春ノ巻 穴見と花見 14
「す、すごい……
江戸の
一九の場合、家主である
「そう? まあ今日は普段より、ちょっと豪華だけど。あまり大差ないよ?」
鎌鼬の言葉に、一九は
(食生活は江戸の庶民よりも豊かなようですね。まぁ、かなり大きな田畑もありましたし)
一九がいろいろと考えている横で、鎌鼬はふりふりと
「一九もほれ。とっとと座らんかい」
「あ、すみません!」
見越に言われて、一九は空いた膳の前に座る。ちょうど、見越の正面に当たる席だった。
「それじゃあ、いただきます!」
「「いただきます」」
全員で手を合わせ、
一九はまず、味噌汁を口に含んだ。ちょうどよい
箸で持てる程度の
「お味はどうでありんす?」
「とても
「江戸では、そんな
「あ、いえいえ」
お六が心配そうな顔をするので、一九は首を横に振って否定する。
「私は雇い主が気を使ってくれているので、栄養のある食事をさせていただいています」
「俺、たまに箱根の宿場町に行くけど、旅人の話だと、江戸って栄えている分、
「えぇ。私も雇い主に拾われるまで、ずいぶんと貧しい暮らしを送っていました」
一九が江戸に来た頃は
(本当に、あそこで重三郎さんに会えてなかったら、私は死んでいたでしょうね)
食事が終わると、お六が食後のお茶を淹れてくれた。食べ終わった膳は、突然目が現れて、自分たちの足で、
「い、い、今のは?」
「
お茶をすすりながら言う鎌鼬に、一九は考えが追いつかず、「先に言ってください」と
「一九よ」
「はい?」
そんな一九の様子を気にもとめず、見越は一九に声をかける。一九は
「明日はお前を、穴見に連れて行ってやろう」
「あなみ? それはいったい……?」
見越が何を言っているのかわからず、一九は首を傾げる。
「うたげだよ!」
「みんなで、あなのなかで、さわぐの!」
「おっきいあなをみつけて、みんなでよろこぶんだぜ!」
猿鬼、蛇鬼、球鬼の順で説明をしてくれるが、一九は余計に混乱した。
(何も説明になってないんですが……。とりあえず、穴の中で騒ぐことしかわからない)
「行けばわかる! 我らの春の行事だ!」
一九が困惑しているのがわかったのか、見越がそう言った。
「なるほど。人間とは全く異なる行事ですね。これぞまさしく、私が望んでいた行事。瓦版に書くにはもってこいです! 明日を楽しみにしております」
一九はにっこりと笑った。その時、鎌鼬が一九に顔を向けた。
「そういえば、一九。妖怪の里があるって
「おぉ! そうじゃな。当事者であるわしらを、一九がどのように書いたか気になる。ぜひ、持ってきてくれ!」
「わかりました。次来るときから持参するようにしますね」
一九は鎌鼬と見越の提案にうなずき、瓦版を持ってくる約束を交わした。
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