春ノ巻 穴見と花見 13
一通り里を回り終え、見越の
「正直、意外でした」
「なにが?」
「私は人間なので、
一九の言葉に、雑鬼たちが彼の顔をのぞき込んだ。
「いっきゅーは、きらわれてないぞ?」
「みんなさいしょは、にんげんがきたことに、びっくりしただけだよ」
「いじわるしてくるにんげんはきらいだけど、いっきゅーのことは、きらいじゃないよ?」
彼らの言うことに、一九は目を丸くした。
「そうなのですか? というか、意地悪してくる人間とは?」
「たまに
「そうなんですね……。ですが私は、皆様が悪だとは思いません!」
「わかってるよ。だから、あえて里まで来させたんだよ。悪人だったら、里に
「え? そうなんですか? てっきり私は道に迷った
「頭領が俺の報告を聞いて、面白そうだと言ったから、一九は里に来れたんだよ。感謝してよね」
「そうでしたか。それは、ありがとうございます。おかげで箱根の先に妖怪の里があったという
一九は拳を握りしめ、やる気を見せる。すると猿鬼が一九の顔を覗き込んだ。
「なぁなぁ、いっきゅー」
「ようかいが、だいざいのものに、ぼくたちはいる?」
「おれたちのすがた、かかれてる?」
「残念ながら、書かれてていませんね」
「「「えー」」」
3匹は不満そうに、声を上げる。それに鎌鼬が肩をすくめた。
「むしろ、なんで書かれていると思った。お前らみたいな雑鬼が、書かれるわけないだろ。あったとしても、
「あ、はははは」
あまりにも的を射た発言だったので、一九は笑った。
「ただいま」
「「「たっだいまー!!」」」
「ただいま戻りました」
見越の家に戻ってきた一行は、それぞれ帰宅を知らせる声をかけながら、
「おかえり、お前たち。ちょうど
「おいら、おなかすいた!」
「ぼくも!」
「おれも!」
今すぐ飛んで居間に行こうとする雑鬼たちを、鎌鼬がむんずと掴んだ。
「その前に手を洗う」
「「「は、はーい……」」」
鎌鼬に
「手を洗ったら、居間にきておくんなし。先に準備しておきんすから」
「はい」
お六はしゅるしゅると首を縮めて、戻っていく。
鎌鼬は土間の
「ほら、一九も」
「あの、手を洗う時というのは、神社仏閣の時だけでは?」
「はぁ?」
鎌鼬があからさまに
「ご飯を食べる時に手を洗うのは当たり前でしょ? いいからこれを持って、手を出す!」
鎌鼬から渡されたのは草だった。一九は
「それは薬草で、汚れを落としてくれるの。柄杓から水を落とすから、それで手をこする!」
「は、はい」
一九は鎌鼬に言われたように、草を両手の平でこすって洗い、汚れを落とす。その後、鎌鼬も手を洗い、一同は居間に向かった。
「待ちくたびれたぞ!」
「すみません。お待たせいたしました」
居間では、すでに人数分の
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