春ノ巻 穴見と花見 3
佐吉は一九の背中をバシバシと
「一九先生、これはいい機会ですよ!
「え、えっと……は、
「ちょいちょい先生、それじゃあだめだって!」
妖怪好きの男が、自分が買った瓦版を
「ほらほら! みんな見てみろよ! 妖怪の里は、『箱根よりこっちに野暮と化物はいない』の諺通り、箱根の先にあったんだ! それに、売れればこれの続きが出るんだ! 俺は続きを読みたい! だから買ってくれ!!」
「内容も、簡潔に
「絵もすごく
彼ら3人の協力もあり、
「ご協力、感謝します。おかげですべてを売り切ることができました」
「いいって。代わりに、続きを楽しみにしてるから、今後も
「あ、ありがとうございます! 頑張ります!」
3人とはその場で別れ、佐吉と一九は蔦屋の店に戻り報告した。
「戻ったわね。どうだった?」
「実は小説のネタをくれた方々と出会いまして、彼らのおかげで無事に完売することができました! 今でも
一九は
「佐吉には手伝ってくれたお代だよ。それと、今回の瓦版を追加で刷っておくれ。そっちは店に置いて、
「あざます! それじゃ、また出来上がったら持ってきますので!」
蔦屋からお代を
そんな佐吉を見て、蔦屋は
「もう! 取って食うわけじゃないんだから、逃げなくてもいいじゃない!」
「重三郎さんは怖いですから、仕方ないですよー」
「うるさい!」
「いたっ!」
蔦屋に
「あぁ、そういえば。あんた
「文ですか?」
一九は、蔦屋が差し出してきた文を受け取る。
「
文には一九と別れた後のことが書かれていた。
出会ってすぐの
「よかった。弥次郎さんの旅は、順調のようです」
「あぁ。箱根まで一緒に旅をしてたお人からかい?」
「はい。彼との旅は、本当に楽しかったです。よい経験をさせてもらいました」
一九は弥次郎との旅を思い出し、
「その楽しかったっていう、自分の気持ちを忘れるんじゃないよ。物語を書くうえで大事なのは、楽しむ心だ。四苦八苦して生み出したものは、それだけつまらないからね」
「む、胸が痛いです……」
売れない
「いっ!」
「
「こ、怖いこと言わないでくださいよ」
蔦屋はずいっと一九に顔を寄せる。
「これは
「だったら近々、妖怪の里へ取材をしに行かないと」
「……本当に、妖怪の里はあったの?」
蔦屋はどうしても、一九が言う妖怪の存在も、そして彼らが住む箱根の先にある妖怪の里の存在も、信じられずにいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます