旅ノ巻 箱根の先へ 12
「ほう。わしを知っているのか。いかにも。わしが見越入道だ」
「
「わしの姿絵があるのか!? 石燕のやつ、よく残してくれたものだ」
見越は嬉しいのか、照れた様子で今度は自分の頭をぺたぺたと、触っている。
「頭領。なに喜んでんのさ」
遠巻きに一九と見越入道の様子を見ていた妖怪たちの中から、額に
(こんな青年姿の妖怪は、あの中にいませんでしたね。変化が得意な化け狸? いやでも、牙も鋭くて鎌を持っていますから、もしかしたら
「ねえ、俺のこと、何の妖怪かわかる?」
「え? えーっと、鎌鼬殿、ですかね?」
一九は自信なさそうに答えると、青年は目を細めにぃっと笑った。
「すごいね。よくわかったじゃん。石燕はこの姿の俺を、描いていたりするの?」
「いえ。鎌鼬は手が鎌になった
「ありゃ。うっかりしてた」
鎌鼬は自分の腰の鎌を見て、頭を
「まあ俺のことはいいや。で、結局お前は、何をしにここに来たわけ?」
「あ、はい。私がここに来た目的は、皆様方、妖怪を題材にした物語を書くためです」
「物語だぁ?」
一九の言葉に今まで、でれでれと照れていた見越が
「実は私が世話になっている人間は、版元を営んでおりまして。その方のもとに
「何その人間。お前、よくそんな人間の所にいられるね」
鎌鼬はどこか哀れむように、一九を見た。
「いろいろと、あるんです。そう、いろいろと……」
「……なんか、ごめんね」
突然、一九の目が遠くを見始めたので、鎌鼬は思わず謝った。一九は首を振ると気持ちを切り替えて、鎌鼬を見つめる。
「それで箱根まで足を運んだのは、江戸の
「いる確証もないのに、そんな諺を信じでここまで来たわけ? え? 馬鹿なの?」
鎌鼬の正直な言葉に、一九本人は怒るどころか、「いやぁあはは」と笑った。
「自分でも少し
「あんた、
鎌鼬は一九に同情の視線を向ける。元々、彼は根が優しいのだろう。一九は鎌鼬の優しさに微笑みを浮かべた。
「……お前はわしらが恐ろしくないのか?」
見越の言葉に、一九は改めて見越を上から下まで
「
「わしらより妖怪じみた? そんな人間がいるわけがなかろう」
見越の目は、「そんなわかりやすい
「いえいえ。これが実在するのです。ご自分の目で確かめていただきたいくらいです」
「そ、そんなにか?」
妖怪たちはざわざわと、
「我たちより恐ろしいとは、どんなやつだ? よもや
「あ、あのような奴らが、ごろごろ居ては、たまったものではないぞ!」
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