春ノ巻 穴見と花見 2
「すんませ~ん。
翌日、
「あ、佐吉さん。わざわざありがとうございます」
一九は完成した瓦版を受け取った。
「じゃ、俺はこれで」
「お待ち、佐吉」
蔦屋に声をかけられ、佐吉はビクッと肩を
「一九と近くの
「え? 店に置いて売らないんすか?」
「当然、店でも取り扱うけど、瓦版は辻道に立って
「は、はい。わかりました」
一九と佐吉は瓦版と
「これ……売れるんでしょうか? 誰も興味なくて足を止めてくれない気がします……」
「いや、自分で書いた話でしょう!? なんでそんな不安がっているんですか!」
一九は不安そうに、地面を見ながら、とぼとぼと歩いている。佐吉は頭を抱えた。
(こりゃ、確かに一九先生一人じゃ、売れそうもねぇや)
佐吉は一九の背中を勢いよく、ばしんっと叩いた。一九は思わず前のめりになる。
「い、いきなり何をするんですか!?」
「気合を入れてあげたんすよ。いいすっか、一九先生。瓦版を売るのに重要なのは、口上です! 大きな声で口上を言うことで、通行人の気を引くんです。俺が実践するんで、一九先生はそれを参考にしてください」
「は、はい。ありがとうございます、佐吉さん。ご
辻道に踏み台を置いて、その上に立った佐吉は大きく息を吸い込んだ。
「さぁさぁ道行く
「妖怪の里だって!?」
『妖怪』の言葉に反応してやってきたのは、いつか一九が湯屋に行った時に、「箱根よりこっちに野暮と化物はいない」と言っていた、怪談物が好きな男とその連れの2人がいた。
「兄ちゃん、売ってくれ!」
「はいよ!!」
佐吉は男に瓦版を差し出し、代金を受け取った。
「ほら見ろ! やっぱり妖怪の里は、箱根の先にあったんだ!」
「どうせ、創作だろ?」
「でも、ずいぶんと絵が上手だねぇ」
「ありがとうございます」
絵を
「実はそれを書いたのは、私でして」
「え!? 書いた本人が売ってるのかい!?」
「なぁ! これ、続きはあるのか!?」
「あ、いえ。これが第1話で、完売するほどの人気がでれば、瓦版で
「ならお前らも買え!」
「なんでだよ。いや、まぁ、作者本人を前にして買わねぇのも失礼だもんな」
「私は絵が気に入ったよ。今にも動き出しそうじゃないか」
怪談好きの男が、仲間たちにも半ば無理やり買わせる。
「なんだなんだ?」
「瓦版かしら? でも、最近は事件なんて、なかったわよね?」
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