴉は、弥次郎の言葉に大きくうなずいた。


「あ、今回は文を持って帰ってくれるんですね。失礼しました」


 一九は文を開く。そこには大きく、


『夏だ! 赤いものを持ってこい!』


とだけ、豪快ごうかいな字で書かれていた。またその字の隣に、鎌鼬の追記があった。


『夏もいろいろ行事があるよ。今回はちゃんと一九の返事を持って帰ってくるよう三ツ目鴉に言い聞かせているから、返事は三ツ目鴉に持たせてね』


とも。それだけで一九は、目を輝かせた。


「いろいろな行事! いったいどんな行事なんでしょう。今から楽しみです」

「でもよ、この汚ねぇ字で書かれてる、赤いものってのは、何を指しているんだろうな?」

「そうですねぇ。春の行事の時には、そんなこと言われなかったのですが……。赤いもの、赤いもの……赤飯?」

「祝い事じゃねぇんだから、赤飯を持って行ってどうすんだよ。それに妖怪の里に持って行く前に、一九の腹の足しになっちまうだろ。ん~……あれはどうだ? 西瓜すいか

「西瓜?」


 一九は弥次郎の提案に、目を丸くする。


「夏といえば、冷やした西瓜が一番! それにただ赤いものを持って行くんじゃ、面白くねぇだろ」

「たしかに。西瓜の表面は、緑と黒の縞模様しまもようで赤の要素はない。しかし、割れば綺麗な赤。いいかもしれません!」


 一九は弥次郎の案を採用することにした。

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