春ノ巻 穴見と花見 5
一九がやってきたのは、運河が流れる
「こんにちは、
「一九先生じゃありませんか! 勿論、やってますよ。ささっ、どうぞどうぞ」
天ぷら屋台の店主、善哉に
「今日は、なにがありますか?」
「ちょうど物を仕入れたばかりなんで、なんでもありますぜ。一九先生が好きな白身魚も!」
「なら、それをください」
「あい! 少々お待ちくださいね!」
注文を受けた善哉は、魚を慣れた手つきで素早く
「ほい! お待ちどうさま」
「ありがとうございます」
揚げたての天ぷらを受け取り、代金を支払う。
「うーん! この魚のぷりっぷりとした身に、油っこすぎない
「ははっ。先生に喜んでもらえて、なによりです。他のも、どうですかい?」
「じゃあ、次は穴子をお願いします」
「はい!」
善哉に新しく穴子を揚げてもらっている間、一九は白身魚の天ぷらを、はふはふと言いながら、味わって食べる。
「穴子、揚がりましたよ!」
「どうも」
一九は善哉が差し出した穴子の天ぷらを、受け取った。
穴子を食べながら、一九は妖怪の里に行くときの手土産を何にするか、考えていた。
「善哉さん。この時期の
「この時期だと……あ、いいのがありやすぜ。野菜なんで、
そう言って、善哉は何かを揚げ始めた。
「できましたよ。さ、どうぞ食べてください」
「いただきます」
一九は善哉がくれた精進揚げを口にする。
「これは……
「さすが一九先生。その通り!」
善哉は得意げに笑った。一九はまじまじと、筍の精進揚げを見る。
「精進揚げは、今までも食べたことはありますが、筍は初めて食べました。こんなにおいしいものなんですねぇ」
「
「なるほど」
妖怪の里への土産は、今回は筍になりそうだと一九は思った。
「筍って、日持ちしますか?」
「手を加えなければ持ちますぜ。今の時期は、そんな暑くありませんし。どっか行くんで?」
「はい。
「え!? 一九先生、瓦版を書いたんですか!? 言ってくれれば俺、買いに行ったのに!!」
「新しく
「お、店……。一九先生はいますか?」
「どうでしょう。明日には
「な、なるほど……。怖い、ですが、先生の瓦版を読みたいので、買いに行きますね!」
実は善哉も蔦屋が怖いのだが、それよりも一九の書いた瓦版を読みたいと思ったのか、力強くうなずく。
「で、どんな話を書いたんです?」
「妖怪ものですよ。でも、
「そいつはいい。必ず、買いに行きますね」
善哉はにかっと笑った。それに一九も微笑み、
「お腹も
一九は桜見物のついでに
「な、なんですか、この人混みは……」
予想以上の人の多さに、一九は
どこを見回しても、人、人、人。桜の数より人が多い。しかも目当ての甘味処は、大行列を
「せっかく来たのに、これではゆっくり花見をすることも、甘味を食べて帰ることも無理そうですね。今日は、家でまったり、いや、湯屋にでも行きましょうか。あんみつ、食べたかったなぁ……」
一九は、はぁっと深くため息をついて、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます