春ノ巻 穴見と花見 10
そこにあったのは、里の中でも一番大きな
(
一九がそんなことを思っている中、鎌鼬は「頭領」と声をかけながら、家に上がる。
「頭領、一九が来たよ」
「なに!?」
バキッ!
鎌鼬の声に、見越入道は
「ちょいとお前様! 襖を壊すんじゃないと、何度言ったらわかるのでありんすか!?」
奥の方から、女性の首が
「す、すまん。お六」
見越が長い首をぎゅっと
一九がぽかんと、二人のやりとりを見つめていると、首だけの女性妖怪の顔が、一九たちに向けられる。
「おや。鎌鼬に雑鬼たちじゃありんせんか。よう来んした。そこのお人は、見ない顔だねぇ……あんたは、人間かい?」
「お六、前に話しただろう? こやつが一九だ」
見越に
「こちらから
「あぁ、主さんが。ちょいとお待ちになっておくんなし。今、体に戻りますので」
そう言って、お六はしゅるしゅると音を立てて、首を引っ込めていく。
少しして、青い
「お待たせいたしんした。あちきが見越入道の妻、お六いいます。ろくろ首のお六。どうぞよろしゅう」
「い、いえ! こちらこそ!」
一九はぺこぺこと、何度も頭を下げなら、お六を見つめる。
お六は首さえ
「さあ、中へお上がりなんし。
「お
お六に
「すぐに、お茶を出ししなんす」
「俺も手伝うよ、
そう言って、鎌鼬は
部屋に残された見越と一九。部屋の
「この
「気にするな。仕事があったのだろう? 一九こそ、遠路はるばるよく来た」
見越は、「がははっ」と笑う。
「お待ちどうさまでござりんす」
「ありがとうございます。いただきます」
一九は早速、お茶に口をつける。山道を登ってきた体に、お茶が
一息ついたところで、お六が話を切り出した。
「あんさんは、あちきたちの、生活や行事なんかを書きたいのでありんしたね」
「はい。人間と妖怪の行事の違いなどを、書きたいと思っております」
「ふーん。そうでありんすか」
お六は
ぎょっとして一九は、鎌鼬と見越に助けを求めるような顔を向けるが、二人そろってそっぽを向いていた。
お六はぐっと顔を、一九に近づける。美人が怒ると、かなりの
「それにしては、うちの人が文を送ってから、来るのにずいぶんと時間がかかりましたなぁ。すぐに来なかった理由は仕事なのでありんしょうが、文を送り返す礼儀すら、今の人間は持ち合わせてすらございんせんの?」
お六は目を細め、
「あ、姐さん。一九が頭領からの
「どういうことでありんす?」
鎌鼬の言葉に、お六は
「頭領、三ツ目
鎌鼬が差し出した一九
「なんでありんすか、この汚い字は。内容も全く伝わってきんせん」
お六は首を戻すと、額に手を当てて、もう一度ため息をついた。
「
「んなっ!? なんでそうなるのだ!」
見越が反論すると、お六がきっと見越を
「こんな訳のわからない文を送って、挙げ句の果てに三ツ目鴉に、返事をもらってくるよう
「そ、そうであったか?」
見越は指笛を吹いて、三ツ目鴉を呼んだ。
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