春ノ巻 穴見と花見 11
やってきた三ツ目
「わしはおぬしに、
「カア?」
三ツ目鴉は、首を
「それみなさい!」
ばちんっと、見越の
「痛いではないか!」
「お黙りなんし!」
お六に叱られ、見越は
夫婦のやりとりと見ていた一九は、思わず口から「あはは」と乾いた笑い声をもらした。
(見越殿は、頭領と言う妖怪の皆様を束ねるお立場でいらっしゃるのに、扱いが雑な気がしますね。でも夫婦仲が良いのは良い事です)
一九がそんなことを思っていると、見越は一九の横にある
「ところで一九、その風呂敷包みの中はいったい、何が入っておるのだ?」
「あぁ。これは」
「てみやげだって!」
「たけのこだって!」
「おっきいんだって!」
一九が答える前に、雑鬼たち3匹が口々に言う。一九は苦笑してうなずいた。
「雑鬼たちに言われてしまいましたが、今回の手土産は、筍を持参いたしました」
「ほう! 筍か!」
「一九さん、それを見せておくんなし」
お六に言われて、一九はお六の前で風呂敷を広げた。ごろごろと出てきた皮付きの筍を、お六は一つ一つ手にとって、
「うん。これはなかなか、いいものでありんすね」
「そうか。ならばお六!」
「あちきに任せておくんなし。とびっきりの料理をお作りんす」
「「「やったー!!」」」
「楽しみにしておるぞ!!」
「頭領も雑鬼たちもうるさい」
飛び跳ねて喜ぶ雑鬼たちと、大声を出す見越に
「そんなに喜んでもらえると、持ってきたかいがありました」
見越たちの喜び様に、一九はホッと安心したように息をついた。
「一九よ!」
見越はぐいっと、一九に向けて首を
「里にいる間は、この家ですごせ! 鎌鼬、世話をしてやれい!」
一九にとって、宿代が浮くので、とてもありがたい話ではあったが、申し訳なさの
「泊めてくださるのは、とてもありがたいのですが、ご
「別にいいよ。世話って言うほど、世話はいらないでしょ? 子どもじゃないんだし」
「それは
見越や鎌鼬の言葉に甘えていいのか悩んだ一九は、お六に視線を向けた。困り顔の一九に、お六はからからと笑う。
「あちきも、反対はしんせん。宿場の宿を利用していては宿代が
「ありがとうございます。それでは、お世話になります」
お六に説得され、一九は見越たちに深々と頭を下げた。
一九は改めて、
見越とお六が住む屋敷は、屋根は所々に穴が開いており、床板の
「あの、大変失礼なのは
「なんだ? 言ってみろ」
一九がおずおずと手を挙げると、見越が話すよう促した。
「なぜこのような、あちこち壊れた屋敷に住んでおられるのですか? その、人が住む家とはお
一九は言葉をにごしつつ、疑問を口にする。すると、
「「あははははっ!!」」
見越とお六が、腹を抱えて笑い出した。
一九が「え? え?」と混乱する中、笑いすぎて出てきた涙を
「あちきらは人間じゃのうて、妖怪でありんすよ?」
「わしらは人間が好むような、
「そういうものなのですか」
一九が興味深そうに呟くと、鎌鼬が口を開いた。
「他にも、妖怪と人間で違いはあるよ」
一九の視線が鎌鼬に向けられる。
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