春ノ巻 穴見と花見 15
翌朝、一九はあてがわれた部屋で、目を覚ました。一九の部屋は屋根がないということもなく、床板も
布団を
一九が覗くと、お六が付喪神たちに指示を飛ばして
あまりに予想外の光景に、一九が
「おや? おはようござりんす、一九さん」
「おはようございます、お六殿。すごい光景ですね」
「指示さえすれば、
「そうさせていただきます」
するとそこへ、見越が首だけやってきた。
「お六~、茶をくれ~」
「先に顔を洗ってきなんし!」
「ぶっ!」
手ぬぐいで顔を
(かかあ天下だなぁ)
夫婦のやりとりに、一九は笑いをこぼさずにいられない。
一九が大人しく居間で待っていると、顔を洗ってきた見越と、雑鬼たちを連れた鎌鼬がやってきた。
「おはよ」
「おはようございます、鎌鼬殿。猿鬼と蛇鬼、球鬼もおはようございます」
「「「おはよー、いっきゅー」」」
一同は昨日と同じように席について、食事をとる。
「一九、鎌鼬。飯を食い終わったら、穴見に行くぞ」
「わかりました」
「あちきはお弁当を作ってから行きんすので、先に行っていてください」
「うむ。弁当、楽しみにしておるぞ」
食事を終え、男たちだけで
その際に、雑鬼たちが一九の上に乗ることに、一九は文句を言うことを
「では、参るぞ!!」
「いや、戦じゃないんだからさ。そんなに、気張らなくても良くない?」
鎌鼬の突っ込みにも、見越には聞こえていないようで、意気揚々と歩いていく。そんな見越に半ば呆れながら、一九と鎌鼬は続いた。
見越に案内されてやってきたのは、見越の屋敷よりも更に奥の、山に近い部分だった。そこには見越がぎりぎり通れるくらいの穴が開いていた。
「これは
「そうじゃ。ほれ、中に入るぞ」
見越の後に続いて、ぞろぞろと中に入る。
「おぉ!」
そこは
中にはすでにたくさんの妖怪たちがおり、小さなろうそくの火が揺らめき、妖怪特有の不気味さを増している。
(せめて顔の真下ではなく、もう少し放して持てば、そこまで怖さはないのですがね)
「ほら一九。持ちなよ」
「あ。ありがとうございます」
一九が考えている間に、鎌鼬がろうそくを用意してくれて、手渡してきた。
一同は広げた茣蓙の上に座る。近くでは、すでに別の妖怪集団が
「良い穴じゃ!」
「大きくて、暗くて、よい穴じゃ!」
「わしゃあ、もっと小せぇのがええのぉ」
口々にそう言いながら、妖怪たちは小さなろうそくを輪の中心に置き、重箱を広げて弁当を食べていた。
「小せぇのがいいなら、この奥にあんべ。食い終わったら行きゃいいさ」
「おお! そうか、そうか。それならええ。穴見は、いろんな穴を楽しまなきゃなぁ!」
妖怪らの言葉を聞いて、一九は顎に手を当て、指先で
(あなみって、穴を見ると書いて、穴見なんでしょうか。人間が桜を見て楽しむように、妖怪たちは暗い穴の中で、いろんな穴を見て騒ぐ。人間は絶対にしない行事ですね。そもそも身近にこんな洞窟なんてありませんし)
「う~む。お六はまだかのう?」
「もうすぐじゃない? というか、外で待っててもよかったじゃん」
そう言いながらも、鎌鼬はどこか、そわそわと落ち着きがない。
「鎌鼬殿? どうされたのですか?」
「俺、
一九は鳥山石燕の『画図百鬼夜行』を思い出す。
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