春ノ巻 穴見と花見 8

「元はと言えば、一ツ目地蔵の境界付近きょうかいふきんにいたお前らが悪いだろ」

「「「うっ」」」

 鎌鼬の指摘してきに、小さい体をさらちぢこませる3匹。いかりをにじませる鎌鼬を、一九はなだめる。


「まぁまぁ鎌鼬殿。彼らはまだ子どもですし」


 鎌鼬はため息をつくと、3匹について説明をしてやった。


「こいつらは、雑鬼ざっきっていう種族で、一生、子どものままなんだ。大きさも、精神もね」

「なるほど。いたずらっ子なのも、そのせいですか?」

「そんなかわいらしいもんじゃないよ。ただの悪ガキ3匹だ」


 鎌鼬のしぶかおを見て、よほど手を焼いているんだな、と一九は思った。


「そういえば、まわしておきながら、名乗っていませんでしたね。私は一九いっく。数字のいちきゅうで、一九と申します」

「じゃあ、いっきゅーだな!」

「いっきゅー、いっきゅー」

「いっきゅーできまりだな!」


 正確な名前を教えたにも関わらず、「いっきゅー」呼びが彼らの中で瞬時しゅんじに定着してしまい、鎌鼬の言った悪ガキ3匹と言う理由が分かった気がした一九であった。


「とりあえず、お前たちも名乗ったら?」

「そうだった」


 鎌鼬に言われて、3匹は一九の前に並ぶ。

「おいらは猿鬼えんき!」

「ぼくは蛇鬼たつき!」

「おれは球鬼きゅうき!」

「きみたちは、見た目そのままの名前なんですねぇ」

「ぶっ」


 一九が思わず感想をこぼすと、それを聞いた鎌鼬が吹き出した。猿鬼は怒ったように、一九を指差した。


「それより! いっきゅーはなんで、もっとはやくこなかったんだよ!」

「もうこないかとおもった」

「まちくたびれたぞ」

「来るのがおそくなりすみません。仕事があったもので」

「そっかー。それはしかたないな」

「でも、とーりょーが、ふみのへんじがこないって、おこってたよ?」

「三ツ目鴉は、私に文をわたしたらすぐに帰ってしまい、文を送れずにいたのですよ」

「なーんだ。やっぱり、とーりょーのうっかりだったんだな」


 見越が何かをやらかすのは日常茶飯事にちじょうさはんじのようで、雑鬼たちも納得し合っている。

「ごほんっ」と鎌鼬が咳払せきばらいをする。ようやく鎌鼬の笑いがおさまったようだ。


「俺たちはこれから、頭領の家に行くけど、お前たちはどうする?」

「「「いくー!!」」」

「え!? ちょ、ちょっと!?」


 雑鬼たちは、大きく飛び上がり、一九におそいかかる。一九はたけのこを守ろうとするが、それより先に、鎌鼬が筍の入った風呂敷包ふろしきづつみを、一九から取り上げた。


「いてっ!」


 結果的に、一九は地面にたおれて、しりを強く地面に打ち付けた。


「しっかりしろよ、いっきゅー」

「だいじょうぶ?」

「こんなことで、たおれんなよなぁ」


 猿鬼は頭の上に乗り、蛇鬼は右肩。球鬼は左肩に乗って、軟弱なんじゃくな一九にあきれる。一九は口をとがらせた。


「なんで急に私に、襲いかかるんですか」

「いっきゅーにのったほうが、らくだもん」

「ぼくたちのあしのはやさじゃ、おいてかれちゃう」

「だから、いっきゅー おれたちの、あしとなるのだ!」

「「なるのだー!」」


 一九はため息をついて立ち上がり、うらめしそうに鎌鼬に視線を向ける。


「なぜ助けてくださらなかったのです?」

「助けたじゃん。筍を」

「いや、そうではなく、私を」

「せっかく質のいい筍なんだから、きずをつけるわけにはいかないでしょ」


 一九の言葉をさえぎり、鎌鼬は大事そうに風呂敷を抱え直した。筍と聞いて、雑鬼たちもひとみを輝かせる。


「たけのこ!?」

「ねえさんに、りょうりしてもらおう!」

「わーい! たけのこだー!」


 3匹は一九の上で、うれしそうにねる。

「いたっ。こ、こら! やめなさいっ!」


 一九が注意すると、飛び跳ねるのをやめて、今度はばしばしと、一九をたたく。


「いっきゅー、はやくあるけ!」

「はやく、とーりょーのいえに、いこう!」

「たけのこをもって、ゆくのだー!」

「そうだね。こっちだよ」


 雑鬼たちのかけ声に、鎌鼬が歩き出す。

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